3-4 阻まれる道
お越しいただきありがとうございます!
翌日。
準備を整えて再び出発した一行は、川沿いに平野を進み、アレンの案内に従って岩肌が剥き出しの山道を上がり始めていた。
「なんだかそれらしくなってきたわね」
なだらかな傾斜を登りながら、リンはペックの上でそう零した。
「みなさん、気をつけてください。こういった場所には魔獣が出やすいんです」
荷台の前部から顔を出したエルトが一行に注意を促す。
「エルト、わかるの?」
シャンの向かいに座っていたハイファが、流れる景色からエルトに視線を向けた。
「はい。師匠の魔獣討伐に同行した際に、似たような場所に来ました。その時はヤクルスの群れがいたんですよ。ハイファさんはご存じですか? ヤクルス」
「ううん。知らない。どんなの?」
「羽の生えた蛇なんです。一匹ではそれほどでもないんですけど、群れだと厄介で。討伐を依頼した集落も、ヤクルスの群れに家畜が襲われていて大変だったんです」
その話を背中越しに聞いたリンは感心した風に声を上げる。
「へえ、やっぱりそういう仕事もしてた――ん?」
突然、ペックが歩を止めた。
「どうしたのよペック? 急に止まって」
リンが声をかけても、ペックは反応しない。
「疲れちゃったのかな?」
ハイファの言葉に否定も肯定もせず、鞍を降りたリンはペックの顔を覗き込んだ。
「ん~。というよりは……」
忙しなく首を動かし、瞳孔の伸縮を繰り返すその様子は、リンがレックレリムの習性として知っているものと一致していた。
「何かに、怯えてる?」
「怯えて……? まっ、まさか、本当に魔獣がいるんですか⁉」
「わからん。だが、注意しろ!」
アレンの鋭い声にハイファとエルトは荷台の後ろに降りる。
「ハイファさんは僕の後ろに。僕が、守りますから」
「ありがとう。けど、私も……!」
エルトが錫杖を構え、その近くでハイファは付け袖に指をかけた。
張り詰めた空気を、岩山に吹きこんだ風が貫いていく。
しかし、魔獣は一向に現れる気配がない。
「……何も、起きないわね」
沈黙を破ったリンの声に、アレンも同意した。
「ああ。気配のけの字もありゃしない。その鳥の気のせいじゃないのか?」
「うーん……。どう? ペック、まだ怖い?」
リンが尋ねると、ペックは一度短く鳴いた。それを肯定と捉えたリンは、アレンに肩をすくめてみせた。
「レックレリムは勘がいいらしいからな。つっても、ここで立ち往生するわけにもいかないぜ。まだ目的地と光の位置が重なってないんだ」
アレンが手に持った地図では、確かに紫の光は地図の中央には到達していない。それはここが目的地ではないことを示している。
「進むしかないみたいね。ほらペック、ぐずってないで。はやく行きましょ」
リンが手綱を引くと、ペックは拒否するように首を振り、脚に力を入れてしまった。
ペックは荷台を運ぶ役割を果たしている以前に、大切な仲間。リンには置いていくという考えはない。
「弱ったわね……。アレン、引き返しても別の道ってあるかしら?」
「難しいな。ここまでの道中、他に道らしい道もなかったろ」
警戒を解いたリンとアレンのもとに、ハイファとエルトも集まる。
「ペック、動きませんか?」
「そうなのよ。エルト、あなたの魔法でなんとかならない?」
「できなくもないと思いますが……」
会話するエルトとリンの間から、ハイファは前方の岩壁になにかがあることに気づいた。
「ねえ。あれ、なんだろう」
ハイファが指差した先には、小さな子どもほどの大きさの石像が立っていた。
ご覧いただきありがとうございます!
次回更新は明日です!
少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!
感想、レビューも随時受け付けております!