苛立ち
「かっ影早、とにかく、そのっ離してくれないか」
「返事を聞くまで、離しません。姫……答えて下さいませんか? 俺は貴女のことが、知りたい」
影早の言葉に、璃羽は余計に動けなくなった。
今までこんなストレートに気持ちを伝えてきた人などいない。
例の娘の話は聞きたいが、影早の気持ちを利用していいものなのだろうか?
ーーそりゃあ影早は真面目だし、頼りになりそうだし。おまけにイケメン……というより美少年だし。私からしたら、寧ろ勿体ないくらいの人だ。
でも……
「影早、私は……」
璃羽は両手をゆっくり前へ動かした。
やっぱりその気もないのに、彼の大切な気持ちを踏み躙ることはいけないことだ。
璃羽はちゃんと今の気持ちを伝えた上で、話を聞き出そうと決め、口を開いた。が、その時。
「ーーまずは姫から離れて貰おう、影早殿」
影早の背後から、突然キラリと刀の刃が光り、彼の首へとヒタリと当てられた。
全く気づきもしなかったが、その瞬間から恐ろしい程の殺気がヒシヒシと漂ってくる。
鋭い目をした銀髪の男、嶺鷹が今にも影早の首をはねんとしていた。
「嶺鷹っ!?」
「影早殿、この方はそう易々と触れていい方ではない」
嶺鷹の殺気に当てられ、影早の腕から力が抜ける。
その隙に璃羽は素早く彼から離れると、あからさまに嶺鷹の後ろに回り隠れホッと息をついた。
助かった、と思う半面、じとっと嶺鷹を睨む。
ーー易々という割に、お前は易々と抱き上げて私を塔から落としてくれたが?
「……申し訳、ありません」
苦々しく顔を歪ませながらも、影早が謝罪の言葉を出すと、それを聞いた嶺鷹は静かに刀を鞘に収めた。
しかし影早は納得していないようで、案の定続ける。
「けれど、俺は本気です。諦めるつもりはありませんので。姫……返事を待っています」
「……影早っ……」
嶺鷹の前でも堂々と宣言して、影早はその場を去っていき、そんな紳士的な彼に、璃羽は少なからずもドキッとした。が、
「おい……俺は忠告した筈なんだが?」
「うっ。この声は……」
怒りで物凄く低い声を出す、途轍もなく聞き慣れているそれが嶺鷹の肩から聞こえ、そこから現れた小動物に、璃羽はヒッと思わず小さな悲鳴をあげた。
もしかしたら殺気の半分は、こいつからかもしれない。
「いつな……お前も来てたのか?」
「馬鹿なのか! 何で勝手に一人で出ていったんだ!?」
「だって、そうやって止めるからだろ」
「当たり前だ!」
いつなは怒鳴って尻尾をピンと立てた。
どうにも気持ちが収まり切らない様子で目をつりあげていると、彼を抑えるように嶺鷹が振り返り割り込む。
「少し落ち着け。怒り過ぎた、いつな」
「お前こそ落ち着き過ぎなんだよ! 何で知ってて止めなかった!?」
「えっ! 気づいてたのか、私が抜け出したこと!?」
璃羽が驚きながら訊ねると、当然とばかりに嶺鷹はこくんと頷いた。
「姫の力量は、戦闘時に理解していた。目的も大方分かっていたし、気配を辿れる範囲内であれば問題はないだろうと判断したのだ」
「気配を辿れる範囲内って……」
ーーだいぶ離れていた気がするが……
「それに、刀をいつなに預けていたのでな。それが終わるまでは、この耳飾りで様子を窺うことにした」
「おかげでめちゃくちゃ急いだがな!」
いつなの刺々しく言う文句が突き刺さりもするが、嶺鷹の能力を侮っていた事実に、璃羽は内心悔しさを覚えた。
本気で蒔いたと思って、影早に自慢までしてしまったのだーー正直、恥ずかしい。
更には影早との会話も一部始終聞かれていたことも、顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。
きっと聞いていたいつなからしたら、さぞかし笑いのネタになっただろう。
ーーうぅ、悔しい……!
だが一方で、いつなの怒りも収まらなかった。
危険なことだと分かっていた筈なのに、璃羽を影早と二人きりにし、あまつさえ璃羽にあんな触れ方をしてくるなんて。
「ふざけた告白までしやがって……」
腸が煮えくり返る。




