2-13 予期せぬ対峙
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リンは司教と睨み合い、エルトも慌てるばかりで思考が完全に停止してしまっている。
「司教、どうしたんです?」
そこへ、司教の後ろから別の男が現れた。黒い衣服に引き締まった身体を包み、左腕には巻き付く蛇のような入れ墨が走っている。
「おお、レイバ殿」
レイバと呼ばれた精悍な顔立ちの黒髪の青年は、リンたちをちらりと見やってから、司教に軽く会釈する。
リンとの睨み合いを止め両腕を広げてレイバを迎える司教に気を削がれたリンは、エルトに耳打ちした。
「誰よ、あれ」
「さ、さあ? 昨日はあんな人は見ませんでした」
そんな二人をよそに、レイバは司教と会話を始めた。
「準備ができたんで、遺体を引き取りに来ました。いつもの場所ですか?」
「ええ。こちらでの準備も終わっています。いつでも運び出せますよ」
遺体。その単語を聞いて、リンはレイバを訝しんだ。
「遺体って、あなた何しに来たの?」
自分に尋ねていると気づいたレイバは、困惑気味に答えた。
「何って言われると……仕事、としか」
そこへ割り込んだ司教がリンに食って掛かった。
「これ以上話すことはない。他の信者たちに迷惑だ。出て行ってくれ」
リンが反論しようとするより先に、エルトがリンのコートを引く。
「リンさん、行きましょう。ここには手がかりはなさそうですし」
レイバはエルトの言葉が気になったようで、首を少し傾けた。
「手がかり? あんたらこそどうしたんだ? 司教と喧嘩してたよな?」
「実は、僕の師匠である星皇教会の大司教を探していまして……」
説明も半ばのエルトを押しのけるように、司教がレイバの前に躍り出た。
「聞いてくだされレイバ殿! この少年は自らの師を探すためとはいえ、務めを放りだしてこの町まで来ているのです!」
レイバが来た途端に味方を得たとばかりに強気になった司教に、いよいよ堪忍袋の緒が切れそうになったリンが一歩だけ前に出たのと同時に。
「え、何がダメなんです? 師匠思いのいい子じゃないですか」
表情を変えないまま、レイバはエルトの擁護に回った。
「なっ⁉」
「というか、そんな怒ることでもないでしょ」
レイバはたじろぐ司教の前を通り過ぎ、エルトと視線を合わせた。
「お前すごいな。一人で師匠探してるなんて。根性あるぜ」
「あ、ありがとう、ございます」
ワシワシと頭を撫でられ、エルトはされるがままの状態で礼を言う。
「それで、どんなやつなんだ? その師匠ってのは」
手を止めたレイバが好奇心から尋ねる。
レイバが聞いているのはラティアの外見であると判断したエルトは、少しも期待せずに簡潔に答えた。
「長い銀色の髪をした若い女の人で、星皇教会の白い装束を着ているはずです」
「なるほど。銀髪の女か。……ん?」
レイバの顔から、ふと笑みが消えた。
「なあ、その女の人、お前やそこの司教と似たような格好なんだよな?」
「は、はい」
エルトが頷くと、レイバは顎に手をやって下を向き、うーむと唸り始めた。
その唸りが止むと、レイバは驚きを混ぜ込んだ声を出した。
「俺、その人見たかもしれない」
「え⁉」
レイバという突然現れた男から予想もしなかった一言を受け、エルトの声が神殿に反響する。
「師匠をご存じなんですかっ⁉ く、詳しく! 詳しく聞かせてください!」
エルトに距離をぐいと詰められたレイバは、ばつが悪そうに顔をそむける。
「や、詳しくって言われると申し訳ないんだけど……。三日前、村を出る時に星皇教会の人っぽいのを見かけただけでさ」
「む、村と言うのは?」
「実は俺たち、諸々の事情があってな。仕事場はこの神殿の斜め向かいなんだけど、町には大勢で住めないんだ。今も村から降りて来て交代で仕事をしてる」
「諸々の事情?」
「なんて言うかその、信仰してる宗教が、世間一般的にちょっとアレでさ」
妙に言いにくそうなレイバ。リンは腕を組んで冗談っぽく言い放った。
「なに? まさか、あなた龍瞳教団とかだったりするの?」
するとレイバは意外そうな顔をリンの方へ上げた。
「あ、なんだ。知ってたのか」
思っていたものと違う反応にリンは眉間にしわを寄せる。
「本気で言ってるの?」
「まあな。でも、これ言うと大抵のやつが――」
しかし、言い終えるのを待たず、リンは外へ駆け出していた。
「ちょ、ちょっとリンさん⁉」
エルトの呼び止めなどまったく効果はない。神殿を出たリンは、右斜め前に小さな建物を見つけ、一直線に、扉を蹴り破らんばかりの勢いで中へ入った。
「お、おおっ? なんすかアンタ」
机に頬杖をついていた三つ編みの女が、突然現れたリンに度肝を抜かれる。
「あなたたち、こんなところにまで来てたのね!」
「えっ? え、え?」
ものすごい剣幕で詰め寄られた女は目を白黒させるばかりで、混乱しきっている。
『あああん……! ああぁぁん……!』
と、奥の扉から子どもの泣き声が。
リンは地面を蹴り、奥へ走る。
「あ! 待つっす! そっちは今――!」
女が止めた時にはもう遅い。リンは扉に手をかけていた。
制止もむなしく開かれる扉。
そこでリンを待ち受けていたのは……。
「……へ?」
そこはある程度の広さを持つ、厳粛な空気が漂う一室だった。
部屋の奥には、十余人ばかりの人がいて、こちらに背を向けて椅子に座っている。
ある者は肩を震わせ、ある者はさめざめと泣いている。
子どもの泣き声もまだ聞こえていた。
「ご参列の方ですか? でしたら端の席にどうぞ」
椅子に座る人たちの前に立ち、闇色のローブに身を包んだ男が、リンの姿に気づいて席に着くよう促す。
すると、座っていた人たちが一斉に振り向き、リンに視線を注いだ。
「え、誰……?」
「誰かの親類か?」
「いや、あんな子見たことないぞ」
人々の反応と、リンが固まっていることに首をかしげた男は、リンに対して問いかけた。
「あの、本日の葬儀にご参列した方……ですよね?」
葬儀。確かにそう聞こえた。見れば、男の横にある祭壇には、花や供え物が並んでいる。
「あ……し、失礼しましたー……」
頭に疑問符を大量に浮かべつつ、とりあえず静かに扉を閉めたリンは、後ろから誰かに肩をポンと叩かれた。
「あの、あっちでお話したいんすけど、いいっすか?」
リンを止めようとした女だ。笑顔だが、圧がすごかった。
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