3-5 境界を越えて
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「なにかしら、これ」
「見たところ、何かの石像のようですが……」
長い間雨ざらしだったためか風化している石像は、かろうじて輪郭を保っていたが、それが一体なにをかたどっているのかはまでは判別できない。
「もしかして、これが怖いんでしょうか?」
「まっさかぁ! ねえ、ペック、いくらなんでもそれは……」
笑いながら振り返ったリンだが、じり、と後ずさりしたペックに笑みが凍りつく。
「え、本当にそうなの?」
「どうする? こいつを壊せば鳥の問題も解決するのか?」
「ダメですよアレンさん! こういう石像は現地の人たちが大切にしているものかもしれませんし、壊すなんて論外です!」
「バレないだろ。こんなボロボロになっちまってたら、ずっとこうだったに決まってる」
「ですけど……」
繰り広げられる会話を聞き流しながら、ハイファはペックの顔に触れた。
ハイファを認識したペックが、ハイファの小さな手に嘴をこすりつける。手のひらにペックの怯えを感じ取れたハイファは、ペックに微笑んだ。
「大丈夫。みんな一緒だから、怖くないよ」
ハイファが手綱を引いて歩き出すと、ペックが一歩、また一歩と前進した。
「怖くない。怖くない……」
言い聞かせるようにして、歩を進める。
実のところ、ハイファにもペックが怯えている原因はわかっていなかった。
それでも、この先に求めるものがあるならば、立ち止まってはいられない。
そして、ハイファはリンたちがいる石像のそばに――。
「っ⁉」
踏み込んだ瞬間。ズン、と肩に『重さ』がのしかかった。
立てなくなるほどではないが、重みがある。まるで、世界がかさを増したような、そんな感覚だ。
「ハイファさん?」
立ち止まったハイファに、エルトの心配そうな声が届く。
「今、誰かに肩を押さえつけられたような……。みんなは、何も感じなかったの?」
そう問われ、顔を見わせる三人。
「言われてみれば……。少し身体が重いかも」
「僕もです。山を登ってきましたから、てっきりそのせいかと思ってました」
「龍の魔峰に近づいてる影響かもな。どうだ、鳥は大丈夫そうか?」
ハイファから手綱を受け取ったリンは、ペックの顔つきが先ほどと代わっていることを感じ取った。
「平気よ。腹を括った顔してるもの。ハイファに励まされて、やる気が出たみたい」
リンの言う通り、ペックにはもう怯えた様子はない。
「よかった。ペック、えらいね」
ハイファに頭を撫でられて嬉しそうに鳴いたペックは、リンへ鞍に乗るように急かした。
「急に元気になったわね、この子……。ハイファもありがとう。身体が重いのは大丈夫?」
「うん。もうなんともないよ」
「終始よくわからなかったが……。問題ないなら先を急ぐぞ」
アレンに促され、一行はまた移動を開始する。
エルトに続いて荷台に戻ったハイファは、すでに動き出した荷台から、ふと後方に目をやった。
いつの間にか消えていた重さの正体はわからない。
けれど、風化した石像がなぜかすぐには忘れられそうになかった。
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