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3-71 原初の輝き

お越しいただきありがとうございます!

「あの攻撃でも、倒しきれない……」


 ハイファはネヴァンの理不尽なまでの強靭さに慄いた。


「熱くて眩しいだけよ! こんな傷も、すぐに元に――」


 だが、ネヴァンの表情が違和感で凍りつく。

 これまで通りならすでに終わっているはずの再生は、肘にすら至っていない


「再生が、遅い⁉」

『自分の身体を削り続けているんだ。当然だろう。ま、最大の理由は別だけどね』


 降ってきた声にネヴァンは鋭い眼光を向ける。


「ああっ⁉」

『まだ気づかないのかい? 初めてその姿になったあの時、君はひとつの失敗を犯したのさ』

「失敗、ですって……!」

『拾い食いは、良くないよ?』


 ヴァルマの言葉で、ネヴァンは一つの答えに行きついた。


「まさか……リン⁉」


 その名前を聞き、ハイファもわずかに拳を解いた。


『その通り! 彼女の身体に刻まれた呪い! それが君にも効いてるんだ!』

「ありえない! 人間の呪い程度が、この私を害するなんて!」


 ネヴァンは叫びながら左腕に力を送る。再生は遅々として進まなかった。


『僕もリンくんに会った時、彼女が奴隷なこと以上に驚いたよ。彼女の呪いは生半可なもんじゃない。不治癒と再刻印。二つの呪いの重ね掛けさ』

「不治癒と……再刻印……⁉」

『悪趣味な連中の玩具にされたんだろうね。何重にも、滅茶苦茶に絡み合っていたよ。おかげで解除が困難な呪いになってしまった。……でも、それが活きた!』


 ヴァルマが声を張り上げる。


『君はそんなリンくんを取り込んだ! 龍骸装を失った今、流石の君もこの呪いを抑えきることはできない!』


 高らかな宣告のあと、龍態の左腕は時間が逆行するかのように消滅した。


「ああぁぁぁあぁっ!」


 怒り狂うネヴァンの叫びがそのまま龍態の叫びに変わる。


「呪いがなによ! 取り込んで発動したなら、潰してしまえばいいだけっ!」


 龍態の身体が蠢く。呪いの発生源であるリンの身体を探し始めたのだ。


『そいつを待ってた……!』


 ネヴァンと対峙するヴァルマが握る剣が輝いた。それを合図に、エルトと共にいたもう一人のヴァルマが動く。


『少年! 今だ!』

「はいっ!」


 聖樹の杖を掲げ、エルトは目を閉じる。星皇教会の司教たちは、星皇神イミルセスの加護により、命を魔力の輝きとして知覚することができる。


「違う、こっちじゃない。もっと奥だ……」


 そして、魔獣と人間では、その輝きの色が異なる。魔獣は赤く、人間は白い。


「……っ!」


 見つけた。夥しい数の赤い光の中で星のように瞬いている。

 取り込んだ生物を殺さず魔力として生かすネヴァンに閉じ込められていた、人間の、命の光――。


「ルナさん! 僕をハイファさんのところへ!」


 ルナは返事の代わりに咆哮し、一気に飛翔する。

 ここからは時間との勝負。

 ネヴァンが呪いの排除を果たすより早く、ハイファのもとに。

 魔獣の影と龍たちが飛び交い、炎や雷撃が横をかすめていく。傷を負いながらも、エルトとルナはハイファの隣にたどり着いた。


「ハイファさん!」

「エルト……⁉」

「見つけました! リンさんはネヴァンの体内! 中心部にいます!」


 その言葉だけで、ハイファは全てを理解した。最高速度でネヴァンへ向かう。


「近寄るなああぁっ!」


 ネヴァンも察知したのか、魔獣の影の一部を集結させた。

 爪や牙、触手に刃、ありとあらゆる魔獣たちの武器がハイファを妨害する。


「もう少しなのに……!」


 呻くハイファ。それを見つめるエルトは直感する。今が、その時なのだと。


「――ルナさん」


 エルトは身をかがめてルナの頭を撫でた。


「もしもの時は、ハイファさんをお願いしますね」

「エルトさま?」


 早鐘を打つ鼓動。気を緩めれば、脚から力が抜けそうになる。

 それでも、覚悟はできていた。


「師匠! 力をお借りします!」


 取り出したのは一枚のスペルシート。

 複雑な魔法陣が刻まれた紙を左手に持ち、魔力を先端に集中した聖樹の杖を構える。

 それは、星皇教会に身を置く者たちが目指す、ひとつの到達点。

 地上に降り立った星皇神が、魔獣による災厄に惑う人々を救うべく放った、原初の輝き。

 あらゆる魔を退け、すべての(わざわい)を滅する究極の浄化魔法――!


「《エク・ル・パルジア》! いっけええええええっ!」


 杖とぶつかった瞬間、限界まで封じ込められていた魔力が解き放たれる。

 光の奔流は魔獣の影たちを焼き払い、龍たちも動きを止めた。


「ウガアアァアアァアアッ⁉」


 ハイファを阻む魔獣の壁すら穿ち、激突した龍態を押し倒す。

 だがその威力はそれだけに留まらず、スペルシートを焼き尽くし、エルトすら発動の反動によって空中へ打ち上げてしまった。


「エルトッ!」


 こちらに振り返ったハイファに、エルトは落下しながら叫んだ。


「行ってください! 行って、リンさんを――!」


 声は風の音に掻き消され、姿も砂塵に隠れてしまったが、ハイファにはエルトが何を言おうとしたかわかっていた。


「……リン、今行くから!」


 ハイファの身体を、腕から放出した闇色の魔力が包む。

 エルトが開いた道を駆け抜け、煌々と輝くネヴァンの内部へ飛び込んだ。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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