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「ゆいさん、好きなの選んでよ」
冷蔵庫から買ってきたコンビニスイーツをテーブルに並べてゆいさんに好きなのをどうぞと言った。
ゆいさんは『とろっとろりプリン』を手に取ると「ふん」とそっぽを向きながらプリンを食べ始めた。横顔は笑顔になっていたので大丈夫だろう。
みんなコンビニスイーツを選んだので余ったのを冷蔵庫に戻して俺も席について食べようと思い冷蔵庫を離れたときだった。
「一弥ーなんでお父さんには教えてくれなかったんだよ、ずいぶんかわいい彼女ができたらしいじゃないか」
え、遼か? それともゆいさんか?
二人とも俺の方を向いて首を振っている、あ、え、じゃあ誰よ。
思いつかないぞ。
「またまたー、父さんそんな冗談誰に聞いたんだよ」
「ん? マスターだよ」
マスタァアアアア! あんたかぁああああ! なにしてんのよぉおおおお!
「いやー、マスターがさ、一弥が女の子の手を引いて入ってきてさ、お茶してるときもいい雰囲気、レジでもなんか女の子赤面させたの見てピーンときたって言ってたぞ」
どこまで語ってんだマスタァアアアア!! てか男子高校生の繊細さ舐めんなよ! なんで家族全員の前でデート内容晒されるとかいう公開処刑されなきゃならんのじゃああああ!
うずくまって悶絶してると急に悪寒を感じた。
すっと立ち上がりテーブルを見ると遼とゆいさんがなにもないところを見ながらスイーツを貪っていた。
すると、急に引っ張られ身体の向きを強制的に変えられ、正面を見るとさつきさんが立っていた。
「ねぇ、お姉ちゃんなにも聞いてないよ?」
目が、目がぁああああ
さつきさんの目が笑ってない、目に光がないんです。
「いや、時期をみてから言おうかと思ったんです、はい。」
俺の肩を掴む手に力が込められる。
「どこの女なの? お姉ちゃんたちより魅力的なの? お姉ちゃんたちより頭がいいの?」
いやいや、なんで対抗心燃やすの!? これなんて返すのが正解なの!? 美遊さんに接触しないようになんとかしないと。
「さ、さつき、お姉ちゃん」
「んふ」
いや、今なんで悶えた!? 親もいるからね!?
「まぁ、大胆」
母さんも「まぁ、大胆」じゃないから! なんなのこの親子!?
「さつきさん、じょ、女性は優劣なんてないんですよ、彼女が上とかさつきさんが下とかないんです、女性は等しくみんな素敵ですから」
うん、自分で言ってて何言ってんだこいつと思う。
思いつく限りの歯が浮くような言葉を並べてみた。
これがダメなら他を考えよう。
「そんなぁ、もう、素敵な女性だなんて、かずくん照れるじゃない」
頬を赤らめてくねくねし始めた、成功でいいのかこれ、なにか間違った方向に勘違いしてる気がしなくもない。
「一弥、いくら息子のお前でもママはやらんぞ」
「あなた・・・」
あなた・・・ポッ、じゃねーよ! 遼いるから!
てか俺らもいるから! なんなのよこの親ぁああああ!
「さつきさん、時期が来たら紹介しますから、くれぐれも! くれぐれも何もしないでくださいね!」
さつきさんも落ち着いたので俺もスイーツにようやく手をつけられた。
なんか、すごい疲れたんだけど。
あぁ、コンビニスイーツうまっ。
この甘さが荒んだ心に染み渡るわ。
この後のことをなんとかしないといけない、両親はもうなんか二人の世界だから放置。
ゆいさんはある程度理解があるから今日は大丈夫だろう。
さつきさんは・・・読めない。
「それじゃあ、オレはそろそろ帰りますね。
晩ご飯ご馳走様でした」
「また、いつでも遊びにきてね」
はっ! 思いついた!
「りょ、遼くん、今日、泊まっていかないか」
「いや明日学校だし、荷物もなんもないからな」
「で、ですよねー」
うん、これは、わかっていた、わかっていたのだ!
ここからが逆転の一手!
「じゃあ、俺が泊まりに行こうかな」
これで遼の家に避難できる!
「いや、まぁ来るのはいいけどさ、一弥お前の肩に手を置いてる人を説得できたらな」
俺の左肩に乗っているのは振り向かなくてもわかるね。
優しく包み込むように置かれた手は徐々に力が加えられていく、その柔らかい感触からは想像もできないほどに。
「痛い痛いっ! さつきさん、ごめんなさい、鎖骨折れちゃうんで勘弁してください!」
すると加えられていた力がすっと抜けた。
助かったと思い安堵していると、耳元でさつきさんの声がした。
「じゃあ、これから、お姉ちゃんたちと、お・は・な・し、しましょうね」
あ、これ今日最悪寝れないやつだ。
「ちょ、ちょっとそこまで遼送ってくるね、す、すぐ戻るから」
そう言って遼と共に靴を履き家を出た。
「いやー、一弥愛されてるな」
「いや、限度ってものがですね」
遼はストレッチをしながら話を続けた。
「まぁ、さつきさんも直接なにかすることはないだろ、隠されてたことが寂しくて怒ってるだけでしょ」
「いや、まぁ遼の言う通りだと思うけどさ、お前だって兄貴や姉貴、母親に俺彼女できたんだってわざわざ言う?」
「まぁ、確かに言わないかもな」
「どうしようかな、さつきさん絶対部屋にいるだろうな」
自分の部屋に灯がついてるのを確認してがっくりしてしまう。
「俺の名案があるけど聞きたいか?」
流石大親友! 俺を救えるのは遼だけかもしれん!
