表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から君を取り戻す  作者: 佐央 真
第四章 人形妖魔
30/30

戦いの前に

 気づけば夕日がのぼっていた。

 辺りは暖色系に染まろうとしていたが、やはり雲行きが怪しくなっていき、おそらく夜を迎える頃には月など覆い隠されていることだろう。

 ここまでされると、これも妖魔の仕業なのだろうかと思ってしまう。

 そこまで出来る程、強大な敵なのだろうか?


 「私の双剣は、間に合いそうか?」

 「……」


 部屋に戻ってすぐ、いつなは璃羽の双剣に改良を加えていた。

 しかし急ぐとはいえ、どうも気まずい空気が流れている。理由は分かっている、一人で影早に接触したことだ。


 「何でそんなに怒ってるんだ? 何事もなかったんだし、別にいいじゃないか」

 「……」

 「そりゃあ、結局何も聞き出せなかったけど、まだチャンスはあるだろ? ……その、返事、待ってるみたいだし」

 「……また一人で行くなんて言うなよ」

 「んなっ、だって返事するんだぞ! ……ついてこられたら、恥ずかしいだろ」

 「はぁっ!? あんなの、お前が龍姫だから近づいたに決まってんだろ! 本気にしてんじゃねぇよ」

 「そっそうなのか!? ……でも、影早は真面目だし、そんなタイプじゃあ……」


 もじもじと体をねじりながら、薄ら頬を染めて話す璃羽。

 完全に乙女に成り下がっている彼女に、いつなは苛々しぱっなしで更に機嫌が悪くなり、とうとうそんな様子を見兼ねた嶺鷹がようやく口を挟んできた。


 「どちらにしろ、姫にその気はないのであろう?」

 「えっ、まぁ……そうだけど」

 「ならば何も問題はあるまい? 私も勿論だが、少なくともいつなは必ず同行させる。最終的にあなたを守れるのは、彼なのだから」


 その言葉を聞いて、璃羽は途端に冷静さを取り戻したようにハッとした。

 そうだ、どんなことになっても最後の最後まで守ってくれるのは、いつなだ。ずっとそうだった。

 その信頼は、影早ではとても手にすることは出来ない。


 ーーいつなだから出来るもの


 「……そうだな、いつなしかいない」


 璃羽は小さく微笑むと、そっと胸に手を当て、こちらを向いているいつなと目を合わせた。

 彼を思うと、影早にはない温かさが込み上げてくる。

 いつながいればきっと大丈夫、そう思えるのだ。


 「うん……いつなとは、ずっと一緒だ」

 「当然だ。お前、危なっかしいんだからな」


 先程とは違う璃羽の穏やかな声に、いつなも機嫌を取り戻し、照れ隠しなのか作業に戻るように後ろ姿を見せると、ぶっきら棒でありながらも優しく言葉を返した。

 そんな二人にやれやれと思いながら、嶺鷹は窓の外を睨む。


 「もうじき夜が来る」


 戦いが始まる。



 空全体が暗い雲に覆われ、予想通り月の光が全く見えない夜。

 塔の上で松明を燃やし、璃羽たちは妖魔を探した。

 結局、弦是を見つけることも出来ず、例の娘の話も聞けずで、牛司との溝を埋めることは叶わないまま、ギスギスした状態で共にいる。


 「里から出ていけと言っただろ?」

 「それで出ていくぐらいなら、最初から来ていない」


 お互い辺りを警戒しながらも、売り言葉に買い言葉を浴びせ、挑発し合う。

 それを巾着袋の中から聞いているいつなとしては、どうしたものかと思うが、影早と二人にさせるよりかは遥かにマシだと思う。


 「今日は洞窟の警護じゃないんだな?」

 「お前がいるせいだ。守るよう言われた」

 「それは頼もしい」


 側には嶺鷹も影早もいるが、やはり心強い。

 人形妖魔が現れたことで、龍姫である璃羽のところへやってくると考えたのだろう。

 塔の上には、他に最小限の男たちがいるだけで、長老たちは他の民たち同様に洞窟へと避難していた。


 「弦是を連れてくることが出来なかった私は、攻撃されるだろうな」

 「だから出ていけと言ったのだ」

 「お前が何も吐かないのがいけないんだ。今からでも喋る気はないのか?」

 「……」


 どうやっても頑なに口を割らない牛司に、璃羽はため息をついた。

 これはもう直接、妖魔に聞く方が早いだろう。

 そんなことを考えていると。


 「璃羽、現れたぞ」


 いつなの声がイヤーカフを通じて聞こえた。

 塔の下を覗き見ると、そこに人形妖魔が一人で現れる。

 昨晩のような大群の妖魔は従えていない、妖魔は静かに佇んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