2-27 星の魔法が照らすもの
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「結局、見つかりませんでしたね」
「うん……」
レイバ達の家の前に戻ったハイファとエルトは、失意のままレイバとオルネスの帰りを待っていた。輝きの魔法――《ライトス》をかけた錫杖が、明かり代わりに二人を照らしている。
「リン……どこに行っちゃったの……」
照らされたハイファの暗い顔にエルトはなんと言葉を続けて良いかわからない。
「おーい、エルト、ハイファ!」
そこへレイバたちがやってきた。
「みなさん! どうでした?」
すがるように結果を聞いたエルトだったが、レイバもオルネスも表情は芳しくなかった。
「ダメだ。どこにもいない」
「いそうなところは片っ端から探したんですが、あてが外れました」
「木の上にもいなかったゾ!」
「そんな……」
エルトが恐る恐る右を見れば、今にも泣き出しそうなハイファがいた。
「レイバ、さすがにゼモン様に報告するべきでは?」
「だな。夜明けには少し時間があるが、事態が事態だ。遺跡に行こう」
遺跡の方角へつま先を向けたレイバとオルネス。
「……っとと」
後に続こうとしたチャフが、貧血を起こしたようにふらついた。
「チャフさん? どうしました?」
「わかんネ。なんだか、身体が重いゾ……」
「ええっ⁉ 大丈夫なんですか?」
エルトとは対照的に、レイバは冷静だった。
「お前、全速力で駆けまわっただろ。起き抜けにそんなことしたら疲れるに決まってる。ほら、立てるか?」
レイバがチャフの腕を掴んで支える。だが、自身も険しい顔で眉と眉の間を摘んだ。
「俺も正直まだ昨日の酒が抜けてないからな。なあエルト、疲れを取る魔法とかないのか? もしくは酔い覚まし」
「か、回復魔法なら一応ありますけど……」
「じゃあそれでいいから、ひとつ俺たちにかけてくれよ。オルネス、お前もどうだ?」
「そうですね。せっかくですしお願いしましょうか」
「わかりました。ハイファさんはどうします?」
「私は、いい……」
ハイファはエルトの邪魔にならないよう、彼の後ろに立った。
「では」
息を整え、錫杖を構えたエルトを淡い光が包み込む。
「大いなる星皇神よ、天に浮かぶ数多の輝きのその一つ、傷つきし肉体と魂を癒す輝きを、地を這う者に貸し与えたまえ。――《ヒアルラ》!」
エルトの帯びていた光が錫杖の先に集約し、レイバたちへ飛んでいく。
そして――。
「ぎゃあああああっ⁉」
絶叫。衝撃を伴った閃光が三人を襲った。
「ええええっ⁉」
魔法を使った張本人のエルトさえ、何が起きたのかまったくわからない。
「エルトっ、な、何した……の?」
慄くハイファがエルトの袖を掴む。
「何もしてません! ただの回復魔法のはずです!」
「で、でも、みんな、びりびり……!」
ハイファと話している間も痙攣を続けている三人に気づいて、エルトは大慌てで魔法を解除する。
「だ、大丈夫ですかっ?」
横たわるレイバたちに声をかけるが、誰一人として返事をしない。
「死んじゃったの……?」
「ハイファさん⁉ なんてこと言うんですか!」
オルネスの肩を指先でつつくハイファの言葉に、エルトは鼻白む。
「……おい、オルネス」
ふいにレイバが声を絞り出した。
「寝てる場合じゃないぞ」
「ええ。そのようですね……」
むくりと起き上がったレイバとオルネス。
「………………」
チャフも起き上がったが、三人とも同様に表情が消えていた。
「みなさん?」
「どう、したの?」
「思い出したんだよ。全部な」
ハイファとエルトは状況をいまいち把握できない。
「エルト、もう一人、回復魔法を使ってもらいたいやつがいる。来てくれ」
「え、あ、あの……」
「急げ! 時間が惜しい!」
「は、はいぃっ!」
レイバの恫喝に竦み上がったエルトは、レイバたちの家に連れ込まれる。ハイファもその後を追った。
「どういうことなんです? みなさんどうなさったんですか?」
「してやられたんだ! ゼモンのやつに!」
激高するレイバが口にした名前に、エルトは壮年の男の顔を想起する。
「あの村長さんが、何を?」
「あんな野郎は村長でもなんでもない! いかれた宣教師だ!」
乱暴に扉を開けるレイバ。部屋に置かれた寝台の上で、ノイドがもぞりと動いた。
「おい、ノイド! お前も起きろっ!」
「……レイバ、俺は行かんと言ったはずだ」
「エルト、やれ」
「わ、わかりました」
気だるそうに身を起こしたノイドの前に、杖を構えたエルトが立つ。
「は? お前、何を――」
「ごめんなさい!」
部屋が閃光に包まれ、一人分の悲鳴が木霊した。
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