「どんなんだ! 教えてくれ!」
「まずは、さつきさんの目を見てこう言うんだ「姉さん、黙っていてごめん、まだ彼女ができたばかりで家族に言うのも恥ずかしかったんだ」ここからさつきさんをそっと抱きしめて耳元で「でも言えるようになったら、一番に姉さんに報告するつもりだったんだよ」これでイチコロだね」
「なにいってんの? エロマンガの読みすぎだよ? それは姉の怒りの収め方じゃなくてね、姉の落としかただからね? しかも今そんなことしたら朝まで抱き枕にされて寝れなくなるわ!」
顎に手を当てて少し悩んだ顔をすると俺を見た。
「やっぱりだめか、ギブアップだな」
笑顔でサムズアップかましやがった、親指折ってやろうかこのやろう。
はぁ、このまま遼を引き止めても帰りが遅くなってしまうので「また明日、おやすみ」と言って見送った。
重い身体を引きずり家に入り玄関の鍵を閉めて部屋へと向かった。
ドアノブが重いぜ。
ガチャ
中に入るとゆいさんは椅子に、さつきさんはベッドに座って談笑していた。
あれ? 思ったよりも空気が重くないな。
この短時間でなにがあったんだ?
「あ、かずくんおかえりー、ほらここ座って」
さつきさんが自分の横をトントンと叩いて着席を促す。
ここは素直に従っておこう。
「ゆいちゃんとねお話ししてたんだけどね、確かに隠し事は寂しいなと思って怒ってたんだけど、私もゆいちゃんも初めてできた彼氏のことは恥ずかしくて言えなかったよねってお話になったのよ」
「あ、あたしのはなしはいいのよ。
それでさつきが怒ってたことは解決したのよ、でもそれとは別にあんたに彼女ができてよかったなって話になったのよ」
ん? 隠し事に怒ってたけど自分たちもそうだったよね、あはは。
からなんで急に祝福? これは普通にありがとうって流れなのか?
「かずくん、怒らないでね」
さつきさんが前振りをして話し出した。
「実はかずくん男色なんじゃないかって話がお姉ちゃんたちの中で出たことがあったの」
え? なんでいきなりホモ扱いされてるの?
「えっと、そう思った経緯を聞いても?」
「かずくんは部活ですごく忙しかったじゃない? それで女の子と遊ぶ暇もないんじゃないかとも思ってたんだけど、いくら忙しいとはいっても興味があれば頑張ってなんとかしようとするじゃない?」
まぁ、さつきさんの言うことは正しい、全くなにもできなかったと言えば嘘になる。
それでも部活を優先したのはハゲ山がうざいけど、あのときのチームメンバーでバスケをするのが楽しかったから頑張ってたのが理由としては大きい。
「なるほど、心配をかけてごめんなさい」
「ううん、謝らないで勝手にそう思ってしまっただけだから」
そこからは色々驚き事実が出てきた。
男色疑惑が出てきたときゆいさんは特になにもしないことをすすめたのだが、さつきさんが仮に男色でもいいが確認だけはしたいが聞くのは無理だからと行動することにしたらしい。
中学二年あたりでさつきさんのスキンシップが増えてきたのは女の子に興味があるのかどうかを確認したくて始めたと。
そしてちゃんと照れたりするので興味はあるのかな?と思い始めたが今度はさつきさんが照れるのが面白く、かわいくなってきてやめれなくなったとのこと。
思春期の男の子だからね! 気をつけなはれや! と心の中でツッコミをいれた。
色々と納得できたので中学生時代にどう思っていたか少し話そうかな。
「正直に言えば部活が楽しかったのがあるんですよ、あとは、あれです、姉さんたちより魅力的な女子がいなかっんですよ、クラスメイトや同学年、上級生見ても姉さんたちと比べちゃってたんですよ。
頭もよかったし、俺と遺伝子が違うんじゃないかってくらい美人だしね」
俺が言い終わるとそこには静寂が訪れた。
うん、まぁ、恥ずかしいこと言った自覚はあるな。
さつきさんは顔が真っ赤だ、それにゆいさんも顔を背けているが耳が真っ赤になってる。
これはどうしよう、自分で招いた結果だがどうしたらいいのだ。
「いや、あれですよ、憧れの女の人的なやつですよ、でも大丈夫ですよ、欲情はしませんからね」
「しないの!? なんでよ!?」
「いやなんでよってさつきさんおかしいですからね! それに仮にしたとしても本人の前で言わないでしょ!」
はぁ、もう結構遅い時間だからなそろそろお開きにしよう。
「さつきさん、ゆいさん、もう時間も遅いですから寝ましょうか」
「そうね、あたしもそろそろ眠くなってきたしもどろうかしら」
「そうね、おやすみなさい」
おやすみなさいと言って布団に入る人がいる。
おかしいな、俺の部屋なんだが・・・。
「さつきさん、ロープで縛られて部屋に戻されるのと自分で部屋に戻るのとどっちがいいですか?」
「え、かずくん、そういうプレイに興味があるの? ちょ、ちょっとだけだよ?」
「そういうことじゃないんです!」
凄い勢いでゆいさんを見る、助けて・・・と。
「はぁ、さつきあんまりしつこいと本当にかずに嫌われるよ」
「それは嫌ね、寂しいけど部屋に戻るわね、かずくんおやすみー」
「さつきさん、ゆいさんおやすみなさい」
二人を見送って扉を閉めてベッドに倒れ込む。
「疲れた」
そこで意識は途絶えた。