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3-6 見えない入り口

お越しいただきありがとうございます!

 やがて、一行を示す地図上の紫の光は、紙の中央に留まった。

 ついに目的地に到着したのだ。

 到着したのだが……。


「ここが、龍の魔峰への入り口?」


 荷台を降りたハイファが周囲を見渡す。


「思ってたのと少し……いえ、かなり、違うわね」


 リンの口からそんな言葉が出るのも無理はない。なぜなら、ここは――。


「どう見ても、ただの村のようですが……」


 ハイファの隣に立つエルトの言う通り、ここはどこにでもあるような、小さな村であった。


 小さくともしっかりした造りの家々が並び、往来のそこかしこから賑やかな話し声も聞こえてきて、寂れているというわけでもない。


「どうなってんだ? 指定されてる場所は確かにここのはずだぞ?」


 アレンが広げた紙と目の前の光景を交互に確認し、手近にいた村人に声をかけた。


「なあ、そこのばあさん。ちょっといいか?」


 アレンの前を素通りしかけた老婆は、一拍遅れてから反応する。


「はい? 私に何か?」

「このあたりに、龍の魔峰へ通じる道があるはずなんだが、何か知らないか?」


 老婆はきょとんとして、それからおかしそうに笑った。


「ほほほ。あなた、それをどこで聞いたのかしら? それはこのムルジ村に伝わる()()()()()ですよ」

「村に伝わる?」

「大昔の?」

「伝説?」


 リンたちの視線が、アレンに集中する。

 アレンは背後に嫌な重圧を覚えつつ、老婆に質問を続けた。


「そ、その伝説ってのはどんな内容なんだ?」

「確か、遠い昔に龍に恋をしたお姫様が、叶わぬ恋を嘆いてこの近くの山で命を落としたとかなんとか……。すみませんね。私も詳しい話はあまり覚えていないんですの」


 アレンは軽い眩暈がしたが、すがる思いでさらに重ねた。


「なら、伝説に関する祠とか、遺跡とか、そういうものはあるか?」

「さてねぇ、この村にそんなものがあるとは……」


 老婆は首を横に振り、アレンはいよいよ途方にくれる。


「あ、いたいた! おばあちゃーん!」


 茶色い髪をふたつに結った、ハイファと同年代くらいの少女が駆け寄ってきた。どうやらこの老婆の孫らしい。


「どうしたの、エノ? そんなに慌てて」

「お母さんが準備を手伝ってほしいんだって! はやくはやく!」

「今行くよ。それじゃあ、私はこれで」


 会釈した老婆にならって、少女もアレンに小さく頭を下げた。


 立ち尽くすアレンに、リン、ハイファ、エルトはどう言葉をかけたらいいかわからない。


「どういうことだ、あのジジイ……。さては適当なこと抜かしやがったな……!」


 わなわなと震えるアレン。握っていた紙がつぶれて、クシャリと乾いた音を立てる。


「ねえアレン、ちょっとそれ、見せてもらってもいい?」


 意を決して話しかけ、視線で人を殺せそうな形相のアレンから紙を受け取ったリンは、皺だらけのそれを広げ、なおも光る点の周囲を分析した。


「真ん中が私たちなのよね? 光る点とちょうど重なってるから、目的地はここに間違いはなさそうだけど……」

「龍に関係するようななにかがあるようにも見えませんね」


 リンのそばに立って紙を覗き込んだエルトも、不思議そうに周囲を見渡す。


「もしかして、私たち、迷子なの?」


 ハイファの言葉がアレンの胸に突き刺さった。


「ま、待て。それはまずい。それじゃあ俺も困る」

「私たちも困るわよ。ここまで連れてこられて何もないなんて、割りに合わないわ」


 腰に手を当てたリンが慌てた様子のアレンに言う。言い方には少し棘があった。


「ここで立ち往生してもよくないし、とりあえず情報収集といきましょう」


 リンに仕切られ、一行は村の探索を開始する。

 そう広くない村の探索はすぐに終わったが、結果は芳しくなかった。


「ダメね。まったく手掛かりなしだわ」

「みなさん、大昔の伝説でしか龍の魔峰をご存じないようですね。しかも、今日はそれどころではないみたいですし……」


 エルトの言葉にハイファも同調した。


「みんな、忙しそう」


 三人目に尋ねた村人から、今日はこの村の村長の息子が結婚するため、村ぐるみで祝いの宴を開くと聞かされたリンたちは、それ以降、村人たちに話しかけづらくなってしまい、聞き込みもままならなかったのである。


「間が悪かったのかしらね。アレン、どうするのよ」


 リンが話を振ったが、アレンは返事をしなかった。宴のことを聞いてからというもの、アレンは表情を硬くしたまま、急に口数が減ってしまったのだ。


 いよいよ手詰まり。リンがそう思いかけた時だった。


「あ、あのっ!」


 不意に横から声をかけられた。


「あれ? あなた、さっきの……」


 それは、この集落に入って最初に声をかけた老婆の孫娘エノであった。

 顔を上気させて肩で息をするエノは、呼吸を整えてはっきりと言い放つ。


「おじいちゃんが、すぐに連れてこいって!」


 一拍の間を置いて、リンたちは停滞の壁が崩れるのを感じた。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


感想、レビューも随時受け付けております!

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