3-34 脱出への攻防
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「ルナ! なにがどうなってんの⁉」
「わかりません! つい先程まで、なんの気配もありませんでした!」
リンの大声に、ルナも大声で返す。
「ですが、あの宣教師、とても嫌な感じがしました!」
「嫌な感じ?」
「あれは、程度は違えどネヴァンと同質の……」
話している間にも壁を破り、建物を壊し、屋根から飛び降り、一行を捕らえようとする追手が次々と飛び出してくる。
「ともかく、一刻も早くここを出ましょう!」
「まだ協力者も見つかってないのに……! ハイファ、エルト! 荷台から落ちないでね!」
リンは背後にいるはずの二人に声を張り上げる。荷台の中ではエルトが錫杖に巻かれた布を取り去るそばで、粉々になった木箱の破片にハイファが視線を落としていた。
「シャン……」
城に消えたシャンを案じるハイファにエルトが声をかけようとしたそのとき、追手の一人が荷台へ取りつき、車体が大きく揺れる。
露店街でエルトを呼び止めた杖売りの老婆だ。装束から覗くそのしわがれた細い腕からは想像もつかない力で荷台にしがみつき、中へ登ろうとしている。
「ハイファさん、離れてっ!」
偽装を解かれた錫杖が一条の光を放つ。直撃を受けた老婆は荷台から剥がれ、地面を転がる。だが老婆は痛みすら感じていないのか、すぐに立ち上がり、俊敏な動きで追跡を再開した。
「た、立った⁉」
驚愕するエルトとハイファ。ハイファは老婆の背後に見える集団から先行してくる影を見つけた。
ルナに膝蹴りを受けたあの男だ。その右腕は獣のように変質し、鋭い爪がぎらりと光っている。
「獣骸装……!」
その男一人だけではない。荷台を追いかける黒衣の中には、様々な獣骸装を発動させた宣教師たちが多数混じっている。
「見えたっ! 出口よ!」
リンの声が弾け、ハイファはエルトと共に前方に視線を移す。確かに門へと続く通路は目と鼻の先にあったが、二人が認識した直後に前方の地面が輝き、せり上がった壁が道を塞いだ。
「う、うそでしょ⁉」
「リンさま、止まらないでください! 何とかします!」
加速したルナが壁に突進し、伸ばした龍の尾を上段から振り下ろす。しかし岩壁はルナの想像以上に頑丈で、削れこそしたが砕くまでには至らない。
「私もいく!」
付け袖を取り払い、荷台を飛び降りるハイファ。滞空している間に異形の腕を顕現し、地面を掴む。
そのまま足の先に力を入れ、地面を力強く蹴ってルナと同じ高度まで跳躍した。
龍の尾と異形の拳の放った一撃が、今度こそ壁を破壊する。
「あ……」
「しまった……!」
着地に意識を向けていたハイファとルナは驚愕の表情を浮かべた。
壁の向こうに並ぶ、銀。
門番として立っていたものと同じ鎧たちが、群れを成してハイファとルナを待ち構えていたのだ。彼らの右手には、金属製の輪が握られている。
「ハイファさま、手を!」
ルナが伸ばした手を掴み、空中に留まろうとするハイファ。だが砕かれた壁の破片がルナの翼を連続して打ち、二人は地面に落下してしまう。
「ハイファ! ルナ!」
鎧たちの中に落ちたハイファは、立ち上がろうとしたところで、背後から飛びかかった鎧によってその輪を首にはめられてしまった。
「うっ、くぁ……」
首輪を付けられたハイファは全身から力が抜け、その場に倒れ込む。
「ハイファさま⁉」
突然倒れたハイファに驚いたルナにも同じく鎧たちが殺到する。
「気安く――!」
腕を掴む手を振り払おうとしたルナの動きが、突然止まった。その一瞬は決定的で、ルナは首だけでなく手足にも輪がつけられ、苦悶の表情のまま膝をついた。
「リ、リンさん! ハイファさんたちが⁉」
二人が倒れる光景を目の当たりにし、エルトが悲鳴に近い声をあげる。
「あの鎧たち……!」
怒りを露わにしたリンは、手綱を振るいペックにさらなる加速を指示した。
「二人から離れなさい!」
ペックも甲高く鳴いて鎧たちを威嚇するが、鎧たちは動じない。それどころか突進してくる荷台に向かい、全方位からリンとエルト、そしてペックまでも拘束しようと動き出した。
「き、来たっ!」
荷台に侵入してきた鎧に、エルトは錫杖を構えて魔力を放つ。しかし、鎧は先ほどの老婆以上に光を意に介さずエルトへと迫った。
「魔法が効かない⁉」
「は、放して! 放しなさいよ!」
ペックから引きずり降ろされたリンは、そのまま殺到する鎧たちに押さえつけられ、身動きが取れなくなる。
「なんなのよあんたたち! ハイファとルナに何をしたのよっ!」
それでもなお、リンはハイファのもとへ駆けようと必死にもがき、足掻く。
だが、多勢に無勢。リンにも首輪が嵌められ、息苦しさとともに眩暈に襲われた。
エルトは抵抗を続けているのか、魔力の光が視界の端で明滅している。
「ハイ……ファ……!」
倒れ伏したハイファが鎧たちに抱えあげられる光景を薄れていく意識に焼きつけて、リンの視界は暗黒に覆われた。
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