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「美遊さん、おはよう!」
「一弥くん、おはよう」
なんと充実した一週間だったろうか。
美遊さんと登校して、放課後は一緒に勉強までできたしね。
今日から三日間かけて十三科目のテストだ。
この日のためにいつも以上に勉強したんだ、今度こそ遼に学力で勝ってみせる!
小学校から今まで勉強だけは勝てなかったから。
「今日やる気満々だね」
「もちろん、遼に今度こそ一泡吹かせてやろうかと思ってるからね」
「高田くん本当勉強すごくできるよね」
「同じハゲ地獄にいたのになぜか遼は学年トップだったからきっと天才なんだろうね」
「ふふ、ハゲ地獄ってすごい地獄だね」
ハゲたまには役に立つじゃねーか! 美遊さん笑ってくれたわ!
美遊さんの家から英単語や暗記問題を二人で出題しながら教室まで向かった。
ーーー
初日・・・いい調子だ、終わって見直しする時間もあるくらいには余裕があった。
ーーー
二日目・・・これまたいい調子だ、見直してさらに裏に美遊さんの笑顔の肖像画まで描く余裕があった。
ーーー
三日目・・・ちょ、ちょっとだけ暗記し損ねた問題があったけどそこだけだ、いやでも遼相手には致命的だわ。
ーーー
いや、これ、やらかしてるよ。
でももう終わってるからね、うん、切り替えていこう、うん、うん、はぁ。
「一弥、どうだったよ」
「モウシニタイ・・・」
「え、神代くん、そんな悪かったの?
結構集中して勉強してたと思うんだけど」
ええ、頑張った自信はある、だけどね山が外れてのミスって失点・・・もう、練習して忘れたい。
「どの教科でミスったんだよ、数学か? 英語か?」
「日本史の山が外れた間違えた・・・」
「そんなにへこむほど間違えたの?」
「いや、平均点は確保できると思うけど」
「けど?」
遼を指さしながら続けた。
「この完璧超人百点しか取ったことないんだよ。
今回こそ勝ちたかった」
「いや、なんで完璧超人とか言われてるかしらんけど俺も普通にミスって点数落とすから」
とか言うけど百点しか見たことないんだよな、それに挑む時点で俺もどうかと思うけどさ。
実際全教科ミスがないって言ったら嘘になる。
調子は良かったけど詰め込みしたからミスが出てる可能性は大きい。
でもまぁそれをここで騒いでも仕方ないからな、切り替えよ。
「まぁ、終わったことだし悩んでも仕方ないね!」
「お前のその切り替えの早さは尊敬するわ」
昼どうしようかな、美遊さんにLIMEで聞いてみてようかな。
【テストお疲れ様、美遊さんこの後ってなんか用事ある?】
【お疲れ様、女の子たちでお昼ご飯行かないかって話になってるの】
【そっか、じゃあまた明日ってことになるかな?】
【そうだね、ご飯後に買い物行こうって話もでてるからどうなるかわからないから】
【うん、わかった。
じゃあまた明日!
本当は明日からも朝迎えに行きたかったけど朝練再開だから悲しい】
【一週間一緒に登校してたから急にできなくなると寂しいけど、また一緒に登校できるようになるまで一緒に我慢だね
じゃあまた明日ね】
美遊さんとのLIMEも終わったので顔を上げると遼が声をかけてきた。
「終わったか? 星野さんは女子会に呼ばれたから行くってよ」
「あぁ、ごめん、お待たせ。
星野さんの件了解」
さて、なにしようかな、前倒しで勉強する意味もないから練習くらいしかないんだよなぁ。
あぁこれが部活脳ってやつか、遊び、あそび、アソビ・・・。
「なにすればいい?」
「俺に聞くんかい、そうだ、一弥さ、葛城さんにプレゼントとか渡したことあるか?」
「ないなぁ、なんも記念日とかでもないのに渡すの変じゃない?」
「そこはなんか気の利いた理由考えろよ、渡したことないなら買い物でも行くか、今日買わなくても参考にはなるだろ?」
「そうか、確かにどんなものか見るだけでも違うよな、遼くん天才!」
思い立ったが吉日、さっさと帰って着替えよう!
鞄に荷物を詰めながら遼に聞く。
「飯どうする? 俺作ろうか? どっちにしても着替えたいしな」
「あー、そうだな飯ご馳走になるわ、家誰もいないしな買い食いになるから」
「んじゃ、着替えたらうち来てくれよ」
「了解」
ーーー
今日の昼はオムライスと棒々鶏サラダだ。
卵はフワトロでなかなかいい出来だと思うわ、棒々鶏サラダは・・・まぁ誰が作ってもドレッシング次第だからノーコメントだな。
「遼、悪い、さつきさんとゆいさん呼んできてもらっていいかな」
「あいよ」
遼に二人を任せて俺は出来上がったオムライスと棒々鶏サラダを四人分テーブルに置いていく。
あとは冷蔵庫から麦茶、茶箪笥からコップ四つだな。
「かず、遼をパシリに使うんじゃない!」
「ゆいさん、これくらい大丈夫ですよ、いつも神代家のみんなにはお世話になってるんですから」
「遼・・・いい子や、うちの子になりなさい、養子よ、養子!」
「いや、遼のとこ家族みんな存命だから」
「ちっ」
この人舌打ちしたよ!?
いや、確かに遼はいい奴だからなみんなに好かれるけどな。
てかそんなにいい子いい子言うなら付き合えばいいのに、まぁでもその辺はつっこんだら痛い目見るから黙っとこ。
あれ、さつきさんはどうしたんだろう?声がしないんだけど・・・まだ上かな?
