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異世界のゴーレム戦士  作者: 月河庵出
第1章 ゴーレム戦士編
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第9話 新しい機体





 まずは、またサイモンに専門書を借りよう。本当はサイモンに相談して、一緒に魔法陣のデジタル化に取り組んだ方が早いんだろうが、サイモンを100%は信用できない。

 俺が同じ立場なら研究成果を自分のものにするからな。相手は伍長と言え平民だ。自分が貴族の出で出世するチャンスがあれば必ず利用する。


 平民が誰も成し得なかった魔法陣のデジタル化に成功し超高集積化による技術革新を考えたなど、誰も信じない。同じ内容でも貴族が考え付いた方が支配者には理解がしやすいしね。

 

 オッス、結局、異世界でもボッチです。



 俺は、工場に向かった。いたいた。何やら暇そうだな。



「暇そうだな、サイモン」



「まあね。君の修理部品は発注したが、まだ来てないし、前線基地からの帰還者の受け入れも3つの補給基地で受け持ってんだけど、思ったより帰還者が少なくてね。多くは修理基地へ運ばれたらしいから、被害がかなり大きいのは間違いがない」



「確かにな。俺は遠くから見ていたが、オーガよりデカい奴もいたし、空からも攻撃を受けていたもの。撤退するにも容易にはいかなかったんだろうなあ」



「ハッキリ言って、戦況はかなり悪いらしいぜ。ここも突貫工事で防御を固めているだろう?という事は、ここ補給基地が最前線になるって事だよな」



「それって、本当かよ!クソ―、後1回の作戦で軍曹に成れるのになあ。こんなとこで死ぬ訳にはいかねえよ」



 前線基地と比較すると、ここは砦程度だぜ。どんなに補強しても砦だよ。砦であんなバカでかい怪物や空飛ぶ化け物と戦うって、無理だろう。あっという間にやられる未来が浮かぶ。



「それより、ここへは何しに来たの?」



 自分がバラバラになって脳みそをゴブリンに食われている状況を思い浮かべていると、現実に引き戻された。



「クソ―、ゴブリンの奴、俺の脳みそを食いやがって・・・。あっ?!いやいや、ここに来たのは、また専門書を借りられないかと思ってさ」



「へー、相変わらず勉強熱心だね。それで?今回はどんな本??」



「今回は魔法陣に関して書かれている専門書と、後、ハードウエアと言うかデバイスにどんなものがあるか知りたいんだ」



 工場で暫く待っていると、サイモンの自室から魔法陣とデバイスの説明と使い方が載っている専門書を何冊か持って来てくれた。



「俺は敵が攻めてくれば、この基地を撤退するからその時までには必ず、本を返してくれよ」



 またかよ。いいなあ、敵が来たら避難するって安全じゃん。



「本は返すけどさあ。この基地が陥落するの前提かよ」



 サイモンの野郎、ニヤリとしやがった。確かになこんな砦、前線基地を襲った連中が来れば、一飲みだろうよ。結局、俺はここで死ぬんじゃねえの?あーーーー、考えると憂鬱になって来やがると思いきや、不思議に冷静だよ。

 落ち着け俺!生身になる時に不具合が出るぞ。






 1週間ほど研究にいそしんでいたら、ある日、サイモンより新しい()()()()が送られて来たとの連絡があった。新しいゴーレム?とうとうエースの俺に新型機が配備されるんだな。ウキウキしながら工場へ向かった。



「こっちだ」



 サイモンが手を振っている。ここからも分かるが、下半身の部品じゃねえな。見た感じ一般のゴーレム兵でもねえ。かと言ってゴリラとも少し違うよな?



