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異世界から君を取り戻す  作者: 佐央 真
第一章 異世界へ落ちた君
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君を見失ったりしない


 「璃羽が落ちた……なんてこと……っ」


 いつながきつく奥歯を噛み締めた。

 早く扉を開けて、彼女を助け出さなくては。

 そう思って急いでキーボードに手を伸ばすが、しかし。


 「開けるのか?」


 慌てて作動させようとしていたいつなに、晴翔の薄気味悪い笑みが垣間見えた。


 「開けるなら、次こそ僕が行く。さあ、開けてくれ」


 その言葉で、いつなの手が止まる。

 そうだ、開けてはならない。

 開けたら、彼は今度こそ行ってしまう。

 それに、どのみち璃羽はもう――


 「……くそぉっ……!」


 いつなは思いきり晴翔の頬を殴った。


 ――璃羽は、もう間に合わない


 「なんで……いつも、いつもあいつなんだっ⁉︎」


 ふらつく晴翔の胸ぐらを掴み、いつなは怒鳴る。

 いつも自分のせいで、彼女を巻き込んでしまっていた。

 だからもう二度と巻き込まない、危険な目に遭わせないと決めていたのに。


 「璃羽……っ」


 苦しそうに顔を歪めて名前をもらす彼に、晴翔もハッとして目を逸らした。

 晴翔にとっても璃羽は大切な幼馴染み。決して、どうでも良く思っている訳ではないのだ。

 それを今ようやく気づく。と、その時。


 「いつな様!」


 入り口から爺やが声を張り上げながら入ってきた。

 しかし一人ではない、警備員も数人ゾロゾロと乗り込んできて、その中に班長である璃羽の父親・昌治郎の姿もあった。


 「いつなっ! 何があったんだ⁉︎」

 「……親父、さん……」


 昔からのよしみで、つい普段のように呼び合う二人。

 いつも冷静ないつなが取り乱す様を見て、すぐに尋常ではない事態だと昌治郎は気づく。


 「どうした? 大丈夫なのか?」

 「…………り……、が……」

 「?」

 「璃羽が……っ!」


 いつなのその一言で、昌治郎は全身が凍り付くような感覚を覚えた。


 ――そんな時、いつなのPC内で密かに一つのプログラムが動き出していた。



 *



 「なっ何だ、これ……!?」


 今まで見たこともない、見上げるほど大きなムカデの化け物に璃羽は思わず息をのんだ。

 周りの建物が燃やされ、人々が逃げ惑う原因は、間違いなくこの化け物のせいだ。

 この化け物が口から火を吐き、町中を暴れ回っているのだ。

 それが今まさにすぐそばにいる。


 「ギャアアアッ!!」


 ムカデの化け物が大きく雄叫びをあげた。

 するとその瞬間、璃羽に向かって炎が吹き放たれ、彼女は慌ててその場から飛び退いた。

 間一髪でそれを躱し、何とか物陰に隠れ、身を潜める。

 どうやらその化け物は、それほど早くは動けないようで、上手く視界から外れた璃羽を探すこともせずのっしのっしとゆっくり遠ざかっていく。

 それでも璃羽は混乱したまま、動悸を覚えた。

 突然、扉に吸い込まれたと思ったら、こんな化け物がいる世界に通じていたなんて。


 「いったいここは何処なんだ?」


 乱れた呼吸を必死で整えながら、璃羽は辺りを見回した。

 まさか本当に過去にでも飛ばされてしまったのだろうか?

 そう思ったが、どうやらそれは違うようだ。

 逃げ去っていく人々の言葉がまるで分からない、日本語ではなかったのだ。

 そもそもこんな化け物が存在している時点で、自分の知る世界ではないだろう。

 恐怖と不安で震えが止まらなくなっていた。

 と、その時。


 ――ピピッ


 「え……?」


 両腕に抱えていた物が、電子音まじりの鳴き声を奏でた。

 その時初めて自分があのメカを抱いていることに気づく。


 「これって……」


 いつながつくった白銀の狐のようなメカだ。

 この世界に来た時、一緒に迷い込んでしまったらしい。


 「……いつな……あいつは大丈夫だっただろうか」


 もし、こんな得体の知れない地にとばされたのが彼だったら、それこそゾッとする。

 こちらに来たのがまだ自分で良かったと、涙目になりながらも思っているとその時。


 「……こんな時くらい、自分の心配をしろ」

 「え……?」


 腕の中にいるメカが突然話しかけてきて、璃羽の目が驚きで点になった。

 次の瞬間、思わずそれを放り投げる。

 

 「うわぁぁっ! しゃっ喋った!?」

 「おいっ。乱暴に扱うな、璃羽」


 メカは器用に一回転して着地すると、壊れたらどうするんだと彼女を睨み、その様子に璃羽はハッとして、そっとメカに近寄った。

 この口調は――


 「もしかして……いつな?」

 「どうやら正常に起動しているようだな」

 「……っ……いつなっ」


 不安だった気持ちが溢れ出てきて、彼女の声が震えた。

 いつなが無事だった、そのことにも安堵したが、たった一人取り残されて酷く心細かったのも事実。


 「いつな、ここは何処なんだ? 私は帰れるのか?」

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