「あれ、さつきさんは?」
「いまシャワー浴びてるわ、もうそろそろ上がるんじゃないかしら」
ブォオオオオとドライヤーの音がしてきたので風呂は上がったっぽいな。
ん、そういや遼が来てること知ってたっけ?
遼が家に来たときに飯作るからって部屋に行って声かけたときに言ったはずだ。
うん、流石にそのまま出てはこないよな。
「あら、遼くんいらっしゃい」
あぁあああああ! この人なにしてるの!?
タオル一枚でこっちまでなんできたのよ!?
うら若き乙女がやっていい行動じゃないから!!
「さつきさんなにしてるんですか! 部屋、早く部屋行って服着てきて!」
「なにをそんなに焦ってるの? タオル巻いてるじゃない、それに遼くんは家族みたいなものじゃない」
「家族みたいですけど、それとこれとは別ですから! それに家族だろうと思春期の男子二人には刺激が強いんですよ! ゆいさんちょっと部屋まで連れて行ってください」
「はいはい、さつき、ほら行くよ」
ゆいさんはさつきさんの背を押して階段を登らせて部屋まで連れて行った。
俺は家族だからいいけど、いくら完璧超人の遼でも刺激が強すぎるだろ。
「お前も大変だな、まぁうちも兄貴も姉貴も自由な人だから似たようなもんではあるけどな」
あれ、なんともないのか? いくら姉さんと言う肩書きがあってもちょっとはドキッとしたぞ?
いや、まぁそんなのはどうでもいいよ、さつきさんには乙女としての自覚があるのだろうか。
いや、あるのか、学校では優しい美少女のねこかぶりだったわ。
「遼、先食べてていいぞ、冷めると不味いし」
「いや、さつきさん達を待つよ、それに冷めても美味いと思うぞ」
「そうか、悪いな。
まぁ座って待ってるか」
遼に座るように促し俺も隣に座ってさつきさん達を待つ。
数分するとパタパタと階段を降りてくる足音がした。
「ほら、さつき座って、あたしはもうお腹減ったのよ」
「もう、さつきちゃんは強引だなぁ」
全員席についたかな、じゃあ食べますか。
「「「「いただきます」」」」
うん、美味しくできたかな、少し冷めちゃったけど。
みんな美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるなぁ。
筋トレ以外で趣味と言っていいかわからないけど料理をするのは好きだからね。
スマフォでレシピ調べてレパートリー増やしておこうかな。
「ごちそうさま」
みんなより一足先に食べ終わった俺は皿を台所に下げて、水につけておく。
遼も食べ終わり皿を受け取る際に、洗い物は俺がやると言ってくれたが少ないから大丈夫とくつろいでもらうことにした。
さつきさんとゆいさんからも皿を受け取り洗い物を始める。
「遼、これ終わったら行こうか」
「そうだな、時間はあるに越したことはないからな」
「なにあんたら出かけるの? こないだのリベンジしてやろうかと思ったのに」
ゆいさんはまだブマスラEXでボロ負けしたのが悔しかったらしい。
「それはまた今度付き合うよ」
「かずくん、どこいくの?」
「ちょっとした買い物だよ、まぁ買うかどうかは行ってみて決める感じだけどね」
洗い物も終わりショルダーバック取ってくると告げて部屋へ向かった。
目当てのショルダーバックを持ってリビングへ戻るとなんだかよくわからない光景が飛び込んできた。
さつきさんが遼の脚に泣きながらしがみついているのだ。
そしてそれを剥がそうとゆいさんが奮闘中。
ものの数分でどうしてこうなったのだ?
「やだ! なんでだめなの? 一緒に行ってもいいじゃない!」
買い物に行くなら連れて行け、頷くまで離さない。
と言ったところだろうか?
「さつきさん、とりあえず立って顔洗いにいきましょう、そしたら出かけるのでゆいさんと着替えてきてください、俺と遼はお茶でも飲んで待ってます」
「そんなこと言って先に行くんでしょ?」
「行かないですよ」
「じゃあ一緒に部屋にいて着替えるの待っててよ」
「そうですね、わかりまし・・・ってんなことできるか! ほら、早く顔洗って着替えてきてください。
あんまりわがまま言うと本当に置いて行っちゃいますよ」
俺がそう言うと「わかった」と洗面所に向かった。
「かず、さつきに甘すぎるわ。
あんたには気にしなきゃいけないことがあるでしょ?」
ゆいさんの言いたいことはわかる、それも正しいだろう。
でも・・・。
「泣くほど我慢してたならストレスだってかなり溜まってたんでしょうし、俺らなんかと出かけて発散できるならたまにはね」
今まで通りに毎週末付き合って上げられはしないけど・・・たまにはね。
だって家族だもの、泣いてほしくはない。
「だから甘いって言うのよ、あれ、嘘泣きだからね」
「いやいや、ものすごくボロボロ泣いてたじゃないですか」
「一弥、さつきさんとゆいさんはどうかはわからんが、女ってのはときに本当に怖いんだ」
遼が真剣な声で言ってきた。
「俺は姉貴が怖いときがある、泣きながら電話してたら数秒後には笑って電話してるんだ」
「だからこそ、かずは気をつけなさい、優しさを利用する人はいっぱいいるわ。
まぁあたしも着替えてくるわ、さつきだけだと街中で不安だわ」
ゆいさんは額に手を当てながら自分の部屋へ向かった。
優しい・・・ねぇ。
そんなことはない、万人に優しくするなんてことは無理だから、俺にはあてはまらないね。