2-19 真実を追う道
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「え⁉ あの神殿の司教が⁉」
ハイファを加入させ、移動を再開したリンの荷台で、エルトはハイファが追いつく助けとなったのがトレリアの神殿にいた司教だったことを聞かされた。
「うん。神殿の前でリンたちを探してたら、こっちの方に向かったって教えてくれた」
シャンの隣に座るハイファは革袋に入った水を飲み、エルトに屈託のない笑みを向ける。
「司教さんは、みんないい人なんだね」
「そ、そうですね。ええ。きっと。多分……」
エルトは自分を叱り飛ばした男の顔を思い出して少しだけもやもやしつつ、一応は彼に感謝することにした。
曖昧に笑っていたエルトだったが、すぐにその表情が硬くなる。
「……あの、ハイファさん。それと、リンさんも」
町の酒場の時とはまた違った緊張を抱きながら、エルトは姿勢を正した。
「今更ですが、言わせてください。すみませんでした。僕の都合にお二人を巻き込んでしまったせいで、今回のようなことに……」
自分が卑怯なことをしているとわかっていた。
今更謝ったところで、ハイファとリンを苦悩させた事実は変わらない。
けれど、謝っておかなければどうしても気が済まなかった。
「何か償う方法があるなら――」
「ううん。違うよ、エルト」
ハイファは最後まで言わせず、エルトの隣に移動した。
「誰のせいとか、そういうことじゃないよ。私はリンと一緒にいることを選んだ。それでこのお話は終わり」
「そうよ。済んだことなんだから、いつまでもウジウジ言わないの」
振り返ったリンは、すっかり気力を取り戻し、ハリのある声を投げかけた。
「ですが……」
なおも自分を責めようとするエルトにハイファは寄り添った。
「私も、エルトに言いたいことがあるの」
「は、ハイファさん?」
ハイファはエルトにだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「ありがとう。リンのそばにいてくれて」
想像もしていなかった言葉に、エルトは目を丸くした。
「エルトがいてくれたから、リンとまた会えた。だから、ありがとう」
「いえ、きょ、恐縮です……!」
なぜだか顔が熱くなったエルトは、ほんの少しだけハイファと距離をとった。
「それからシャンも。ありがとう」
ハイファは布を被っている仮面の男にも笑顔を見せた。
当然、シャンは何も言わず、身じろぎひとつしない。それでもハイファは構わなかった。
エルトは特にシャンが何かしたか記憶が無かったが、あえてそれは口にはせず、ただ、ふと屋敷に赴いた際のことを思い出した。
「そういえば、僕がハイファさんに会いに行った時、シャンさんがどうとか。あれは結局なんだったんです?」
「ううん。なんでもないの。気にしないで」
問いかけてもハイファはただ穏やかに笑うだけで、明確な答えを出さなかった。
「それよりも、師匠さん、絶対見つけようね」
「は、はい! 師匠に会えたら、ぜひお二人のことも紹介させてください!」
「あ、それだわ」
リンが何かひらめいたのか、パチンと指を鳴らして振り向いた。
「エルトのお師匠さんって、大司教っていうからにはすごい魔法が使えるのよね?」
「それは、もちろん」
「じゃあ、お師匠さんの魔法のスペルシートを作ってもらおうかしら。ちょうどトレリアで買った中に新品で何も入ってないやつがあるから」
「わかりました。師匠に頼んでみます」
「せっかくだから、一番すごいやつをお願いするわ」
エルトはその要望に首を傾げた。
「一番ですか? 護身用となると少し大仰では?」
「いいのよ。私が使うんじゃないから」
「どういうことです?」
「スペルシートの収集家って意外と多いのよ。そういう人に売りつけてやろうと思ってね」
「な、なるほど」
リンの商魂のたくましさにエルトは、元気になったリンへの嬉しさ半分、呆れ半分で口角を引きつらせる。
「ふふふ……」
エルトの横にいたハイファが口を押さえてくすくすと笑う。
「リンなら、そう言うと思った」
楽しそうに笑うハイファにリンはまた目が潤んでしまいそうになり、すぐに前を向いた。
「そっ、それにしても変よね。この山」
そして何事もないかのように山を登り始めてから気になっていたことを口にする。
「山を登ると思って身構えてたけど、拍子抜けするくらいに進みやすいわ」
踏み固められた道は転がる岩や地表に出た太い根もなく、広くはないが悪路ではない。
「そうですね。僕ももっと揺れるものかと。前にも山を越えるときに荷台に乗ったことがあるのですが、その時は酔ってしまって大変で……」
苦笑するエルトをよそに、ハイファはほろを少しだけ上げて外を見やった。
「それにこの道、なんだか明るい」
「そうよね。木の実かしら? 枝の先が光ってるわ」
リンは視線を上にあげ、頭上に腕を伸ばす木々の先に実り、青白く光る小さな粒たちを観察した。
「レウンのことは結構知ってるつもりだったけど、発見が多いわ。あとでレイバに聞いてみようかしら」
「これはナ、ここらに生えてるイザリアの実が光ってるんだゾ」
「へえ……って、え?」
説明する声に相槌を打つ。だが、その声はハイファでもエルトでもない。
そもそも、声が聞こえたのはリンの右横からだった。
「ばあっ!」
振り向いたリンが見たのは、赤い大きな目を持つ毛むくじゃらの化け物だった。
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