第6話 本当の地獄って見たことねえな
前線基地の周辺は、草一つ生えない土塊のみだったが、暫く移動すると森と言うかジャングルが見えて来た。サイモンの本によると、魔素が濃い所為で木が異常な成長をしているとあった。幾ら木を伐採しても1カ月で元通りになるらしい。また、ジャングルの中を歩くと、灰のような物が漂っており、これを普通の人間が吸い込むと短時間で衰弱死するらしい。
これってさあ、死の灰じゃねえの?放射能だよなあ、放射能!コエー、俺の脳大丈夫だよな??謎金属で覆われているけど、心配だな。
ゴブリンの異常性もこの環境下で生き残るために遺伝子が変化したものじゃねえの?
更に移動し昼近くになって、遠くに要塞が見えて来たけどさ。あれって、200匹程度のゴブリンの巣じゃねえよなあ。
「よし、ゴブリンの巣が見えて来たぞ!もう少しだ。敵を見て気合が入って来たとは思うが、もう少しの我慢だぞ。フフフフッ」
はあ?何言っちゃってんの死神さん。頭おかしいだろう、お前、あれはなあ、巣じゃねえよ。要塞って言うんだよ。血が漲る?イヤイヤ、血が引くでしょう。生身なら気絶してるよ、多分。
「おらクズども!ザクリーン様の元に分隊ごとに整列しろ」
「これから、作戦で決められた地点に向かう。音をたてるようなへまはするな!念のために言うが、突撃まで発砲も禁止だ。行くぞ!!」
音をたてないのは良いけど、ゴブリンだってバカじゃないし、近づけば気が付くんじゃないの?おっ?右目に隠密モードとか表示が出て、目的地までの移動経路が左目に表示されている。便利だよなあ。
ほー、どういう訳か動きが制限されるけど、関節部からの音が無くなった。足元もソローリソローリと言う感じで、スゲーなゴーレム兵。
こうして、俺達は門が見えるギリギリまで近づく事が出来た。勿論、バカでかいザクリーン様の機体は後方ですな。
「ヒュルルルルル~~~~~、ドッカ―ン、ドッカ―ン」
おっ、要塞への砲撃が始まっちまった。ここまで地響きが伝わって来る。これで十分じゃねえの?わざわざさあ、危険を冒してまでゴブリンの死体を確認しても何の得も無いよな。
あっ、いかん、門を爆破しようと爆弾を仕掛けようとしていやがる。
「お前ら、突撃の準備だ!門が爆破されたと同時に巣に侵入し、奴らを根絶やしにする!!一番槍はどこだ?」
うっ?!こいつ、いつの間に俺の近くへ来たんだ?
「はっ!ここであります」
「よし!レイモンド、お前が先頭で突撃だぞ!!」
何回も何回も突撃だとか先頭だと好き勝手言いやがって頭に来るぜ。
何かさあ、視線を感じるんだよな。それと、なんとなく、ゴーレム騎士の銃口が敵じゃなくて俺に向けられている気がする。重要な事だから繰り返すけど、敵でもなく、俺の分隊でもなく俺なんだ。
なんで分かるかって?だって、俺が右に動くと銃口も右に動くからね。ほらほら、今度は左だよって遊んでる場合じゃねえ!
「ドッカ――――――――ン」
ドッカ―――ンって門が吹き飛んだよ。
「突撃ーーー!」
全く、クソが。死にゃあいいんだろうが、死ねばよ。突撃しながら弾をバラまくように撃ち、何気に後ろを向くと、唖然とした。
なに?この一列編隊。こいつら、俺を盾にする為に縦に一列になってやがる。フッ、こうなったらお前ら道連れだ。俺は敵のトーチカ?を目指し、ダッシュしながら魔導ライフルにリロードした。
どうした?付いて来ないのかよ。ヘヘヘヘッ。
「ドンッ」
ウッ、オイ!足が何かに躓いたのか、トーチカに頭から突っ込んで行く、死ぬ死んじゃう。俺はトーチカ内に転がり込むと、無我夢中でトーチカ内で動くものを見ると引き金を引いた。
「・・・カチカチカチ」
気が付くと、ゴブリンどもが5匹転がっていた。倒れているゴブリンに向かってタマの出ないライフルの引き金を引き続けていた。
「冷静になれ!落ち着け、落ち着くんだ。周りを良く見ろ!!」
俺は自分に言い聞かせるように叫んだ。そうすると、不思議に冷静になる事が出来た。ライフルの空のカートリッジを投げ捨て、リロードすると倒れているゴブリンどもの頭部に1発づつ撃ち込んだ。
ほっと、一息つくと、突然、扉が開き、新たなゴブリンが飛び込んで来た。
「ギギャギャ!」
俺は反射的にドアの陰になるように右に飛び込もうとしたが、単に右に倒れてしまった。良く見ると、左足が破損していた。トーチカに頭から飛び込んだのも左足を撃たれたのが原因だった。
「ドンッ!」
「ドンッ!」
ゴブリンのライフルの銃口が光るのと同時に俺のライフルからもオレンジ色の光が吐き出された。と同時に俺は頭部に強いショックを受けたが、ゴブリンは腹部に穴を開けて後ろに倒れて行った。
慌ててヘルメットを脱ぐとゴブリンが撃った弾だろう。俺のヘルメットの一部が抉られていた。
「これじゃあ、命がいくらあっても足りねえなあ。ここも安全じゃねえ。こいつを始末してサッサっとここから出るか!」
いつもの癖のように独り言を呟く、ボッチ癖は直らねえ。倒れているゴブリンの頭部に1発お見舞いすると、トーチカを出た。トーチカを出ると塹壕のようになっていて、少し行った所にゴブリンどもが俺達以外の部隊に応戦している。
「クソッ野郎が!カートリッジの最高弾数が12発だろう。さっき、7発使ったから残りの弾は5発だ。あいつら4匹だからいけるか?」
甘ちゃんだった。そりゃあさあ、仲間が撃たれれば逃げるか隠れるか、こっちに向かって反撃するよな。そして、ゴブリンは魔物だから、逃げたりしません。しかも巣を荒らされて怒り狂ってるもんな。
1匹ほど片づけたら、手前の奴、俺が隠れている所へライフルを撃ちながら突撃してきやがった。
フッ、所詮はゴブリンだな。これをくらえ!
「ドンッ!」
ライフルから吐き出された弾は、目の前のゴブリンの額に綺麗な穴を開けた。
「ゲギギギッ」
ウッ!今の囮かよ!!後ろにもう1匹隠れていやがる。
「カチカチ」
そうだ、1匹目の時に3発も使っちまったんだな。さっきので弾切れだ。全く、ついてねえ。
急いで7型ダガーを抜き、ゴブリンの首めがけ振りぬく。
「ブ~~ン。ザシュ」
ダガーで首をザックリ切り、ダガーを投げ捨てると、凄い勢いで血が噴き出した。素早くそのままゴブリンを抱きかかえ、くるりと向こう側に向きを替え、ゴブリンのライフルを構えるとゴブリンの指ごと引き金を引いた。
「ドンッ!」
残念だったな。地球から転生して来た俺には、そんな見え見えのアタックは悪手だよ。フフフフフッ。
3番目のゴブリンが頭部を打ち抜かれ倒れて行った。