第8話 第14補給基地
補給基地に近付くと、なぜか堀や塀を高くする工事が行われていた。可笑しい。ここは補給基地だろう?前線の基地じゃないのにそんなに防備を固めてどうするんだ。
まあ、いいさ、俺は早く修理基地に送って貰わないとな。
基地内に入ると、補給の担当者?が駆け寄ってくる。
「ザクリーン隊の方ですね?」
「ああ、私がザクリーン少尉だ。本隊よりここで補給を受けるように指令を受けている。こいつは我が隊の生き残りだ。修理を頼む」
「えっ?・・・あのう、ここは補給基地でここまでの損傷だと修理基地でないと修理は難しいと思います」
ほらね。誰が見てもここじゃあ、修理は無理だって。早く、修理基地に送って新しい機体と新しい隊を下さい。
「何を寝ぼけた事を!今はな、前線基地奪還作戦前の重要な時だぞ!!1兵たりとも無駄に出来ん。直ぐに修理するんだ!!!」
はあ、お前なあ。何だよ、前線基地奪還作戦って?そんな作戦、誰もしらねえよ。あんたは、壊すのが専門で修理は素人だろう。担当が無理って言ってんだから無理なんだよ。
「仕方が無いですね。一応、やっては見ますが戦場で不具合が出ても知りませんよ」
「フフフフッ、良かったなレイモンド!また、戦場で働けるぞ!!」
良くねえよ!脳筋女に負けてんじゃねえよ。あんたも少尉だろうが。死神!!てめえは勝手に俺を戦場に連れて行くんじゃねえよ。前線基地にはな、ゴーレム兵だけで1000人いたんだぜ。それが、全員やられたのに取り返す?バカだろう?バーカ、バーカ。
「はっ!光栄であります」
権力に弱い俺。ハーマーてめえ、絶対、ニヤニヤしてるよな。
あっ?!台車の上にポイッて、俺の体を投げやがった。ザクリーンてめえ、もっと丁寧に扱えよ。頭部装甲にも少し傷があるんだからな。今のが原因でポロっと脳みそが飛び出たら死ぬんだぞ。
俺は台車でゴロゴロと工場へ運ばれた。すると、知っている顔が有った。
「ウッ、こりゃあ酷いな。あれ?レイモンドだっけ??生きてたの???」
「そう言うのはサイモンか。基地と共に死んだんじゃねえの?」
「ハハハッ、相変わらずだな。俺らは技師だよ。危なくなれば真っ先に避難するのさ」
「いいなあ。俺も技師になりたいなあ」
「前も言ったけど、無理だよ」
俺の安全+スローライフを送るにはまず、技師になる事だな。それにはどうしたら?うーーーん。あっ!そうか、サイモンは貴族出身だったよな。だったら、貴族になれば技師に成れるんじゃね。
色々、考え事をしていたら、応急修理が終わり俺のボディの詳細のデータが取れたらしい。
「よし!データの採取は終わったよ。頭部の一部と下部が出来るまでこのカートを使ってよ」
ジャジャジャジャーン。俺の前にはクローラー式のカートが用意された。クレーンを使ってサイモンがカートに載せてくれる。この目の前のジョイステックを操作することで行きたいところへと行ける。修理基地は無理だがな。
貴族に近いって言えばハーマーの野郎だな。よし、ハーマーの所へ行くか。クローラーだから段差があっても全然平気、好調、好調。
ほー、軍曹の居住区って少し豪華だな。全体のつくりもゆったりしている。お前ら、機械なのに贅沢してるな、おい!って俺も機械か。
「おっ!?レイモンドじゃねえか。どうした?俺に修理基地に行きたいって言っても無駄だぜ」
「そんな事は分ってますよ。それより、どうしたら貴族になれるんでしょうね?」
「お前、意外だな。貴族になりたいって、人は見かけによらないと言うが本当だな」
見かけってなんだよ?ゴーレム兵は外観は皆同じだぜ。馬鹿じゃねぇの。
「ちょっとした目的があるんですよ。この隊では軍曹が1番貴族に近いでしょう?」
「ふーん。お前はどうも勘違いをしているようだな。俺達平民は最高で軍曹なんだよ。そこまで来れば、生きたままの退役がかなり近づく。知らないようだから教えておくと、ザクリーン様は騎士爵だが平民から貴族になったわけじゃない。もともと、伯爵家の3女で貴族なんだ。これで分かっただろう?平民出身の貴族なんて現実には存在しないんだ」
「それは本当かよ・・・。畜生!とんだ落ちだぜ」
「まあ、お前は見所があるし、ザクリーン様にも気に入られている。次の作戦で生き残れば軍曹もあると思うぞ。そうなると、この隊ともお別れだな」
えっ!マジで。次の作戦で死ななければ軍曹になれるの俺。それでいいじゃん。軍曹になればあのゴリラの機体で簡単にはやられないし、何だって死神とお別れ出来るんだったら、もう退役したも同然じゃん。
軍隊での給金を元手に小さな魔道具屋でもやりたいな。給金って、そういえば給金はどうなってるんだ?
「軍曹のお陰で気が楽になりました。ありがとうございます。ところで、話は変わりますが、給金ってどうなってます?」
「お前は相変わらず今更だな。2等兵が月に金貨2枚、1等兵が金貨2枚と小銀貨2枚、伍長が金貨2枚と大銀貨1枚、そして俺ら軍曹が月に金貨3枚だ。但し、支払いは退役後だ」
軍曹の話では町に住む家族4人の一般家庭で月に金貨2枚もあれば十分暮らしていけるらしい。日本円に換算すると金貨1枚が10万円、大銀貨が5万円、小銀貨が1万円に相当しそうだ。その他の貨幣もあるらしいが、変に思われたら困るからこれ以上聞かなかった。
このゴーレム兵と言うシステム考えた奴、頭いいな。食料や嗜好品も不要で、ほとんどの奴が死ぬから人件費も抑えられて、軍事費を兵器開発と弾やパーツなどの消耗品に充てられるからな。
一見、2等兵の月給が20万円と言うと安く感じるが、実際、家賃や食費など諸経費が全くかからない。全て貯金出来ることを考えると、平民には魅力的で国としても徴兵にも困らない訳だ。
「給金が退役後って。確かにこの機械の体じゃあ、給金貰ってもやる事無いけどさ。でも、死んで家族がいる場合はどうするんです?」
「家族がいる場合は、名誉兵士慰労金として最大で2年間の給金の2割が支給になる」
「はあ?例えば退役する平均賃金を金貨2枚大銀貨1枚とすると、退役後に金貨60枚が入る予定だった。でも戦死すると、家族には金貨12枚かよ」
うわー、人間の命が日本円換算で120万円だ。ひくわ。
「お前、勘違いしてるぞ。その計算は軍曹として退役まじかに死んだ場合だろう?現実は2等兵として、6カ月で死亡、残された家族には金貨2枚と小銀貨4枚だ。そんなものだろうよ。」
・・・言葉も出ねえよ。あんたね、ラノベを1度、読めよ!奴隷だって日本円で300万円~1000万円で取引されてんぞ。
それが24万円って、どうなってんだ?このクソ世界はよ!
「・・・居住区に戻ります」
「まあ、そう落ち込むな。お前は後1回で軍曹だ。頑張れよ」
この世界の事を知るにつれて、地獄はここよりマシじゃねえか?と思うようになった。
人体を改造して機械化して、いつ終わるとも分からない戦いを繰り返す。ドンドン失われる命と資源。
こういう時のセリフは・・・思い出した。
悲しいけど、これ戦争なんだよね。