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異世界から君を取り戻す  作者: 佐央 真
第三章 初陣
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意外と軽い女

 思った以上の気まずさに、璃羽はげんなりしながらもそのまま馬をひいて、牛司のあとを歩いた。

 嶺鷹も降りて側についていてはくれるが、やっぱり少しつらい。


 「なぁ、何であいつについていくんだ?」


 そんな時、黒馬が璃羽に訊ねる。


 「長老が私に会いたいんだって。それに、この里に出る妖魔を討伐しに来たんだから、案内して貰わないとだろ?」

 「え、妖魔出るのかよ!?」

 「お前、無理やりついて来ておいて知らなかったのか?」

 「……俺、逃げていい?」


 途端に馬の歩みがゆっくりになるが、璃羽が苦笑いして強めに引っ張って歩く。

 そんな一人と一頭の異様なヒソヒソ話を、いつなは不思議そうに聞きながら、何故か璃羽の腰につけている巾着袋に身を潜めていた。

 おそらく妖魔だと決めつけられるかもしれないという懸念と信用ならないという考えが彼を警戒させているのだろう、隠れて様子を見ると言い出し、姿を変形させられるのか今は球体となって袋に入っている。

 けれど、翠の屋敷にまで忍び込めるほどの者たち相手だ、既に知られているかもしれないが。


 暫くして一際大きく高い塔についた。

 遠くからでもその存在に気づいてはいたが、いざ間近で見ると、はぁと声が漏れるほどの大きさ。

 きっと頂上まで行けば里一帯を見渡せるだろうと思いながら璃羽は見入っていると、牛司が気にせずさっさと中へ入っていき、慌てて馬の縄を木に結びつけた。


 「ここで待ってろ」


 二頭の馬を外に残して璃羽たちも中に入ると、早々に広々とした部屋が広がり、まるで待っていたかのように長老たちが出迎えてきた。


 「長老たちよ、龍姫をお連れした」

 「これはこれは龍姫様、遠路はるばるようこそ」


 里の者たちとは打って変わり、気味が悪いほどに歓迎してくる長老たち。

 やはり調べがついているようで何の疑いもなく近づいてくるが、嶺鷹がさりげなく前へ立ち塞がり、庇うように璃羽との間に割って入る。


 「里からの要請を受け参った、長の臣下、嶺鷹だ。状況を知りたい」


 そんな嶺鷹の言葉に、僅かに長老たちが舌打ちしたように見えたが、取り繕うように笑みを直すと、彼らの一人が口を開く。


 「龍の爪と呼ばれる嶺鷹殿がご助力下さるとは、我が里もひと安心。状況は隊を指揮する牛司に聞くが宜かろう。……ところで――」


 長老たちの目が璃羽へと向いた。


 「龍姫様、何でも貴女様は異世界から来たとか。この国や妖魔のことをまだよく知らないのでは?」

 「え、それはまぁ……」


 急に会話を振られ、璃羽は一瞬気後れするが、長老たちは構わず話を続ける。


 「見たところ戦いにも不慣れのご様子。妖魔と対峙するのは、さぞお辛いでしょうに」

 「……何が言いたい?」


 どうにも何か含みのある薄気味悪い笑みを浮かべられて、璃羽は眉を歪めると、長老の一人がさらりと答える。


 「貴女様のような若い娘さんが訳も分からず突然妖魔と戦えなどと、不憫で仕方がないのですよ。どうでしょう、妖魔との戦いがどういうものなのか、いったんご覧になるというのは?」

 「……私に、前線に立つなと?」

 「貴女様の身を案じているのですよ、我々は」


 やはりそういうことか、璃羽は思った。

 どうやら龍姫は、想像以上に使い物にならないと思われているらしい。

 実際、嶺鷹と比べられればそうなのかもしれないが、少なくとも普通の女の子よりかは強いと自負しているだけに、璃羽の中で悔しさが込み上げる。

 だがそれを証明しようにも戦うことでしか示すことはできないし、そもそも戦いに不慣れであるのは間違っていない。

 戦ったところで、本当に足手まといになるかもしれないのだ。

 これは遊びではない、分かっているだけに璃羽は何も言えなかった。

 そんな彼女を、巾着袋の中から見ているいつながふと思う。


 ――普通の女の子なら、ホッとするところなのにな


 自ら危険なところに飛び込もうとする璃羽は、いつも見ていてヒヤヒヤする。

 だから前線に出るなと言われれば、いつなはそうして欲しいと正直願っていたのだ。

 だがそんな時、嶺鷹が少し困った様子で口を開いてきた。


 「しかしそれでは、私も討伐に加わる訳にはいかぬ。私は姫の護衛を命じられている身、姫からは離れられない」


 そういえばそうだった、と璃羽といつなはハッとした。

 ここは妖魔が出現する危険な場所、屋敷にいるのとでは訳が違うのだ。

 しかしだからといって、討伐に出ないのであれば来た意味がなくなる。

 どうしたものかと、嶺鷹が頭を捻っていると。


 「それならば、姫の護衛をこの私にお任せ下さいませんか?」


 一人の男が、名乗りを上げた。

 皆が一斉にその男の方を振り返る中、璃羽と嶺鷹は驚く。


 ――あれは、屋敷で襲ってきた男……!?


 忍び装束を纏い、覆面で顔を隠している男。

 だが気配で分かる、間違いない。

 嶺鷹がすぐに璃羽を背に隠して警戒するが、しかし男は目の前で膝を折り、頭を下げた。

 

 「私は影早と申します。龍姫様へ先日のご無礼をお許し頂きたく、参上しました」

 「……どういうことだ?」


 璃羽は訊ねる。

 突然襲ってきたかと思えば、掌を返したように頭を下げてくる彼。

 けれど、何となくだが理由は分かっていた。

 影早の口から予想通りの言葉が出てくる。


 「私は、姫を人質に攫うことで、我らの要請を長が聞き入れて下さるかもしれないと考え、事に及んだのです。姫に危害を加える気は、もちろん決してございませんでした」

 「やはりそうだったか」


 嶺鷹がそっと呟く。


 「しかしだからといって、何のお咎めもなく許されるとは思っておりません」

 「それで私の護衛を名乗り出たのか?」

 「はい。姫はこの里を助けに来て下さった。その恩にも報いとうございます」


 そう言って影早が再び頭を下げると、自ら覆面を外して素顔を見せた。

 するとそこに現れたのは、まるで人形のように整った美しい少年の顔。

 璃羽と同じ歳か、寧ろ年下か、想像していたものとはかけ離れた存在が現れ、璃羽は思わずドキッとした。


 「……わっ分かった、お前に護衛を任せる。影早」


 思わず即答してしまった彼女の言葉に、いつなが眉間に皺を寄せたことは言うまでもない。

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