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3-70 再演、龍姫物語

お越しいただきありがとうございます!

「すごい……龍が、こんなに……!」


 感嘆の声を漏らすハイファ。地上にいたエルトたちも、夕空を飛ぶ龍たちに圧倒されていた。


「さっきの攻撃は、あの龍たちだったんだ……」

「ふふふ、あはははっ!」


 しかし、ネヴァンは凶暴に笑っていた。


「なぁに? 大見得切っといて、この程度しか揃わなかったの?」


 龍態の翼が広がり、腐敗した匂いが大気を侵していく。


「策を誤ったわね! 私を倒したいなら、そんな数じゃ足りないわ! かえって私の糧を運んできたってことに気づかないのかしら⁉」

『さて、どうだろうね』


 ヴァルマは玉座の間を離れ、滑るように飛んできた赤銅色の龍の背に乗った。


『確かに呼びかけに応じたのは想定の半分にも満たないけど、今の君相手なら不足はないと思うよ』

「そう……。だったら試してみましょうかぁっ!」


 ネヴァンの叫びに合わせ、龍態の全身から血肉が溢れ出していく。

 結合した肉片は、魔獣の形を取って空を埋め尽くしていった。


『来るぞ! ハイファ、やれるね!』

「うん!」


 拳を構えたハイファは、ネヴァンを真正面に捉える。


「何もかも、喰らいつくしてあげる!」


 龍態の咆哮を合図に、『龍姫物語』の再演と呼べる龍と魔獣の戦いの幕が上がった。

 地上からハイファたちを見ていたルナも、自分たちの周囲の魔獣の影が動き出すのを察知していた。


「失礼します!」


 エルトとペックを両腕に握り、一気に飛び上がる。

 自分が立っていた場所に牙や爪が殺到するのを視界の端に収め、エルトは全身に風を浴びた。


「エルトさま、私の角を掴んで!」

「は、はいっ!」


 一瞬の浮遊感のあと、ルナの頭に立ったエルトは言われた通りに角を掴み、ネヴァンのいる方へ首を回す。

 龍と魔獣の戦いは、エルトの経験には経験のない苛烈さで繰り広げられていた。


「久方ぶりの戦だが、なんだ! 魔獣も人界もえらく様変わりしたものだ!」


 赤い鱗の龍が吐いた炎が魔獣の影を広範囲で焼く。


「遠くに見えるあの龍もどきがハイファか? 今はネヴァンを名乗っているらしいな!」


 鎌のような腕を振るう昆虫型を青い龍が尾で弾き、水の弾丸で貫く。


「どうあれ我らを脅かすものに変わりはない! あの鎧はともかく、シャッド殿には恩義がある! それに報いるぞ!」


 緑の龍が巻き起こした風は、鳥型の影を絡めとり、一挙に切り刻む。


「本当に、あの物語の中みたいだ……」


 影たちの一部が、エルトたちの後方にも影たちが迫っていた。


「僕だって、やらなくちゃ!」


 胸の奥から湧き上がる熱に従い、エルトは深く息を吸った。


「大いなる星皇神よっ!」


 片手で杖を構え、先端を迫る黒い濁流に向けて詠唱を紡ぐ。


「天に浮かぶ数多の輝きのその一つ! 魔を祓い暗雲を裂く輝きを! 地を這う者に貸し与えたまえ! ――《セルド・ルテリア》!」


 聖樹の杖から細かい光の刃が無数に放たれ、影を切り裂いていく。

 だが、物量差が大きく、影はじりじりとエルトたちとの距離を詰めてきた。


「させんわっ!」


 轟音と共に風の刃が加勢に入った。シャッドだ。


『どうだい少年! 杖の具合は!』


 ルナの隣に来たシャッドに乗るもう一人のヴァルマが叫ぶ。


「問題ありません! それより、龍のヴァルマさんがやられてしまって……!」

『それこそ問題ない! あんなものはいくらでも修理できる!』

「自分の本来の姿をあんなものとはなんだ!」


 シャッドの声に身体を揺さぶられたヴァルマの兜が落ちそうになる。


「貴様それでも龍か!」

『ははは、以前もこんなやり取りをしましたね』


