第5話 はあ?伍長って一番先に死ぬ人なの??
「それじゃあサイモン、色々ありがとうな。これ返すわ」
「ああ、少しでも役に立てばいいさ」
「ところでさ、マニュアルで2年間、この体へのエネルギー補給は必要が無いのは理解したんだが、定期的にエネルギーの補給はするとして、気に入ったらずっと、このままの体でいれば不老不死じゃね?」
「ああ、なるほどね。過去に色々な研究者が研究して来たテーマだね、結論からすると無理だ。ところで、何で兵役が2年間なのか知らないのかい?その体は脳を2年間しか生かすことが出来ないんだよ。脳の研究は進んでいるらしいが原因はまだ不明らしい。だから、継続してゴーレムの体で生きる訳にはいかないのさ。それと、これは余り知られていないんだけど、ゴーレムの体から生体の体に戻る時は必ず成功する訳じゃあないんだよな」
「はあ?そんなの聞いてないぞ。軍から逃げ出す事が出来ないような仕組みにしやがって、クソッ!しかも、やっと生き残ったのもつかの間、移植手術が失敗して死ぬって、死んでも死にきれねえよ!!」
「まあ、落ち着いて。確率で言えば1%程度の確率だからさあ。多分大丈夫だよ」
はあ、こいつ何言ってんだよ。1%って100人に1人死ぬんだぜ。軍全体でゴーレム兵が何人いると思っているんだ?ここの前線基地だって1000人はいるぞ。つまり、全員運よく退役まで生き残ったのに10人は死ぬのかよ。このクソが。
「クソッ。出撃前のミーティングのサインが出やがった。じゃあなサイモン。お前に会えて助かったぜ」
何かサイモンを見ていたらムカついて来たな。いかんいかん、一応恩人じゃないか。
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俺が会議室に着くと、ほとんどのメンバーが揃っていた。暫くすると、ザクリーン様、いや、敢えて死神と呼ばせてもらおう。そうフラグを立てる死神が会議室に入って来た。
「お前ら、揃ったな。今回、お前らの指揮を執るザクリーン・シーマだ。今回は正式な作戦である。まずは分隊に分かれろ。お前らのコンソールの色が付いているだろう。同じ色ごとに座り直せ。分隊長は伍長とする」
「俺はハーマー軍曹だ。クズどもサッサと、席を換われ!もたもたすんな!!」
「あのー?少尉殿」
「何だ?レイモンド伍長!」
「いや?!だからスクリーンの調子が可笑しいと言うか・・・」
「ああ、その事か、おめでとうレイモンド伍長。前回の活躍と、ゴブリンの討伐数で特別に昇進が決まった。早く席につけ!」
はあ、何言ってんの?伍長じゃあ、一番槍と見せかけて他の奴の陰に隠れる作戦が使えねえだろうが!あっ、死神がこっちを見てニヤニヤしてやがる。ああ、分かったよ。あんたがこの状況を作ったんだな。
畜生、絶体絶命だ。俺の生き残るための訓練とシミュレーションが無駄じゃねえか。
大体、2等兵から1等兵になるのに出撃回数が5回、1等兵から伍長になるのに10回、伍長から軍曹になるのに15回、つまり、2等兵から軍曹に成るのには30回の出撃回数が必要なんだ。
俺は修理工場を出る時に出撃回数が6回で途中のゴブリンとの戦いを入れたといても7回だったから、8回飛び越えかよ。
それにしても平民の昇進は適当だな、おい!
「よし、分隊ごとに座り直したな。今回の作戦は簡単だ。β地区にある最近出来たゴブリンの巣を殲滅する。当然、我が小隊だけではない。今回はキンブル大尉の元、大隊の作戦だ。A小隊が巣へ向けて砲撃し、B小隊が門を破壊し、我がC小隊が巣に突入する。その後、A小隊及びB小隊が合流して巣を掃討するという作戦である。1時間後に集合地点に集合せよ装備を渡す。以上だ!」
「「「「イェッス、マム!」」」」
「よし、クズども解散だ!」
解散じゃねえよ。お前らバカだろう?あんな強いゴブリンの巣に突撃って、命がいくらあっても足りねえだろうが。最近出来たという話だったが巣にいる数は不明でゴーレム兵90人、そこにゴリラが3匹と大尉を加えた魔導ゴーレム騎士が4機で突撃って、正気じゃねよ。あのね、攻め込む側は守備側の3倍の兵力が必要って知ってますか?
この世界の軍ではゴーレム兵10機が1分隊で、それが3分隊30人の兵士と軍曹と少尉で1小隊だ。この小隊3つで大隊で大尉が指揮する。更に大隊3つが連隊で少佐が指揮をする。連隊3つで師団となり大佐が指揮する。それ以上は軍団やら他の組織もあるらしいが詳しい事はまだ、分からないが、これだけは言える、ゴブリンを舐めるんじゃねえ!
宿舎に戻ると、遺書書いたり、祈っている奴もいる。精神も可笑しくなる奴もいるかと思ったら、残念ながらそうはならねんだよな。この不思議ゴーレムのお陰で、精神だけはどんな時も冷静でいられる。
あれっ?ひょっとすると、この精神を鎮静させる薬か魔法が脳に悪影響を与えて、生体に戻る時の成否に関係してるんじゃねえだろうなあ。人間の感情を人工的にコントロールしているのだから、十分あり得る。
「ああ、クソだ。クソの世界だよ。ここは!」
ああ、いかんいかん。冷静にそう冷静に。生体になる時の成功率が下がってしまうぞって、これから死ぬかも知れないのに何を考えているんだ。今だよ、今。
右目に集合のサインが表示された。左目に順路か、相変わらず正確だな。
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集合場所に行くと、ハーマーが武器を配っていた。おや?今回は防具もあるよ。そうだよな、幾らなんでもこのままじゃあ、あっという間にやられるよな。
「レイモンドか。ほれ、21式と7型ダガーだ。それと今回は何と特別支給の101式試作プロテクターだ」
「ハーパー軍曹。ありがとうございます」
ありがとうじゃねえよ。何だ?試作プロテクターって不安なプロテクターじゃねえか。ただのプロテクターじゃダメなの?まあ、ヘルメットが付いているだけ良しとするけどな。
良く見ると、ゴリラは何のプロテクターも付けていねえよな。つまり、その程度の補強具合って事だな。こりゃあ、過信すると死ぬな。
「よし、今回は特別に101式試作プロテクターが支給された。大事に使え。この装備がゴブリン程度の武器や魔法からお前らを守ってくれる。良いか、敵を恐れずに突撃の合図と共に突撃するのだぞ。それでは出撃!」
「「「「イェッス、マム!」」」」
「クズども。ザクリーン様に続け!」
死の行進が始まっちまったぜ。突撃と共に俺が真っ先にゴブリンにやられる未来しか浮かばねえ。何の因果でこうなっちゃまったのか、誰か説明してくれ。