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2-29 友のために

お越しいただきありがとうございます!

「チャフさんが、ま、魔獣に……!」


 地面に下ろされながら、愕然とするエルト。

 その隣で、ハイファは別のことに驚いていた。


「腕が……熱い……」

 湖に現れた巨大な魚型の魔獣を感知したときの、傷が熱を放つ感覚。

 チャフが魔獣に姿を変えた直後から、痛みを伴うほどの熱を腕が帯びている。


「――!」


 無数の牙を持つ口腔から放たれた叫びが遺跡全体を震わせ、天井から砂が落ちる。


「そうだ! 猛るがいい! バンデロシュオ! お前の新しい餌だぞ!」


 自らの切り札に両手を広げて笑うゼモン。


「ゼモォォォォンッ!」


 怒りの形相のレイバが、ゼモンに肉薄する。互いの獣骸装が激突した。


「あれはなんだ! チャフに何をした!」

「わからないか? お前たちがチャフと呼んでいたものは、初めから私の駒だったのだよ!」

「なんだと……!」


 追求しようとしたレイバを横殴りの衝撃が襲う。

 高速で移動した魔獣が、その拳をレイバに叩きつけたのだ。


「レイバッ!」


 壁に身体を打ち付けたレイバに叫ぶオルネス。しかしレイバはすぐに態勢を立て直して叫び返した。


「オルネス、チャフの動きを止めろ!」

「……わかりました!」


 一秒にも満たない躊躇いのあと、四本の触手が魔獣に伸びた。

 魔獣は触手の動きを察知し、後方へ跳躍。着地と同時にオルネスに狙いを定めて一直線に突進する。


「速っ……!」


 直撃を覚悟するオルネスに魔獣の爪が届く直前、青い半透明の壁が二者を隔てた。


「防御魔法? エルトくん⁉︎」


 振り向いたオルネスが見たのは、錫杖を構えこちらを見据えているエルトだ。


「早く離れてください! 長くはもちません!」


 言葉通り、オルネスが後退すると壁は脆く砕けた。


「ありがとうございます、エルトくん。助かりました」

「い、いえ。無事でよかっ――」

「エルト⁉︎」


 ぐらりと姿勢を崩すエルトをハイファは反射的に抱き留めた。


「やっぱり、詠唱破棄はキツいな……。師匠のようにはいかないですね……」


 エルトは全力で走り続けたかのような状態で、浅い息を繰り返す。


「でも、僕だって、戦えるんだ……!」


 自力でハイファから離れ、震える足に力を入れたエルトは、叫んだ。


「レイバさん! オルネスさん! 援護します!」


 真剣な表情のエルトに、レイバとオルネスは頷く。


「わ、私も……」


 ハイファは付け袖に指をかけたが、隣に立つエルトに気づいて固まった。

 エルトは、何も知らないのだ。

 異形の腕を見たら、どんな反応をされるだろうか。


 恐ろしいと、コンベルの人々のように拒絶されてしまう?

 騙していたのかと、ヒュウリのように憤慨される?

 腕を役立てようとしても、結局は何にもならない?

 嫌だ。

 怖い。

 友達を、失いたくない。


「……っ」


 指が、付け袖から離れた。


「おい、戦えないなら離れろ!」


 ノイドに抱え上げられ、ハイファは我に返った。

 壁に空いた穴の中に押し込まれ、ノイドと顔を突き合わせる。


「いいか、ここから絶対に出るなよ」


 無言のまま首を上下させたハイファから離れ、ノイドはレイバたちに怒鳴った。


「レイバ、オルネス! 俺は例の攫われた二人を探す! ここは任せた!」

「わかった! そっちは頼む!」

「……じゃあな」


 ハイファにそう告げて、ノイドは走り去っていった。


「いいのか、あいつもいれば少しは勝てる見込みもできように」


 嘲笑するゼモンに、レイバは不敵に笑い返す。


「抜かせ。前は不意打ちだったが、今回は違う。真正面からなら負けねえよ!」


 言葉とともに飛んできた蹴りによろめくゼモン。飛び上がっていたレイバが向ける角にして槍が閃く。


「もらった!」

「いいや、やらぬさ」


 レイバは横からの衝撃に吹き飛ばされ、壁に激突した。


「が……っ!」


 攻撃。その正体は、チャフだった魔獣。


「潰せ」

「――!」


 ゼモンの命令を遂行すべく、魔獣の拳がレイバに襲い掛かる。


「させない!」


 間一髪、オルネスが伸ばした触手の一本がレイバの腰に巻き付き、一気に引き寄せた。

 魔獣の拳が壁を粉砕する。直撃していれば命はなかっただろうと、レイバは鼻白んだ。


「レイバ、大丈夫ですか」

「ああ、助かったぜ」


 地面に降りたレイバは、ゼモンの笑い声に顔を向けた。


「はははっ! バンデロシュオは我が最強の力! 貴様らのような半端者が太刀打ちできるものか!」

「言ってくれるぜ。用心棒がいるだけで息巻きやがる」

「見たところチャフはゼモンが操っているようですし、やつを倒せばチャフも元に戻るかもしれませんね」

「でしたら、僕が!」


 前に出たエルトが錫杖の底で地面を突くと、エルトを中心に魔法陣が展開した。


「お二人はチャフさんを引き留めてください!」

「おう!」

「頼みましたよ!」


 左右から挟撃を仕掛ける動きを見せるレイバとオルネス。


「バンデロシュオ、迎え撃て!」


 エルトは咆哮する魔獣の姿にチャフの面影があることに気づいた。

 魔力を激しく消費する詠唱破棄の影響で身体に負荷はかかっているが、泣き言を吐いている場合ではないことはエルト自身が一番よくわかっている。

 魔法陣が、エルトから流れ込む魔力に反応して輝いた。


「大いなる星皇神よ、天に浮かぶ数多の輝きのその一つ、魔を払い穢れを貫く輝きを、地を這う者に貸し与えたまえ。――《ライ・パルセラ》!」


 錫杖から出た光が魔獣へと駆け、直撃の寸前に拡散。


「ほう?」


 魔獣の後ろにいたゼモンへと殺到した。


「やるな。司教というだけのことはある。だが――」


 光の雨がゼモンに降り注ぎ、土煙が立ち込める。

 ライパルセラは広範囲に魔法で編んだ光線を撃ち放つ攻撃魔法。生身の人間に当たれば負傷は免れない。

 煙が晴れれば、倒れ伏すゼモンが見える。

 はずだった。


「な……!」


 エルトの目が驚愕に染まる。

 魔獣がゼモンをかばうように、その背でエルトの攻撃を受け止めたのだ。


「――ッ!」


 痛みによってさらに興奮した魔獣がレイバとオルネスを吹き飛ばす。


「あいつ、チャフを盾に……!」

「非道な……!」

「よくやった。さあ、いけ!」


 ゼモンは笑みを崩さぬまま、魔獣に反撃を命じる。

 石畳を踏み割りながら、魔獣は突進する。レイバもオルネスも、攻撃に備えて己の得物を上げる。

 しかし、魔獣は二人には脇目も振らず、一直線に二人の間を抜けた。


「後方支援を断つのは、戦いの定石だろう?」


 その言葉に、レイバはゼモンの狙いを看破する。


「エルト! 逃げろ!」


 狙いは、エルトだ。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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