3-1 果ての城
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東の果ての国、リューゲル。その中央にそびえる城の最上階。玉座の間。
一体の鎧が腕を組み、憮然とした様子で玉座に腰を下ろしている。
『まったく。様子を見に行くだけって言ったのに、ずいぶん帰りが遅いじゃないか』
この国の王にして龍瞳教団の大司教であるヴァルマにそうなじられたのは、悪びれる様子もなく自分の手の爪を見ている女神官。
「ごめんなさい。とても反省してるわ」
『せめて態度と言動を一致させてほしいんだけどね!』
怒声とともに立ち上がったヴァルマの鎧が、硬質な音を玉座に響かせる。
「なによ、そんなに怒らなくたっていいじゃない」
『怒りたくもなるさ! 君が勝手に動くから、危うく彼の全てが揃ってしまうところだったんだぞ! 計画が台無しになる一歩手前だ!』
「そうはならなかったんだからいいでしょ。よかったじゃない」
どうあっても自分の非を認めようとしない女神官。
『まあ、君が僕の指示をしっかり守ったことなんてなかったけどさ……』
ため息をついたヴァルマは女神官に背を向け、奥の扉へと歩き出した。
「あら、お説教は終わり? 珍しくすごい剣幕だから付き合ってあげたのに」
『僕も忙しいんだ。君の行動の後始末、大変なんだぞ。とにかく、これからはもっと慎重な行動を心がけてくれよ』
一人玉座の間に取り残された女神官は、肩を小さく上下させ、自身もこの場を去ろうと踵を返す。
「………………」
振り向いた女神官の前に、薄汚れた灰色のローブを纏う一人の女が立っていた。
「来たわね。思ったより早かったじゃない」
女は返事をせず、ただ無表情に、枯れ木のように立ち尽くす。
「長旅ご苦労様。って言っても意味ないかしらね。フフ……」
女神官の手によって頭巾が取られ、その下の素顔が露わになった。
傷だらけだが、整った顔立ちの若い女の顔。
しかし、その表情は虚ろで、緋色の瞳は何も映していない。
女神官は愉悦に口の端を曲げ、女の頬を撫でた。
「それじゃあ行きましょうか。あなたに、会いたがってる人がいるのよ」
※※※
『まったく、彼女の奔放には肝が冷える……』
自室に戻ったヴァルマはぼやきながら扉に手をかざし、魔力を流し込んだ。
扉に光の帯が幾重にも重なり、浸透するように消える。それは、ヴァルマが施した隔絶魔法の起動の証であった。
この魔法が発動した瞬間から、部屋は強力な結界と化し、外部からの干渉を一切受けなくなる。
『さて……。始めるか』
ヴァルマは部屋の中央の作業台に足を運び、並べられた器具の一つを手に取る。
『観測した魔力からして、残された時間も多くはないな』
ヴァルマの前には、鉱物や生物の一部といった一見して関連性のない物が広げられている。
しかし、その全てが魔力を帯びていたり、魔獣から摘出したものであることなどは、見る者が見ればわかってしまう。
ただ、これらの物からヴァルマが何を作ろうとしているのかを看破できる者は少ない。
『なんとか、彼らが来る前に完成させないと……』
そして、ヴァルマは自分の為すべきことに没入していく。
すべては、そう遠くない決着の時に備えるために。
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