青春の過ごし方
またまた思いつき短編です。
開け放った窓から、蝉の鳴き声と熱風が舞い込んでくる。
チューチューアイスはすでに二本ずつ。
猛暑の夏とはいえ、これ以上食べたらお腹を壊しそうだ。
「なあ、夏休みの宿題、終わった?」
「終わるワケないでしょ。まだ二日目だよ?」
「だよなー」
扇風機とうちわで、クーラーが壊れた室内の湿った熱気をかき回す。
「おー、少し涼しいー」
ゲームのコントローラーを握ったままの奈々美が零す。
奈々美とは、幼馴染とまではいかないが、小学生の頃からの付き合いだ。
最初はサッカー仲間だった。
それがいつしか奈々美はサッカーを辞めて、マネージャーになった。
「なあ、せっかくなら女子サッカーでもやれば?」
奈々美は、正直言って俺よりも上手かった。
パスは正確だしドリブルも速い。運動量も豊富だった。
「なーに言ってんの。弥太こそサッカー部のエースだったクセに」
俺がサッカー部を辞めたのは高校一年、去年の秋だ。
練習中のクロスプレーで足首を負傷し、手術したのがキッカケだった。
とはいえ、手術とリハビリのおかげで日常生活にはまったく困らない。
ただ、サッカーをやる気は、もう消え失せてしまった。
「もったいないなぁ」
「うるせ、もうサッカーは飽きたんだよ」
「違うよ」
テレビから派手な音が聞こえた。ゲームが終わったらしい。
コントローラーを置いた奈々美が、俺に向き直る。
「貴重な青春の1ページをだよ、こんな感じにダラダラ過ごすのは、もったいないってコト」
「……人んち来てまでダラダラしてるお前に言われたくねぇな」
奈々美に向けてうちわをバタバタと動かすと、その僅かな涼を感じようと少しだけ顎を上げて、目を閉じてくる。
その顔は、まるでキ……。
……いかんいかん。
俺はうちわを放り投げ、ぬるくなった麦茶を飲み干した。
「えー、もう終わりなん?」
「風が欲しけりゃ自分で扇げ」
「だいたい、この酷暑にエアコン無しってのが間違ってるのよ」
「そりゃ同感だな。一刻も早く修理してもらうわ」
ぶーぶーと騒ぎ立てる奈々美だったが、余計に暑くなると気づいたようで、すぐにおとなしくなった。
「──私はさ、ちゃんと青春を謳歌してるよ?」
「ほーん、とてもそうは見えないけどな」
奈々美は、おとなしくしていれば美人だと思う。
とっくに彼氏の一人や二人、出来てもおかしくないくらいには。
だが。
「1学期の終業式のあと、お前告られてたろ。あれどうした?」
「ん? ああ……気になる?」
「いや、別に」
「あっそ、じゃあ教えなーい」
ぷいと横を向いて、ぱたぱたとうちわを動かす。
俺は時々、こいつが何を考えているか解らなくなる。
子供の頃のサッカーも突然辞めたし、サッカー部のマネージャーだって、俺がケガで入院してる間に勝手に辞めてしまった。
親友だと思っていたのに、何の相談も無かった。
それが悔しくて悲しくて。
「私はね、今年の夏に勝負を賭けてるの」
……は?
突然なんの宣言だ?
高二の夏といえば……あ。
夏期講習か。
そういえばこいつ、俺の通ってる予備校を頻りに聞いてきたっけ。
「まあ、大事な時期、だよな」
「そう、大事なの」
奈々美は立ち上がる。
汗のせいか、肌に衣服が貼り付いて……え。
「お前、今日、スカート……」
「やっと気づいたか、鈍感」
吐き捨てられた奈々美の言葉は、熟れたトマトのような笑顔と共に灼熱の夏へと溶けていった。