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3-2 ハイファの願い

お越しいただきありがとうございます!

 平原にまっすぐに伸びる道に、カタカタと車輪の転がる小気味いい音が鳴る。

 音の正体は、猛禽の頭を持つ四足の魔獣に引かれる荷台である。その背に置かれた鞍には、夕日色の髪を後ろに束ねた少女――リンが座っていた。

 ペックの手綱を掴んで前方を見るリンは、時おり視線を少しだけ左に向けている。

 そこに、自分を先導する痩身の男が歩いているからだ。


「ねえ」


 リンが声を発すると、男は歩いたまま顔をこちらに向けた。


「あなたも荷台に乗ったら? ずっと歩きっぱなしで疲れない?」


 しかし男――アレンは再び視線を前に戻して、短く答えた。


「気持ちだけもらっておく」


 無愛想な言い方だが、リンはそれほど嫌な気持ちにはならなかった。


「あの子たちを変に緊張させたくない」


 アレンが、荷台に乗っている子どもたちに気を回すことができる人間だと知っていたからだ。


「それにしても、まさかマクルを素通りとはね。てっきり立ち寄ると思ってたわ」

「陽が沈む前に少しでも距離を稼いでおきたいんでな」


 加えて会話も成立するあたりも、リンに安心感を与えていた。


「ところで、どんなところなの? 龍の魔峰なんて地名、噂にも聞いたことないわ」

「さてな。俺もよくわからん」

「え?」

「俺が知っているのは、あの場所のほんの一部だ」

「ほんの一部って……。じゃあ、私たちどこに向かってるのよ」

「龍の魔峰には直接は行けない。ジジイが言うには、入れるのはこいつの示す地点からだけらしい」


 アレンが見せた古く色褪せた紙は、一点が紫色の光を明滅させている。リンにはそれが地図のように見えた。


「その光と一致する場所に向かってるのね?」

「ああ。光が中央に近づけば目的地に近づいてることになる」

「へえ。便利なものね」

「と言っても、俺もこうやって地上から自分の足で行くのは初めてで、順調なのかどうかを聞かれると困るがな」

「な……」


 目を丸くしたリンの顔を見て、アレンは眉を下げて笑った。


「安心しろ。お前たちは必ず連れていく。それが俺の目的にも繋がるからな」


 アレンは視線を前に戻し、先ほどから全く変わらない足取りで道を歩く。


「……私たち、やっぱり騙されてるんじゃないかしら?」


 途端に不安が増してきたが、リンは進む選択肢を取る。

 彼女の胸には、この旅を必ず完遂するという強い決意があった。


「山を下りたら、だいぶ景色の雰囲気が変わりましたね」


 星皇教会の司教(プリストス)を務める少年―エルトが、荷台のほろの間から流れる景色を見ながら言葉を紡ぐ。相手は隣に座っている同じ年ごろの少女―ハイファだ。


「……………」


 しかし、当のハイファはどこか上の空で、返事をしない。


「ハイファさん?」

「えっ? あ……ごめん。聞いてなかった」

「い、いいですいいです。別に大したこと言ってませんから」

「そう……」


 沈黙するハイファ。荷台はまた静かになる。

 エルトは会話の糸口を探そうと、自分たちの向かいに座る異形の大男―シャンに視線を投げるが、一度も声を聞いたことのない男は不動の姿勢を貫いている。


「ねえ、エルト」

「は、はい⁉」


 期せずしてハイファの方から声をかけられ、エルトはうわずった返事をしてしまう。


「なんですか、ハイファさん」


 ハイファはエルトにだけ聞こえるように、身体を寄せて囁いた。


「エルトに、お願いがあるの」

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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