3-33 豹変する国
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「なんなの……? 城が、赤く光ってる……」
灰白の城壁が黒く染まり、禍々しい赤色光を放っている。
リンを立たせたルナも、リューゲル城を睨みつけたままだ。
「あの城から強い魔力が発せられています。ですが、なぜ突然……!」
変化はさらに起きる。荷台から出るガタガタと何かが激しく揺れる音が、ハイファたちの鼓膜を震わせた。
「な、なにっ?」
「荷台? まさか――!」
リンが音の正体を口にしようとするより早く、その正体が箱を砕き、勢いよく荷台を飛び出した。
「シャン⁉」
シャンが腰から下を黒煙にして空へ登っていく。そのまま沈み込むように、変容した城へと飛び込んでいった。
「ど、どこに行くのっ⁉」
「リンさん気を付けて! いつの間にか僕たち、囲まれています」
見れば、自分たちを取り囲むように、大勢の人々が壁を作っていた。
男も女も、老人も子どもも、すべての者が感情の消え失せた顔でこちらを注視している。
「どういうことなの、いったい……」
リンはこの異様な状況に戸惑いつつも、万が一を考えて鞄に忍ばせていたボウガンを手に取った。
「この人たち、なんだか変だよ……!」
ハイファは向けられる夥しい数の無表情に、今まで感じたことのない恐怖を覚える。
人垣の一部が左右に分かれ、奥から一人の男が現れた。全身を包むその闇色の装束に、ハイファたちの思考は一致した。
「龍瞳教団……!」
「貴様らだな。この地にやってきた旅の行商というのは」
男が装束の頭を覆っていた部分を下ろす。露わになった顔に、リンは男の声に聞き覚えがある理由を理解した。
「あなた……。さっきぶりね。そう言えば名前、聞いてなかったわ」
一行を宿まで案内した青果店の店主だ。
しかし、昼間のような朗らかさはない。感情のない作り物のような双眸がこちらを睨みつけてくる。
「名乗る必要はない。俺は務めを果たすだけだ」
「ぼ、僕たちを殺すつもりですかっ!」
ハイファの前に立ち、布が巻かれた錫杖を構えるエルトが叫ぶ。
「お前たちを捕らえよという、我らの王のご命令だ」
男は淡々と、ともすれば抑揚も少ない声音で応答した。そしてその声を合図に、人垣の間から男と同じ装束を纏う宣教師が出てくる。
「大人しくしてもらおう。さもなく――」
グシャッ、と何かが砕ける音によって男の言葉が途切れる。スカートを翻して飛んだルナによる膝蹴りが、男の顔面に直撃していた。
「失礼。隙だらけでしたもので」
白々しく言ってのけたルナに、ハイファたちは呆気にとられる。
「……さもなくば」
男の手が、ルナの脚に伸びた。
「こちらも相応の手段を取らせてもらう」
ルナは戦慄した。龍と比べるべくもないほどに脆弱な人間が、顔面に膝蹴りを受けてなおも動いたことに。
そして、男の顔がひび割れ、中から城と同じ赤い光を発していることに――!
「っ!」
男を蹴り飛ばして着地したルナは、視線は前に向けたままリンへ叫んだ。
「リンさま! 今すぐ脱出を!」
「でもシャンが!」
「急いでっ!」
ルナの様子にこの状況がかなりまずいと直感したリンは、その直感に従った。
「ハイファ、エルト! 乗って!」
自分もペックの背に飛び乗りながらハイファとエルトに指示する。
「ハイファさん!」
エルトがハイファの手を掴み、荷台へと転がり込む。
直後、荷台を取り囲んでいたリューゲルの民が堰が決壊するように押し寄せてきた。
リンが手綱を一度強く振るい、ペックは人垣へ突進する。蹴散らされた人々は無表情のまま地面に転がり、そして無表情のまま立ち上がって追いかけてくる。
「ルナ、早く!」
荷台を乗り出したハイファの声に振り向き、龍翼を広げたルナが飛翔し、こちらへ伸びる無数の手を躱しながら荷台の横についた。
広場を抜け、荷台はリューゲルへ入った時にくぐった門に直結する大通りへ入る。
待ち構えていたのは、街を埋め尽くす黒。
リンたちの目に映るリューゲルの民は、みな教団の装束を纏っていた。
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