 ヴァルマは悪びれる様子もなく、元に戻した兜をエルトに向けた。


『少年、ネヴァンはあと一息で倒せる。それにあたってひとつ頼まれてほしい。ルナくんもだ』

「な、なんですか。改まって」

「よくわかりませんが、手短にお願いします」

『このまま僕たちと動いてくれ。でも、少年は僕の合図でネヴァンの身体に魔力探知をやってほしい』


 エルトは指示の内容にますます戸惑う。


「探知、ですか?」

『確証はない。でも、彼女のために、少しでも可能性は拾っておきたいんだ』


 自分たちよりさらに上空でネヴァンと戦うハイファにヴァルマは視線を投げた。

 ヴァルマたちの会話が聞こえていないハイファは、魔力放射で魔獣の影を押しのけながら、ネヴァンへの攻撃の機会を伺っていた。


「届かない……!」

『厄介だな。あまり彼女に考える時間を与えたくはないんだが、ねっ!』


 ハイファの横を飛ぶヴァルマも、飛びかかってくる魔獣に剣を振るう。


「ヴァルマ、どうにかできない?」

『……出し惜しみはしてられないね。やってみせよう』


 ヴァルマは地上へ身体を傾けた。


『起きろ! いつまで寝てる!』


 瓦礫に倒れ伏す紫の幼龍が、ゆっくりと起きる。


『その翼は飾りだ! 無くたって飛べる!』


 紫の幼龍は片翼を失っているにもかかわらず、軽やかに浮かぶ。

 そしてすぐさま矢のような速度で、ジグザグな機動を描きながらハイファたちのもとへ駆け上った。


「速い……」

『本気で動かせばこんなものさ。さあ行け!』


 迫る影と龍たちの間を駆け抜けて、幼龍がネヴァンへと向かっていく。


「まだ動くっ⁉」


 幼龍の放つ光弾にネヴァンが意識を逸らしたことで、魔獣たちの壁に綻びが生じた。


『よし、ハイファ! 突っ込むぞ!』

「わかったっ!」


 ネヴァンを目掛けて一直線に進むハイファ。ヴァルマを乗せた龍も後に続く。


「チィッ! 舐めるんじゃないわよ!」


 龍態から噴き出た魔獣の血肉が、ハイファを行く手を阻むように前後左右から集う。

 それらは融け、混ざり、繋がり合って一つの巨体を作り上げる。


『はははっ! おいおい、冗談だろう⁉』


 自分たちの前に現れたものを見上げ、ヴァルマは興奮した声をあげる。


『スプリガンか! 君、こんなのどこで食べたんだ⁉』


 歪に膨らんだ胴体に、太く短い四肢を持つ人型魔獣――スプリガンが吼え猛る。


「ぶっ壊れなさい!」


 振り下ろされた鉄槌のような拳が、ハイファの頭に落とされる。

 空間を揺さぶるような衝撃にヴァルマも言葉を呑んだ。


「……これくらいで……!」


 スプリガンの拳に亀裂が生じ、腕を上っていく。


「私は負けないっ!」


 極限まで強化された異形の拳は、スプリガンの両腕を粉砕した。


「それがどうした――!」


 塵となって消えたそばから、ネヴァンは新たなスプリガンを作り出そうとする。


『もらった!』


 塵を貫き幼龍が龍態の左肩に取りついた。


「な……! この期に及んでまだ! 離れなさい!」


 しがみつく幼龍の内側から、光が溢れ出す。


『そぉら、爆発だっ!』


 幼龍を起点に魔力光が炸裂。

 悲鳴に似た咆哮が響き渡り、龍態が大きく揺れる。

 ここまでするとは思っておらず、ハイファは顔を引きつらせた。


「よ、よかったの?」

『言ったろ? 出し惜しみは無しだ。しかし……』


 ヴァルマが言葉を止めたことで、ハイファも気づく。


『もう少し、威力を上げておくべきだったかな』


 煙を突き破り、左腕を失った龍態が姿を現した。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


感想、レビューも随時受け付けております!

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