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3-67 遺された力

お越しいただきありがとうございます!

 目を開けたエルトは、自分が地面に倒れていることに気づいた。


「痛たた……」


 鈍く痛む頭を押さえて起き上がり、ペックごと地割れに巻き込まれたことを思い出して周囲を見回す。

 足元に転がっていた聖樹の杖を拾い上げて安堵の息をつき、すぐ近くにペックの姿も見つけた。が、エルトの表情は怪訝に染まる。


「ペック? どうしたんですか?」


 瓦礫に嘴を突っ込み、必死に何かを掘り出そうとしている。ペックの様子からはそれだけが理解できた。


「そこに何が――」


 近づこうとしたその時、再び大地が揺れた。

 振り仰いだエルトが見たのは、半壊したリューゲル城から起き上がり、空に向かって吠える、龍の形をした肉塊。


「大変だ……!」


 呼び戻そうとして視線を戻すと、ペックはすでにエルトの前にいた。

 ペックが咥えるそれを見た瞬間、エルトは衝撃に身体が硬直した。


「これって……」


 ペックの背後の瓦礫の中には、残骸だが確かに荷台(それ)が在った。


「こんなところに……いえ、これもきっと星皇神の、リンさんの……」


 ペックは足を折り、エルトを鞍へ促す。

 その瞳は人間と変わらない意志に燃えていた。


「はい……! わかっていますっ!」


 滲みそうになった目を擦り、力強い返事とともにエルトはペックの背に乗った。


「僕たちも行きましょう。ハイファさんたちのところへ!」


 エルトが手綱を引いたのを合図に、ペックは全速力で走り出す。

 聖樹の杖は、昼と夜の空に浮かぶ星々と同じ輝きを帯びていた。


※※※


 ハイファの異形の腕に抱かれていたルナが、ふらつきながらも自力で立ち上がる。


「ルナ、大丈夫?」

「ええ……なんとか、致命傷は避けられました」


 ネヴァンに抉られた背中の傷は、少しずつだがすでに回復が始まっていた。


「ごめん。頭が真っ白になって……」

「お気になさらず。こちらこそ、ありがとうございます。正直、本当に死ぬかと思いましたので」


 微笑みを向けられ、目を丸くするハイファだったが、風に乗って漂ってくる腐臭に顔を上げた。


「ここまでは、ひとまず手筈通りですね」


 笑みを消したルナもハイファと同じものを見上げ、固い声音でつぶやく。


「ああ、ああ、力が漲る……! 最高の気分だわ!」


 役目を果たした分身を取り込み、全身を駆け巡る力を感じて打ち震えるネヴァン。

 豆粒のような大きさのハイファとルナを捉えた目が、喜悦に歪んだ。


「あなたたちにもお礼をしないといけないわねぇ?」


 龍態の右翼の付け根から、巨大な人間の腕が生えた。女性の細腕を得たことで、龍態の歪さがさらに際立つ。


「……っ! 参ります!」


 攻撃の気配を察知したルナは、ハイファを抱きかかえて飛び上がった。振り下ろされる腕を躱し、ハイファを高く放り投げる。

 直後にルナの身体は内側から膨れ上がった光に包まれ、龍としての本来の姿に変化した。


「今更そんな姿になったところで!」


 ネヴァンの腕がルナに伸びる。はばたきひとつで回避したルナの頭へハイファが降り立った。


「しっかり掴まっていてください!」

「う、うん!」


 龍骸装が角を掴んだのを感じた瞬間、ルナは全速力で夕暮れの空へ舞い上がる。


「どれほどの巨体であろうと、追いつけなければっ!」


 急降下し、ネヴァンの周囲を飛び回り、再び急上昇。

 ネヴァンは目で追いかけはするものの、その身体はルナを捉えることができない。その間も縦横無尽に飛ぶルナが連射する魔力の光弾がネヴァンの身体を削り取っていく。


「ハッ! その程度の攻撃、痒くもないわ!」


 しかし、ドロドロに溶けている肉が削られた箇所を補い続けるため、ルナの攻撃も決定打にはならない。

 それも織り込み済みのルナは、大きく旋回してネヴァンの背後へ回り込んだ。

 ルナの頭に立つハイファの右腕に、赤色の魔力が集約していく。


「こっちだ……よっ!」


 虚空を殴りつける動作に合わせ、異形の拳が魔力を撃ち放った。


「ギアアアッ!」


 龍態の背中が焼け焦げ、爆発を起こす。苦悶の叫びをあげるネヴァンは、煮えたぎる怒りを力にして背面へと送り込んだ。


「その目障りな翼、串刺しにしてあげる!」


 龍態の体表がうごめき、無数の槍となった肉塊がルナに襲いかかった。

 回避行動を取り、ハイファも魔力放射で迎撃する。しかし一向に数は減らない。


「あははっ! 前がお留守よ!」


 それどころかネヴァンは背面だけでなく全身から赤黒い槍を噴き出した。

 後方から追いすがってくる分に意識を向けていたルナは、その膨大な数を捌ききることができず、身体と両翼の損傷を許してしまった。


「ぐっ! うああっ!」

「ルナッ⁉ あ……っ!」


 連続した衝撃によりルナの姿勢が崩れ、ハイファの手足がルナから離れた。

 落下していく龍にネヴァンはほくそ笑む。

 終わってみればあっけない。あとはあの無防備な小娘と龍にトドメの一撃を――。

 そこで、思い至る。

 ハイファを守るために動いていたはずのシャンがいない。


「シャンはどこに――⁉」


 半壊した城の一部が轟音と共に崩れる。その残骸を飲み込みながら、黒煙が飛び出した。

ご覧いただきありがとうございます!


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