表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から君を取り戻す  作者: 佐央 真
第四章 人形妖魔
28/30

仕掛け

 ――龍姫になりすました里の娘。


 璃羽はその話を詳しく聞こうと、走っていた。

 まず間違いなく、牛司や長老たちに訊いても話してはくれないだろうから、一番可能性のある影早を探す。

 いつなや嶺鷹に黙って出てきたのは、そのためだった。

 言えばきっと、近づくなとか言われてまともに話も出来ないだろうから。

 何故、彼をそんなに警戒しているのか、璃羽には分からないが。


 「馬小屋とか、いるかな?」


 璃羽はとりあえず暗や明がいる馬小屋にむかってみた。

 影早に二頭を任せていたので、暗たちに訊いてみたら何か教えてくれるかもしれない。

 そう思って小屋の手前までたどり着いたところで、鳥の鳴き声が聞こえた。


 「あの鳥……!」


 フェイファだった。

 綺麗な翼を羽ばたかせて璃羽の上空を旋回すると、差し出された彼女の指先へ静かに舞い降りる。

 相変わらず人慣れしているその様子に璃羽が目を丸くしていると、どこからか駆け寄ってくる足音がした。


 「姫っ」

 「影早!」


 どうやらまだ小屋に残っていたようで、影早が璃羽に気づいて傍へやってくる。

 探す手間が省けてラッキーだと璃羽は思う一方で、どこか呆れた様子の影早はそっと口を開いた。


 「またお一人ですか? いったい嶺鷹殿は何をしているのです?」

 「いいんだよ、私が撒いてきたんだから」

 「えっ……あの龍の爪を撒くって……!?」


 自慢げに胸を張る璃羽に驚いて、影早は息をのんだ。

 どうやら内緒で出てきたことが、余程凄いことだったらしい。

 本当に嶺鷹相手にそんなことをやってのけたのか、疑いすらして周囲の様子を確認していた。


 「おい、嘘だと思うのか?」

 「あ、いえ……」


 ――この娘は、やはりただの娘ではないのかもしれない


 どこかで彼女を侮っていた自身を律し、影早は思った。

 そして密かに課せられた命令が重みを増していく。


 「……良いのですか? 嶺鷹殿が心配なさるでしょうに」

 「大丈夫。バレる前に戻るさ」


 きっとまだバレていない。

 バレていたら、早々にイヤーカフを通じていつなの怒鳴り声が飛んでくるはずだからと、璃羽は声に出さずに苦笑した。

 おそらく嶺鷹が来て拘束されるなんて、あっという間のことだろう。

 そうなる前に、話を終えなければ。


 「そういう訳だから、あまり時間がなくて悪いんだが……」

 「そんな中で、俺に会いに来て下さったのですか?」

 「えっ?」


 すると影早が璃羽の手を取り、フェイファが飛び立つ中、嬉しそうに微笑む。


 「俺も貴女に会いたかった」

 「っ!?」


 その瞬間、影早からなぜか甘い空気が漂ってきて、璃羽は途端に頬を紅潮させた。

 彼からどこか慈しむように優しく手を握られ、変に意識してドキドキしてしまう。

 そんなつもりで来た訳じゃないし、そんな気もないのだが――ちょっと流されそうになる年頃の自分が恨めしい。


 ――恐るべし、美形の力……!


 「あっ、えっ……とだな、ちょっと訊きたいことがあっただけなんだ」

 「訊きたいこと?」


 そう言って、璃羽は素早く手を離して、恥ずかしそうにあさっての方を向いた。

 そんな様子に彼は何となく不満そうな顔をしたが、璃羽は雰囲気に流されまいと気づかないふりをしてすぐさま話を切り出した。


 「以前、この里で龍姫になりすました娘がいたと聞いた。どんな娘だったか教えてくれないか?」


 璃羽がそう言うと、一瞬ぴくりと影早の体が動いた。

 まさか訊かれるとは思っていなかったようで、驚き半分怪訝そうにこちらを見る。


 「……なぜ、そのようなことを?」

 「牛司が私を、というより龍姫を毛嫌いしているようなんだ。きっとそこに理由があるんじゃないかと思って」

 「お頭のため、ですか……」

 「まあ……そんなとこだ。このままじゃ、協力しようにもできないだろ?」


 ――本当は、里全体で隠していることなんじゃないかと勘ぐっているのだが


 さすがにそれを言うと話して貰えないだろうからと、璃羽は言わずに止めた。

 もしかしたら弦是や人形妖魔にも繋がるかもしれないのだ、慎重に言葉を選ばなくてはならない。

 そう思っていると、次の瞬間、影早の手が彼女の腰に触れ、引き寄せた。


 「え……かっ影早……!?」

 「俺よりお頭の方が気になりますか?」

 「えっ……あ、いや、え……」

 「俺は……貴女には一番に、俺を気にして欲しいです」


 そう言って急に影早が真剣に見つめてきて、璃羽は不本意にもドキッとした。

 咄嗟に出した両手のお陰で密着は避けられたが、それにしても近すぎる。


 ――まさかと思っていたが、もしてかして影早は……!


 「なっ何を勘違いしているのか知らないが、私はただ妖魔を討伐するために牛司と協力したいだけで、他意はないぞっ!」

 

 璃羽はそう言って、半ばパニックになりながらも影早の胸板を押し返そうとしたが、彼もムキになってか、それを許さないと言わんばかりに強く彼女の体を抱きしめ、腕の中に閉じ込めた。

 璃羽から声にならない声が漏れる。


 「~~~っ!?」

 「なら、その娘の話をすれば、俺を――貴女の一番にして下さいますか?」

 「え……っ!?」


 影早のその言葉に、璃羽の思考はショートした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