不可抗力
* 4 *
チュンチュン……
雀の鳴く声で、璃羽は目を覚ました。
朝だった。窓から光が差し、清々しい空気が流れ込んでくる。
昨夜はあんなに曇っていたのに、今は真っ青に晴れ渡っている。
――憎らしい。この天気がもっと早く来ていたら、まだ楽な戦いが出来ていたかもしれないのに
璃羽は寝台から身体を起こす。
ここは忍びの里で、昨夜あの怪しげな人形のような妖魔が消えたことで一旦戦いは終わった。
その後一通りの報告を終えると、璃羽は一足先に客室を借りて休んだのだ。
寝ぼけ眼をこすりながら璃羽は辺りを見渡すと、どうやらいつなが窓を開けていたようで、外を眺めている小動物の姿がぼんやりと映し出された。
「いつな……起きてたのか?」
「ああ、一応な」
朝にしてはやけにしっかりとした声で答えるいつなに、璃羽は違和感を感じて首を傾げる。
「一応? ちゃんと寝たのか?」
「嶺鷹と交代で休んだ。問題ない」
「交代って、見張りか? 私にも言えよ、ぐっすり寝ちゃったじゃないか」
「……なんでお前に言うんだよ」
仮にも一応姫だろうが、といつなは思いながら、呆れてため息を吐く。
「嶺鷹は?」
「扉の向こう。外で見張ってる」
璃羽は寝台から飛び出て、扉の方へ駆け寄るが、開き戸のドアノブに手をかける前にいつなに呼び止められる。
「そんな格好で外に出るなよ」
「え……?」
そう言われて自身の身体を見下ろすと、はだけた制服の白いポロシャツ一枚に太ももがのびている姿が映し出された。
上下ともに下着が見え隠れしている。
「ひやぁっ!」
思わず璃羽はしゃがみ込んだ。
そういえば昨日、面倒くさがって脱ぎ散らかしたままさっさと寝たような。
床には、無造作に脱ぎ捨てられた制服や装具が散らばっている。
璃羽は真っ赤な顔で、恨めしそうにいつなへ振り返った。
「お前……見たな?」
「…………見て、ねぇよ」
そう言ってそっぽを向くいつなの顔も赤いのは、決して気のせいじゃない。
「注意する時点で見てるだろっ!! そもそも何でお前がここに入ってきてるんだよ!?」
「袋から出るタイミングなんかなかったんだから、しょうがねぇだろ! お前がこの部屋に入るまで、ずっと影早がついて来てたんだし! やっと出られると思ったら、お前がその……脱ぎ始めて……」
「~~~!!」
――こいつ、完全に見てやがるぅっ!!
確かに戦闘中あれだけ会話していたのに、戦いが終わると気が抜けて、いつなの存在を忘れている方も十分悪いのだが。
だがしかし。それでも恥ずかしさで、いつなに当たり散らさないと気が済まない。
「変態! スケベ! 止めもしないで、じっくり堪能するなんて!」
「たっ!? するかぁっ! 見張り中は周りに気を配ってたし、交代した後は向こうの世界で仮眠とってたわっ!」
ムキになって言い返すいつなだったが、そこへ容赦なく枕が飛んできて、顔に直撃する。
「こっち向くなぁっ!!」
璃羽は近くにあった服や装具を、片っ端からいつなにむかって投げるが、彼もこれ以上痛い思いをしたくないからか、避けたりシールドを張ったりする。
すると、流石に騒がしく感じたようで、扉が開き嶺鷹が顔を覗かせた。
「姫、いつな。何かあった……のか?」
「「あ……」」
二人が硬直する中、嶺鷹が璃羽の格好をひと通り目にすると、何やら察したようで無表情のまま頭を引っ込め、何事もなかったかのようにそっと扉を閉めた。
その光景に璃羽は暫く動けず、心で涙を流す。
ーー見られた……嶺鷹にも、見られた……しかもノーリアクション……
自身の身体に自信がある訳ではないが、そこまで反応がないというも悲しいものがある。
もはや暴れる気力もなくなり、璃羽はどんよりと暗い顔をして床に両手をついた。
そんな彼女を見て、いつなは頬をそめたまま思う。
――水色……
それは、外で密かに赤面している嶺鷹が思ったことでもあった。