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異世界から君を取り戻す  作者: 佐央 真
第三章 初陣
23/30

本体

 「……協力だと? そもそも何故こんな所に龍姫がいる?」


 璃羽の顔を見るなり、牛司は不機嫌に顔を歪ませた。

 ただでさえ余裕のない状況下に、小娘一人出て来られては迷惑極まりない。

 そう思っていたのだが、先程目の当たりにした不思議な能力に、牛司は内心驚かされていた。

 今、目にしている龍姫は、まるで戦士のように妖魔たちを斬り裂き、牛司を援護している。

 彼女の軽やかな身のこなしと素早さ、場慣れした冷静な判断力と立ち回りは、とても普通の娘ができるものではない。


 ――龍姫が妖魔を倒したという噂は耳にしていたが、まさかそれが事実だというのか?


 そばに嶺鷹がいたという報告から、妖魔討伐は彼の功績だと思っていた。だが……

 そんな戸惑いを覚える牛司をよそに、璃羽は戦いながら話しかける。


 「妖魔たちがこの里の誰かを探している。いったい何を仕出かしたのかは知らないが、もの凄い憎悪だ。誰か心当たりはないか?」

 「憎悪? 何故そんなことが分かる?」


 牛司は、璃羽を非難するかのように眉をつりあげ、問い質した。

 龍姫の存在を快く思っていないと示すようにやたらときつく睨み付けてくるが、それでも立場上、龍姫に死なれては困るのか、やむなく共闘する姿は、流石といったところだ。

 だからなのか、璃羽はそれほど抵抗なく彼に背を預け、妖魔を倒していく。


 「妖魔たちの声を聞いた。どの妖魔も皆、《あいつ》を許さないと言っている」

 「妖魔は言葉を話さん、下手な戯れ言を」

 「信じないのか?」

 「当然。何も知らぬ小娘の言葉などに耳を貸すものか」


 牛司はそう言うと、璃羽を押しのけるようにして彼女の死角から襲ってくる妖魔の頭を引っ掴み、一瞬で地面に叩きつけた。

 その時手甲鈎で引き裂いたのか、妖魔の首が簡単にもげて何処かへ跳んでいく。

 それは彼の強靱な腕力があってのことだ、威力が桁違いだった。


 「……嶺鷹とはまた違った、人間離れした力だな」


 璃羽が呟く。

 しかしそんな牛司がいたとしても、不死身の妖魔は無情にもあっさり蘇ってくる。


 「ちっ、次から次へと…!」


 こちらがどれだけ斬り裂こうが、その部分がすぐに修復され動き出す。

 斬って斬って、斬り裂いても、どこを見回しても変わらない妖魔たちの景色は、牛司でさえも焦りを覚えない筈はなかった。

 璃羽の目には、彼が半ばやけになっているようにも見える。

 それもその筈、ここを突破されれば、皆が避難している洞窟はすぐなのだから。


 「牛司……」


 璃羽は悩んだ。

 

 ――こいつは私の話を聞かない。けれど何とかして協力してもらわないといけない。どうすれば……


 いくら龍姫だからといっても、結局はただの異世界の娘。

 信頼も何もない。

 そんな薄っぺらい関係でどうやって協力を仰ぐ?


 「……牛司にもイヤーカフをつけさせれば」


 彼にも妖魔の声が聞こえるようになればあるいは……と思って呟いた言葉だったが、いつながそれを止めた。


 「待て、璃羽。簡単に誰かれ構わず、ほいほい渡すんじゃねぇ。もう少し慎重になれ」

 「けど、分かって貰う為にはそれしかない。手遅れになるぞ?」

 「駄目だ。もしお前の力が利用されて、お前自身が危険に晒されたらどうすんだ?」

 「そんなこと、今はどうでもいいだろ。それより……」

 「良くねぇよーー俺にはそれが最重要事項だ」

 「う……」


 厳しくも璃羽の身を案じて言ういつなに、彼女は何も返せず唇を噛みしめた。


 ーーこいつ、まだ責任感じてるんだ。私がこの世界に落ちたこと。いつなのせいじゃないのに


 もしかしてこの先もずっとそれを引きずっていくつもりなのだろうかと、璃羽は納得いかない様子でグッと拳を握りしめるが、その時、足下からのぼってくるようなゾクっとした気配があるのに気づいた。

 か細い声が聞こえる。


 「……お前の言葉、分かる。人間、なのに、なぜ?」

 「え……!?」


 その気配の源だろうか、話しかけられて思わず璃羽が目を向けると、そこには紅い着物を着た断髪の女の子の人形がたっていた。

 人形、だろうか? 何かが違う。

 これは……妖魔だ、いつの間に!?


 「人間の言葉、分からない。なのに、お前の言葉、分かった。お前……龍姫か?」

 「……!」

 「龍姫、龍姫、龍姫……」


 人形妖魔の様子がおかしい。

 突然カタカタと全身を揺らし、龍姫の名を連呼しながら後ずさる。

 するとどうだろう、急にグワッと両目を見開き赤く光らせると、もの凄く強い風が吹き荒れ、次々と他の大勢の妖魔たちを巻き込むようにして飛ばし吸い込んでいく。


 「なっ何だ、この風は!?」

 「あの妖魔が、他の妖魔たちを吸収しているのかっ!」


 暴風に耐えながらも璃羽が注目していると、人形妖魔はどんどん妖魔たちを吸い込み、ようやく風が収まった頃には、周囲いっぱいにいた妖魔は全て取り込まれて無くなり、人形妖魔ただ一体となって、髪が飛ぶように伸びて人並みの大きさに成長した。

 牛司をはじめ、里の男たちは唖然と佇む。


 「何だ、あれは?」

 「何が起こったんだ?」

 「あの妖魔が……まさか本体?」


 男たちは手甲鈎を構え、一斉に人形妖魔へ攻撃を仕掛けた。

 しかし妖魔の身体から得体の知れない光が眩しい程に溢れ出すと、攻撃は全て弾かれる。

 人形妖魔は、呆気なく倒れていく男たちなどには目もくれず、まっすぐ璃羽の方だけを向いて口を開いた。


 「龍姫……あいつを、私の所へ、連れて来い」

 「あいつ?」

 「あいつ……憎い、許さない。弦昰(げんぜい)、連れて来い」

 「弦是?」


 人形妖魔は璃羽にそう告げると、両手を広げてフワッと飛び立つように消えていった。

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