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2-20 新しい友達

お越しいただきありがとうございます!

「うわ! な、なによ⁉」

「なははは! 引っかかっタ!」


 ペックからずり落ちそうになったリンを見て、跳ねながら大笑いする化け物。


「リン!」

「大丈夫ですかっ?」


 荷台から身を乗り出したハイファとエルトも、赤い目を爛々と輝かせる化け物を見ると驚きで一歩後ずさった。


「エルト、あれって魔獣?」

「いえ、多分人間ですよ。言葉を話してますし」

「はははっ! 魔獣だゾ! ガオー!」

「でも、魔獣だって言ってるよ?」

「いやいやいや、言ってますけど絶対人間ですって! ほら、よく見てください。首から下が人間じゃないですか」


 エルトの言う通り、首から下は普通の人間、それも小柄な子どものようだ。


「なんだヨ。つまんねーナ。……よっと」


 看破されて被り物を取って素顔を晒したのは、ボサボサ髪で褐色肌の少年だった。


「せっかく遊んでやろうと思ったのニ」


 不満そうに口を尖らせる少年に困惑する三人。シャンだけは相変わらず座っている。


「チャフ、いい加減にしなさい」


 いつの間にか少年の後ろに立っていた長身の青年が、その言葉とともに、少年の頭に手刀を振り下ろした。

 ゴスンッ! と鈍い衝撃音が木々を揺する。リンたちには少年の足がわずかに地面にめり込んだように見えた。


「ってぇ! なにすんダ!」

「まったく、ひと様に迷惑をかけて。少しは落ち着きを持ったらどうです?」


 食って掛かられても全く動じずに説教をする茶髪の青年。完全に置いてきぼりをくらっていたリンは、ペックから降りた。


「ねえ、あなたたち。どちらさまなわけ?」


 リンの声にようやくこちらを向いた青年が「あっといけない」と言いながら一礼した。


「申し遅れました。私はオルネス。こっちはチャフ。この奥の村の者です」


 オルネスと名乗った青年に示され、被り物を脇に抱えたチャフが歯を見せて笑う。


「私はリン。後ろの子はハイファとエルトよ。村ってことは、あなたたちも龍瞳教団なの?」


 リンの問いかけに身構えたのはハイファだった。リンとエルトから道中説明は受けたものの、コンベルでのこともあり、いまだに警戒心を抱いている。


 しかし、オルネスはそんなハイファの視線に気づいたのか、一度ハイファに柔和な笑みを向けてからリンに応えた。


「ええ。ですがご安心を。みなさんに危害を加えることはしませんので」

「そうじゃないと困るんだけどね」

「レイバから話は聞いていますよ。彼に案内を頼まれました。村長のところまでお連れしますね」


 言われて気づいたが、いつの間にかレイバ達はかなり前の方まで進んでいた。


「師匠はまだ村にいらっしゃるんですか?」


 我慢できず荷台から声を投げたエルトに、オルネスは眉を下げた。


「わかりません。何分、私も大司教殿を見たのは二日前が最後ですので」


 エルトがさらに質問しようとしたとき、チャフが声を張り上げた。


「ナーナー! はやく行こうゼ! オレ、腹減っタ!」

「チャフ。大人しくしてなさいって。……すみません、騒がしくて」


 謝るオルネスにどこか苦労人の気配を感じつつ、リンは微笑んだ。


「いいのよ。子どもは嫌いじゃないわ」

「そう言っていただけると助かります。では、参りましょうか」


 オルネスに先導されたリンがペックの手綱を引いて歩き出すと、荷台もゆっくりと動き始める。


「師匠……」


 荷台の縁を掴む手に力を込めたエルトの肩に、気遣ったハイファがそっと手を置く。


「おい、お前ラ」


 そこへいつの間にか荷台に乗りこんでいたチャフが二人に話しかけた。


「びっくりした……」

「な、なんでしょうか?」


 チャフは振り返った二人を交互に見ながら短く唸ると、何に得心いったのかパチンと指を鳴らした。


「わかっタ! お前がハイファで、お前がエルトだナ?」


 二人を順番に指さすチャフ。しかしハイファとエルトをあべこべに指さしていた。


「い、いえ。ハイファさんはこちらで、僕がエルトです」

「うん。逆」

「そうなのカ。黒い方がハイファで、白い方がエルトだナ。覚えたゾ!」


 荷台にあぐらをかいたチャフは、二人に底抜けに明るい笑顔を見せた。


「顔も覚えた! 名前も覚えた! 話もした! これでオレたち、友達だからナ!」

「ともだち……?」


 首をかしげたハイファは、そのままエルトに顔を向ける。


「エルト、友達ってこうやって作るの?」

「えっ? うーん。人それぞれだとは思いますが、これはこれでありじゃないですか?」

「わかった。じゃあ、エルトは私の一番目の友達。チャフは二番目の友達だね」

「僕が一番ですか? こ、光栄です」

「おう! よくわかんねーけど、友達ダ! ところで、シャン(こいつ)はなんなんダ?」


 シャンにも興味を示すチャフに、ハイファとエルトは肩を大きくびくつかせた。


「き、気にしないでっ!」

「ちょっと気難しい方なので、そっとしておいてください!」


 三人のやり取りを見守っていたリンは、チャフに舌を巻いた。


「すごいわね。あの子。もう二人と打ち解けてるわ」

「本当にすみません。外からの客人は珍しいもので、はしゃいでしまっているみたいです」


 眉を下げて笑うオルネスにリンは笑みを返す。


「そっか。ハイファにも友達か……」


 荷台の方に視線を戻せば、ハイファが同年代の子どもたちと話しながら笑っている。


「……ふぐぅ」


 感極まって、変な声が出てしまった。


 目尻に涙を浮かべ、口を押えるリンに、オルネスは思わず鼻白んだ。


「ど、どうされましたっ?」

「ごめんなさい。ここに来るまでに、色々と……!」


 リンたちのこれまでを知る由もないオルネスは、困惑を禁じえなかった。


「な、なかなかご苦労をなさっているようですね。はは……」

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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