3-54 怒れる者たち
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「逃がさない! ペック! お願いします!」
勇ましく吼えたペックの上で杖を構えるエルト。
「《エル・パルジア》!」
錫杖から撃ち出された一条の光は、瓦礫の山を吹き飛ばす威力を持ってネヴァンへ追いすがり、その右脚を蒸散させた。
「ちぃっ!」
再生と同時に着地したネヴァンに、ルナが尾を振り下ろす。
「どこを見ているのです!」
土煙で視界を奪われたネヴァンの首を目掛けて、龍化した腕が伸びた。
「ふふ、そう……!」
崩れた建物の壁に押さえつけられ、首に爪が食い込んでいてなお、ネヴァンは不敵に笑っていた。
「あなたたちも怒り心頭ってわけ!」
「ええ、その通りです。ですが……」
ネヴァンの首を掴むルナは、瞳を憂いに揺らした。
「ですが、哀れみも感じています。そうなり果てた、かつて純粋な少女だったあなたに」
首を握る手に力を込めたルナへ、ネヴァンは狂暴に笑った。
「言ってくれるわ……ねっ!」
廃墟の壁を内側から突き破り、無数の触手がルナに殺到する。激突の瞬間、ネヴァンが回り込ませていたのだ。
「うあ……!」
突き飛ばされたルナは一回転して空中に留まる。ネヴァンの首の傷はすでに塞がっていた。
「誰がなんと言おうと、これが今の私! 世界を恨むことすら知らなかった愚鈍な娘は、とうの昔に消えたのよ!」
地面を蹴ったネヴァンは、まっすぐ本体へ跳ぶ。
二歩目に動こうとした瞬間、魔力の噴射を利用して追いついたハイファがネヴァンの前に滑り込んだ。傍らには右半身を黒煙にしたシャンも立っている。
「行かせない……!」
即座に攻撃に転じたハイファは、地面を蹴り、全力の一撃をネヴァンへと叩き込む。
ハイファの攻撃を真正面から受け止めたことで、ネヴァンの身体はわずかに地面に沈んだ。
しかし、ネヴァンの顔には苦悶ではなく不敵な笑みが貼りついていた。
「私から見れば、あなたこそ哀れだわ。せっかく甦ったのに、龍に利用されて私と戦っているだなんて!」
蹴り飛ばされたハイファは、咄嗟に瓦礫を掴んで踏み留まる。
「違う! 私は、あなたと戦うって自分で決めたの! それが私にできることだから!」
腕から闇色の魔力を後方へ噴射し、ハイファは高く跳躍した。
「自分がもう一度死ぬことになっても? 馬鹿げてるわね!」
ネヴァンの袖から伸びた無数の魔力の触手が、ハイファに殺到する。
その鋭利な先端が届きそうになった瞬間、黒煙となったシャンがネヴァンの触手を削り取った。
「シャン……!」
呻いたネヴァンに、ハイファの姿が消えていることに気づく。
その時には、すでにハイファはネヴァンの至近距離にいた。
「やあぁっ!」
闇色の魔力を漲らせた異形の拳が、ネヴァンを空に打ち上げる。
「ルナ!」
「心得ております!」
ハイファの声に答えたルナが、その尾でネヴァンを本体と真逆の方向へ叩き落とした。
「小賢しいったら……!」
砂煙を払いのけ、瓦礫の中から飛び出したところで、ネヴァンの身体は閃光に削られた。
待機していた紫の幼龍が発射した光弾が炸裂し、リューゲルの劇場周辺をネヴァンごと破壊していく。
光が収まったのを確認して着地したルナのもとへハイファが走る。後ろにシャンが続いていた。
「ルナ、ありがとう。思った通りのこと、してくれた」
「礼には及びません。ハイファさまこそ、見事な啖呵でございました」
恥ずかしそうに笑うハイファ。そこへ、ペックに乗ったエルトが合流した。
「すみません! 遅れました! 辺りがもうめちゃくちゃで……!」
「レックレリムといえど、このような地面を進むのは酷でしょう。お気になさらず」
「うん。エルトもありがとう。ペックも、頑張ったね」
労われたペックは、得意げに鼻から息を吐いた。
「さあ、早くネヴァンの本体へ――」
ルナの横をかすめて巨大な何かが飛来した。
「な……⁉」
ハイファたちの前に横たわる、龍のヴァルマ。右の翼は食い千切られたように抉れていた。
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