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3-41 溢れる力を拳に乗せて

お越しいただきありがとうございます!

 一直線に突き進んでいくリンの背中に、エルトは自身を奮い立たせた。


「リンさん、僕も一緒にっ!」

「わたくしもまいります!」


 走り出すエルトを追いかけようと、ルナが翼をはためかせる。


『あー待った待った!』


 その肩をヴァルマが引き留めた。つんのめったルナはなんとか倒れるのだけは回避した。


「な、なんですかっ!」

『君には僕を守っていてほしいんだ』

「守る?」

『すぐに終わるよ。それまででいいからさ』


 銀の鎧に、ルナの困惑した顔が写った。

 ハイファやシャンと戦いながら後方にも意識は向けていたネヴァンは、予想外の新手に不敵な笑みを浮かべる。


「あら、坊やより先にあなたが来るの?」


 振り向いたハイファは目を見張り、思わず叫んでしまう。


「リン⁉」


 走るペックの上、ネヴァンに照準を合わせたリンが引き金を引く。


「そんなもの……!」


 回避するまでもない。そう判断したネヴァンが、飛来する矢を叩き落とそうと伸びた手は、矢に触れる直前に掻き消えた。


「は?」


 認識した瞬間、矢がネヴァンの左肩に突き刺さる。

 異変はすぐに起こった。


「――うぐっ⁉」


 矢の刺さった箇所から、紫紺の色がネヴァンの身体に広がっていく。


「魔力の流れが止まる……! ヴァルマね!」


 睨みつけた銀の鎧は、兜だけをこちらに向け、身体は作業台に向けていた。


『いいぞリンくん! そのまま残りも撃つんだ!』

「わかったわ!」


 ヴァルマの指示を受け、リンは続けざまに矢を放つ。


「チッ!」


 当たるのはマズいと理解したネヴァンは舌打ちひとつ、跳躍して弾道から外れる。

 そこへ、ハイファが追撃に動いた。


「やあっ!」


 魔力を後方に噴出し、威力と速度を増幅させた異形の拳が、ネヴァンに迫る。

 流体化できなかったネヴァンの左の上半身は粉々に砕け散った。


「よくも……!」


 ネヴァンは人間としての形を一度失って床に浸み込むと、龍骸装の浄化作業を進めるヴァルマの傍に出現した。


「今度こそ叩き壊してやるわぁっ!」


 ネヴァンは残る右腕から伸ばした魔力の鞭を膨張させ、大槌のように振り下ろす。

 ヴァルマに当たる直前、四肢を龍化させたルナがその攻撃を受け止めた。


『いいね! 期待通りの働きだよ!』


 ルナを称賛しながら、なおも作業を続けるヴァルマ。


「それはどう……もっ!」


 ネヴァンを押し返したルナは大きく息を吸い込む。


「――アアァッ!」


 放たれた咆哮は魔力を纏う空気弾となり、ネヴァンを吹き飛ばした。

 着地したネヴァンはよろめき、膝をつくと、怒りと憎悪を込めた眼差しをヴァルマにぶつけた。


「まったく……。本当にムカつくわ、あなた」

『君と真っ向からやり合うわけないだろ。その矢だって、一発当たれば十分なんだ。じきに君の身体は動かなくなる』

「フン……どうかしらね!」


 言うや否や、ネヴァンの身体の断面から赤黒い液体が泡立ち溢れ、変色した部分を排出すると、失われたはずの左半身を衣服ごと再生させた。


「ほぉら、元通り」


 ネヴァンの回復を目の当たりにし、リンは戦慄した。


「そんな……!」


 しかし、ヴァルマに動じる様子はない。


『ああ。それも想定内さ。リンくんは時間稼ぎとして、よくやってくれたよ』


 作業台と腕の接続を解除したヴァルマは、本来の形を取り戻した、胴体部の龍骸装を掴んだ。


『本命は最初からこっちだ! さあシャン殿! これをっ!』


 ヴァルマが後ろへ高く放り投げた龍骸装に向けて、シャンの背中の四本の管から黒煙が伸びる。


「バカね! この位置なら私の方が速い!」


 同時にネヴァンの右の袖からも触手が龍骸装へ追いすがった。確かに黒煙より先んじて龍骸装へ届きかけている。


「魔を阻む輝きを、地を這う者に貸し与えたまえ! ――《エル・ガティロ》!」


 触手が光の壁に遮られた。エルトが発動した光の防御魔法だ。


「シャンさん、今のうちに!」


 エルトが叫ぶのと同時に黒煙が渦となり、龍骸装を取り込んだ。

 龍骸装を包んだ黒煙が体内に戻り、シャンの全身に走る文様が赤く明滅をはじめる。

 リンたちにとって幾度か見た光景。だが、これまでのものと差異があった。


「あ……」


 シャンが龍骸装を手に入れたことに呼応して、ハイファの腕も赤く輝きだしたのである。


「ハイファ? どうしたの?」


 ハイファの様子がおかしいことに気づき、リンはペックに乗ったまま声をかける。


「腕が熱く……!」


 異形の腕の光は、そのままハイファの全身を包んだ。

 シャンの文様の輝きが終わり、背中の管が二本、ずるりと抜け落ちる。


「力が、湧いてくる!」


 瞬間、ハイファを中心に巻き上がる闇色の風。


「きゃあっ!」


 その勢いはすさまじく、間近にいたリンは風にあおられてペックから落ちそうになった。


「リン、ごめんなさい! でも、今なら……!」


 ネヴァンへ走るハイファの動きは、それまでよりも格段に速い。ネヴァンの防御も間に合わないほどだ。


「その程度!」


 拳を叩きつけられて床を転がったネヴァンは、立ち上がると同時に夥しい数の触手を放ち、四方からハイファへ殺到させた。

 回避行動を封じられたハイファは、纏う魔力を全方位に放射して触手たちを蹴散らす。

 霧散していく触手の向こうに驚愕の表情で固まるネヴァンを見つけ、ハイファは最後の攻撃を決意した。


「これで――」


 次の瞬間には、すでにネヴァンの眼前。


「終わらせるっ!」


 拳に魔力を集約し、一気に解放。赤い光の波濤がネヴァンの身体を飲み込んだ。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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