「なあ、これ部品じゃねえよな」



「ああ、部品を発注したら、脚部だけならどうにかなるが君のように胴体から半分じゃあ、新しいゴーレムにするしかないという事になった。だがね、今回の件で軍の損害が大きくて、この旧型の42式上級ゴーレム兵用のゴーレムが送られて来た。通称ネイサンだ」



「ネイサンと言うのは、試作機の時のペットネームだな。ところで、こいつの性能はどうなんだ?」



「実はこいつは問題が有って現在の43式に代替えしているんだ」



「おまっ!こっちは命をかけてるんだ!!()()()!!!」



 俺は命のポーズをしたよ。こいつに視覚から訴えてやろうとしたんだぜ。サイモンの野郎、クスクス笑ってやがったけど。



「この42式は実戦配備してから分かったんだが、実燃費が悪く2年間稼働する事が出来ないんだよ。まって!大丈夫だから良く聞いてくれ。こいつは魔法陣で性能をディチューンして2年間持たせるように対策したんだよ。その代わり本来の性能の70%しか発揮できないけどね」



「今のゴリラと比較してどの程度だ?」



「そうだね。ディチューンしている状態だと、現在の43式と比較して6割程度、君が今使っている122式ゴーレム兵と比較すると2割増しといった所かな。因みに君がゴリラと呼んでいる43式は君の122式と比較すると性能が2倍違うよ」



 えっ?!俺が死にそうな場面でもハーマーの野郎がヌクヌクしている理由がやっと分かったぜ、フッ。だがよ、俺はスゲー―――事に気が付いちまった。



「フフフフフッ。サイモンさあ、この42式の魔法陣をちょいといじって本来の性能を出す事も出来るよな?」



 そうさ、このゴリラの出来損ない。いや、ネイサンの性能をフルに発揮させればゴリラを凌ぐ性能が得られる訳さ。勝った、俺はこのクソッタレの異世界に勝ったんだ。



「はあ?おい、今の説明聞いていたかい??燃費が悪く2年間の兵役期間では、生命を維持できないんだ。使い方によってはいつエネルギーが切れるか分からないし、アラームが表示されてからエネルギーを補給したり他のゴーレムに入れ替えるにも普通は修理基地で行うんだ。間に合わなかったらそこで死ぬ事になるよ」



 あれ?お前、今なって言った??ゴーレムの入れ替えは()()、修理基地で行う???



「なあ、今さ。ゴーレムの入れ替えは修理基地で行うと言ったよな?」



「ああ、言ったよ。()()はね」



 サイモンが言うには、ヤッパリ、現場でゴーレムを入れ替えるなんて異常事態だそうだ。脳という生体、容器に納められているとは言え、非常にデリケートなものを扱う機器が無く、手作業で行い不具合が有った場合のバックアップも無くリハビリ施設も無い。


 サイモンも初めてで興味半分で引き受けたらしい。

 イヨ!さすが、お貴族様!!


 でもなあ、俺が生き残るチャンスはこれしかねえんだ。

 


「仕方がねえな!ダイジョウブイ!!心配するなよ。俺はもう入隊してから既に2カ月半ほど経つんだ。つまり、この新しいゴーレムが2年間もたなくとも何の問題も無いという事だよ。ガッハハハハ」



「(はあ、しょうがないな。こいつは言っても聞かないしなあ。しかし、実戦配備と言っても実質半年なんだよな。たった半年間のデータからの推測だから実際の使い方次第で寿命は大きく変わるはずなんだ。)・・・分かったよ。但し、本当にゴーレムの寿命がどの程度になるかハッキリした実績が無いからゴーレムに異常があれば直ぐに技師に見せる事。これは必ず守ってくれ」



「分かった、分かったから、チャッチャッとやってくれ!」



 ふー、これがケガの功名と言う奴だ。よく考えれば、補給基地が3か所あるんだから魔物が1か所に全戦力で襲いかかる訳ねえよな。

 だったら、燃費が悪いとは言え高性能なゴーレムを得て軍曹になれば、生存する確率がかなり上がるぜ。


 笑いが止まらねえ。





 

 

 

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