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3-53 激突する想い

お越しいただきありがとうございます!

「わざわざ戻ってくるなんて、いい度胸だわ」


 挑発するネヴァンの声には一瞥だけを返し、ハイファはその奥の龍態に視線を移す。


「ハイファさん、きっとあっちが本体です」


 ペックの背に乗るエルトが真剣な表情で言葉を紡ぐ。手には聖樹の杖が握られていた。

 ルナはすでに手足を龍化させて翼を広げており、臨戦態勢を取っている。


「やはり、拘束魔法は破壊されていますね。転移地点も予定と異なっています。すべて、ヴァルマさまの予想通りです」


 ハイファの後ろに立つシャンと、全員の後ろに立つ紫の幼龍の姿を認めたところでネヴァンは片眉を上げた。


「ヴァルマはいないのね。まあ、どうせ何か企んでいるんでしょうけど。それにしても……」


 ネヴァンは嘲りを含んだ笑みを浮かべた。


「惨めね。本当に惨めだわ。今更なにをしたってもう手遅れなのに」

「……あなたに用はない」


 ハイファが冷たい口調で言い放つ。


「あなたじゃないあなたを倒して、全部終わらせる。そのためにここに来た」


 ネヴァンは振り返らず、笑みを深くして自身の後方にある龍態を親指で示した。


「あっちの私をどうにかする算段がついたって感じ? なら、当ててあげましょうか。あの私のところへシャンを連れて行こうっていうんでしょ」


 こちらの狙いを言い当てられ、ハイファの眉が僅かに上がる。


「うっふふふ! 図星ね! でも残念。拘束魔法はほとんど解けてるの。あとは私が戻るだけ。来るのがちょっと遅かったわ」


 ネヴァンは一行に背中を向け、地面を蹴った。


「私の方こそあなたたちに用なんてないのよ! さっさと同化して、あなたたちを踏み潰し――」


 世界が一回転して、身体が地面にめり込む。

 ネヴァンが自身の身に起きたその事象を認識したのは、龍骸装を発動してこちらを見下ろすハイファと視線を交えた瞬間だった。


「……は?」


 間髪入れずに放たれたハイファの追撃を躱し、ふらつく脚で地面に立つネヴァンの腹部は、半分ほど抉れていた。


「惜しかった。もうちょっとだったのに」


 地面に拳をめり込ませるハイファは、目だけをネヴァンに向け、淡々とつぶやく。


「……少し見ない間に変わったわね」


 ネヴァンは腹部を再生させながら、赤い瞳を睨みつけた。


「その速さ、その力。ヴァルマが龍骸装を弄ったようだけど、それだけじゃない……」


 ハイファの纏う空気に、懐かしくも忌まわしい気配を感じ、ネヴァンの目つきが鋭くなる。


「とても、嫌なものが混じっているわ」


 ハイファはネヴァンと正面から向かいあう。


「そうだよ。私の中には、あなたが捨てたもう一人のあなたがいる」


 ネヴァンはハイファの言葉の意味を理解し、苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「やっぱりね……! かつての愚かな私を引っ張り出すなんて、いい趣味だわ」


 そう吐き捨てたネヴァンを、ハイファは冷ややかに見つめる。


「聞いたよ。あなたが、シャンのためにそうなったって。でも、あなたはやりすぎた。だから、王国からも追放された」

「やりすぎ? 目障りな魔獣が減るって、龍たちは大喜びで私に付いてきたわ」

「でも、シャンは違った。あなたにそこまでしてほしいとは思ってなかった」


 断じたハイファの隣で黒煙が渦を巻き、異形の大男の姿になる。


「私は、シャンの気持ちがわかるよ。それに、シャンも私の気持ちをわかってくれる」

「笑わせないで! あなたは利用されているだけよ!」


 語気を強めるネヴァン。


「ううん。違うよ」


 ハイファは龍骸装の手を伸ばし、シャンと手を繋ぎ合う。


「だって――」


 そして、口の端を、ほんの少し吊り上げた。


「私、あなたよりもシャンに認められているから」


 訪れる静寂。それはすぐに轟音によって破られた。

 ネヴァンを起点に強大な魔力が発せられ、地面を砕いたのだ。


「いい気になってんじゃないわよ、小娘が……!」


 肌を切るような圧が、ハイファたちに押し当てられる。

 その形相が彼女の、ネヴァンの本性なのだと、無表情に戻ったハイファは直感した。


「運よく生き返っただけの奴隷のくせに、随分と息巻くわね! 彼が認めるのは私だけ! 私だけで十分なのよ!」


 ネヴァンの袖口から、血の色をした触手が無数に這い出る。


「許さない……! 八つ裂きにして、ぐちゃぐちゃにすり潰してあげる!」


 戦いの始まりを察知し、ハイファも拳を構え、脚に力を入れた。


「私も、私からリンを奪ったあなたを許さない。絶対に、許さない」


 二人の間を一陣の風が吹き抜ける。

 そして、ハイファとネヴァンの激突が――起こらなかった。

 ハイファが飛んだのと同時に、ネヴァンは後方へ大きく跳躍したのだ。


「……⁉」


 ハイファは驚愕の表情でネヴァンを見上げた。


「あはははっ! 馬鹿ねぇ! まともにやり合うとでも思った? 私もあの私のところに着けば勝ちなのよ!」


 廃墟の街を駆けていくネヴァンを追いかけようとしたハイファの右から、ペックに乗ったエルトが飛び出した。

ご覧いただきありがとうございます!


次回更新は明日です!


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価の方をよろしくお願いします!


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