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2-33 嘲笑う魔眼

お越しいただきありがとうございます!

 この場にいた、ハイファを除く全ての者が、息を飲む。


「――ッ!」


 魔獣だけが、新たに現れた獲物に雄叫びをあげた。

 ハイファは突進してくる魔獣を正面から迎え撃ち、拳と拳がぶつかり合う。

 拮抗した力にハイファは姿勢を僅かに崩す。

 しかし、瞳だけは、逸らさなかった。


「チャフも助ける! だって、友達だから!」


 涙を振り切って、振り絞った勇気と覚悟を胸に、ハイファは決意を握りしめた。


「は、ハイファさん、待って……」


 ふらふらと手を伸ばすエルトだったが、限界を迎えた肉体が意識を投げ捨ててしまった。


「な、なんだよ、あれ……」

「あの娘、まさか宣教師?」


 目の前の光景を信じることができないレイバとノイドは、剣をぶつけ合うことすら忘れ、ハイファと魔獣の激突に見入っていた。


「なるほど。これは予想外だ」


 ゼモンの言葉にレイバは我に返る。


「お前、何を知ってる!」

「なに、あの子どもも我々の同類だったということだ」

「ふざけたことを!」


 レイバが腕を振るうも、ノイドがすかさずゼモンを守りに動く。


「ゼモンさま、退きますか?」

「何を言う。ここでまとめて叩かねば厄介だ。幸い、あの小娘も戦いには慣れていないようだしな」


 ゼモンの言う通り、ハイファは魔獣の攻撃に対して反撃らしい反撃をしていなかった。


「――! ――ッ!」

「チャフ! 目を覚まして!」


 呼びかけるばかりで、その異形の腕を振るわない。ゼモンは悪意に満ち満ちた目でハイファを観察し、歩き出した。


「ノイド、レイバを食い止めておけ」

「はっ!」

「待ちやが――」


 追いかけようとしたレイバは、ゼモンの命を忠実に守るノイドに止められてしまう。


「ノイド、どうしてあんなやつの味方をする! あいつはチャフをあんな化け物に変えちまったんだぞ⁉」

「俺の知ったことではない。俺は、あの方のために剣を振るうだけだ」

「お前は……!」


 振り下ろされる剣を受け止め、睨みつけてくるレイバをノイドは睨み返す。


「わからないよな。獣骸装を使えるお前には。誰からも必要とされず、獣骸装を纏うことすらできない俺の惨めさなんて!」

「知るかそんなもん!」


 剣を押しのけ、アルミラージの堅角の連続突きを浴びせるレイバ。


「境遇なんて知ったことじゃねえ! 村にいる連中は、過去を捨てて生きてるんだろ! 村にお前をバカにするようなやつがいたかよ! ええ⁉」

「なにをっ!」

「なのにお前ときたら、誘ってもつっけんどんに断って剣ばっか振りやがって!」


 洗脳されていたころの記憶は、洗脳が解けた後も残っている。レイバはこれまでのノイドの態度を思い出して、鬱憤が溜まっていた。


「俺やオルネスより年が近いから、チャフはお前のこと気にかけてたんだぞ! お前ともっと仲良くなりたいってよ!」

「それは、ゼモンさまの洗脳でそう仕向けられていただけにすぎない!」


 吐き捨てたノイドは突きを上から叩いて止め、寝かせた刃でレイバの喉笛を狙う。


「どうだかなぁっ!」


 レイバは大きく身体を弓なりに反らし、斬撃を躱した。


「……ノイド、考え直す気はないのか?」


 静かな口調になったレイバに、ノイドは剣先を向けて短く叫ぶ。


「くどいっ!」

「そうか……。じゃあ、もう何も言わねぇよ」


 堅角の回転数が増え、音も大きくなる。


「最初で最後の、命がけの大喧嘩だ。お前は、俺が『救済』する」

「俺は最初からそのつもりだったぜ、堅角の宣教師」


 いつ以来かの呼び名に小さく笑い、二人は再び刃を交える。

 魔獣の近くに寄ったゼモンは、コルジケプスの眼を胸の高さに上げ、魔獣に声を張った。


「子ども一人に何を手こずる! さっさと叩き潰せ!」


 ゼモンの声に反応したのか、魔獣は地面を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴りながら、でたらめな軌道でハイファに襲いかかる。


「チャフに! ひどいことをさせないで!」


 しかしハイファは右腕で受け止め、左腕で魔獣を抑え込む。

 魔獣は身体を大きく揺さぶって逃れると、しならせた尾でハイファの背を叩いた。


「ああっ!」


 痛みに顔を歪め、身体をぐらつかせたハイファに、魔獣は回し蹴りを叩きこむ。

 苦し気な呻き声を上げ、地面を転がるハイファ。


「いけないっ!」


 オルネスは咄嗟に横に飛んでハイファを受け止めた。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう……!」


 詰まった息を吐き出してオルネスと並び立つハイファは、ゼモンの右腕に注目した。


「それで、チャフを苦しめてるの⁉」

「だったら、なんだね?」


 獣骸装の目玉をぎょろりと動かすゼモンに、ハイファは奥歯を噛み締める。


「今すぐチャフを元に戻して! リンを返して! エルトのっ、師匠さんも!」


 懸命に叫ぶハイファの姿をゼモンは鼻で笑う。


「やはり、子どもだな」


 コルジケプスの眼に青い炎のような魔力が灯る。同じくして、魔獣の身体も青白い光に包まれた。


「バンデロシュオ、あの大司教から奪った魔力だ。そして振るうがいい。お前の獣骸装、《ベヒモスの大蹄》の力を」


 ゼモンの言葉のあと、魔獣の身体が変化を始める。内側から無理やり押し広げるように手脚の筋肉が増え、足は魔獣随一の巨体を誇るベヒモスに似た太く大きなものになった。


「――!」


 が、身体の変化に耐えられないのか、魔獣は膝を折ってのたうち、苦しげな声を上げ続ける。


「やめて! チャフが苦しそう!」

「それ以上は!」


 全身の血液が沸騰しそうなほどの怒りに燃えるオルネスがゼモンに攻撃をしかけるが、二体の虫がそれを阻み、届かない。


「やめてって、言ってるのに!」


 蟲の頭上を越え、拳を構えたハイファがゼモンに飛びかかる。


「ふん。使いこなしているのか振り回されているのかわからんが……。私に近づいたのは下策だったな!」


 ゼモンの獣骸装が突き出され、ハイファはその魔眼と視線を交わしてしまった。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


感想、レビューも随時受け付けております!

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