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2-5 黒煙

お越しいただきありがとうございます!

「うえぇっ⁉」


 リンはシャンの行動に驚き、慌ててハイファたちへ走った。


「つ、ついに怒らせちゃったのかしら⁉」


 黒煙の噴出を止めないシャンを見ながら、リンは恐々として叫ぶ。


「リン、エルト、私の後ろに!」


 付け袖に手をかけるハイファ。そこにエルトが躍り出た。


「いえっ! ここは僕が!」


 エルトは握りしめた錫杖の底で地面を突くと、すぅ、と息を吸い込んだ。


「大いなる星皇神よ、天に浮かぶ数多の輝きのその一つ、荒ぶる心を安らげる輝きを、地を這う者に貸し与えたまえ。――《エヌドルフェ》!」


 詠唱したエルトの前に魔法陣が浮かび、そこから青白い光線が放たれた。

 エルトが発動したのは鎮静の魔法、《エヌドルフェ》。シャンが何者なのかはわからないが、いきなり攻撃魔法を撃ち放つことは憚られる。エルトの良識からの判断だった。

 光線はまさしく星のように空を切り、まさしく星のようにシャンを目がけて飛んでいく。

 だが、光線はシャンの背中に当たると、そのまま霧散してしまった。


「そんなっ⁉」


 愕然とするエルト。シャンは噴出の勢いを増し、魔獣と共に黒煙の中に消えていった。


「魔法を跳ね返すなんて……! リンさん、あの方は何者なんですか!」

「私が聞きたいわよ!」


 互いの顔を見ながら叫び合うリンとエルト。ハイファだけがシャンの様子を窺っていた。


「二人とも、煙が消える!」


 ハイファと同じ方向に顔を動かした二人は、確かに煙が晴れていくのを見た。

 煙の奥から、シャンの姿が現れる。


「あら?」


 最初に気づいたのは、リンだった。


「魔獣は? どこに行っちゃったの?」


 シャンと一緒に煙に包まれた魔獣、その姿が見当たらない。


「本当だ。いない……」

「確かにそこにいたのに、いったいどこへ?」


 シャンの周辺に視線を泳がせるが、誰も魔獣の姿を見つけられなかった。


「シャンが何かしたのかしら?」

「まさか、魔獣を回復して逃がした、とかでしょうか?」

「え、シャンってそんなことできるの?」

「僕が知るわけないじゃないですか……」

「………………」


 リンがエルトと憶測を交わす中、ついにシャンが再び動き出した。今度は三人のもとへ近づいてくる。


「こ、こっちに来ましたよ!」

「シャン? お、怒ってる? 怒ってるの⁉」


 行商と司教は震えていたが、ハイファにはなぜか今のシャンに危険はないと確信できた。

 シャンの様子が、無表情ながらもどこか満ち足りているように見えたからだ。


「大丈夫だよ」


 ハイファが近づいたことでシャンは足を止める。

 そのままハイファが自身の手をシャンの手に添えるが、シャンは何も反応を示さない。

 平たく言えば、普段と何も変わらない状態に戻っていた。


「ね? 怖くないよ」

「そうみたいね……。ああ、びっくりした」

「ハイファさん、すごい度胸ですね。僕も見習わないと」


 だが、リンとエルトが近づいたとき、変化は起こった。


「……? シャン?」


 シャンの肉体が小刻みに振動しているのを感じ、ハイファは顔を上げる。


「………………」


 次の瞬間、シャンの肉体に走る文様が赤く明滅を始めた。


「こ、今度はなんですかっ⁉ リンさん!」

「知らないわよ! ハイファ、早くこっちに!」


 身構えたリンに促され、ハイファも二人のそばに移動する。

 その間もシャンの文様の輝きは明滅を繰り返し、その速度を次第に上げていく。

 そして一際大きな輝きがシャンの身体を包み、三人の視界も数秒塗りつぶした。

 目を覆っていたリンは、輝きが弱まるのを待って目を開けた。


「もうなんなのよ、本当に」


 シャンが一本の樹木のように、すっと立っている。特に変わった様子はない。


「し、シャン?」


 試しに呼び掛けてみても、やはり反応はない。


「今のは、なんだったのかしら? 教えてほしいなー、なんて……」

「………………」


 返事の代わりに、ドサッと何か重量のあるものが落ちる音がした。

 落ちたものの影が、シャンの()()に見える。

 二本の細長い何か。シャンの背中の管とよく似ている。

 いや、似ているどころの話ではない。それはまさしくシャンの背中に左右四本ずつ伸びる管の最下部の二本だった。


「あの、抜けちゃいましたよ?」

「うん、抜けちゃった」


 エルトとハイファも気づいていたようで、転がる管とシャンを交互に見ている。


「ぬ……抜けたぁ⁉」


 リンは二人よりもいくらか興奮気味に目の前で起こった現象を端的に叫ぶと、抜け落ちた管を拾い上げた。


「これそういう仕組みだったの⁉ っていうかシャンはなんともないわけ⁉」


 差しなおした方がいいのではと考えたリンがシャンの背中を見たが、すでに管が生えていた部分の穴は塞がっており、両手に持った骨によく似た管を持て余してしまう。


「……ハイファ、これいる?」


 途方に暮れ、とりあえずハイファに差し出してみる。


「ううん、いらない」


 しかしあっさりと拒否されてしまった。


「とりあえず……なんですが」


 遠慮がちに挙手したエルトが何を言おうとしているか、リンには薄々感づいていた。


「あなた方の詳細を、話してくださいますか?」


 そして予想は的中する。さすがにここまで見られては、隠してやり過ごすことなど到底不可能。リンはそう判断し、深い深いため息をついた。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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