第2話 戦場へ
クリスから俺達が何でここに居るのか。俺達のこの奇妙な体の事などを聞くことが出来た。
今までの状況を考えると、俺がいつも愛読しているラノベと同じ状況だな。蕎麦屋に行く途中、チャリごとトラックにでも跳ねられたんだろう。
異世界転生って神的なものとか女神とかに会ったりするものだと思っていたが、俺の場合は無しのパターンだ。
しかし、このコスプレが実は機械で脳以外全て機械化されているという驚異の真実。
SFだ。未来への転移だと思っていた。
俺のボディの左胸辺りには、コンソールがある。通常、表示されるのは、名前、年齢、階級、所属、出撃回数だ。
それ以外のステータスを含めて基本的に右目に投影して自分だけ見ることが出来る。基本的と言ったのは尉官以上は自分より下位の者のステータスを全て閲覧する事が出来るからだ。
ステータス
1.名前:レイモンド
2.年齢:18歳
3.階級:一等兵
4.所属:なし
5.出撃回数:6回
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6.総合能力:F
7.スキル:魔力増加LV1
総合能力は最低がFだ。スキルに魔力増加LV1と合っただろう。そうなんだ。この世界には魔法があり、この機械の体も魔法で動いているらしい。スゲー、高度魔法文明万歳!
年齢も18歳に若返り、体の調子がいいって?だってさあ肉体は脳だけの機械じゃん。調子いいのは当たり前だよね。
クリスに魔法の事を聞いた。全ての魔法は物理的に魔法陣が描かれたものに魔力を加えて発動する。つまり、魔法陣がないと実質魔法が使えない。
はあ?詠唱とか、空中や床に魔法陣が表示させて魔法使えたりしねえのかよ。
生れた時と同時に得られるファーストスキルが火魔法であれば、その魔法に限り魔法陣が不要で魔法を発動できる。言い換えるなら、ファーストスキルが魔法に直接関係するスキル以外、例え貴族でも魔法は使えない。それならどうするか?魔法陣が刻まれた魔道具を使う事により誰でも魔法が使えるようになる。魔道具は高価なものが多く、お金のある貴族はその恩恵を多く享受できるが、貧乏な平民は生まれた時に得られるファーストスキルが魔法スキルでない限り、その恩恵も少ない。
結局、ほとんどの平民は魔力は有っても魔法が使えないんだ。
階級に関しては、二等兵→一等兵→伍長→軍曹→少尉→大尉、その上もあるらしいがクリスは知らないとの事だった。俺は中尉は無いのかよっと聞いたが、無いらしい。また、軍曹までは出撃回数で昇進でき、軍曹へ与えられるゴーレムは伍長以下の一般兵に与えられるゴーレムとは違い性能がかなり良いらしい。あのゴリラの恰好がねえ。
更に話を聞くと、少尉になると騎士爵が与えられて貴族になるそうだ。
「なあ、貴族になって得があるのかよ?」
「そりゃあ、あるさあ。体が生身のままで、女、旨い食べ物、何でもありだ。その上、ゴーレム騎士が与えられるんだ。生きる確率がグ――ンと上がるってもんだぜ」
「はあ?!体が生身ってなんだよ?」
「おいおい?大丈夫か??2年間の兵役が終われば俺達だって元の生身に戻れるんじゃねえか!その為に体の一部を保存しているんだろう。しかし、よく体の一部を使って元の体に復元できるよな。詳しい事は俺は分からねえけどな」
「スゲーな。クローンかよ。もう何でもありだな」
「クローン?聞いた事がねえなあ。まあいいや、兵役の2年間、そこまで生きれる奴が何人いると思う??ほとんどの奴が死ぬんだよ。ここをやられてな。これが現実だ。運よく軍曹に成れば生き残る確率がかなり上がる。それでも厳しいよな」
「・・・」
クリスが自分の頭を指して話す様子を見ていると、これが現実である事を嫌というほど考えさせられる。自分の体が脳以外が全て魔法で構成される機械である事。肉体の一部を軍が保有していて2年間の兵役が終わると生体、つまり元通りの人間の体に戻れる事。機械の体はなぜか?五感を感じられ触る感覚はあるが、痛みは感じない事、と1日に2回データによるバーチャル食事が出来る事。
不思議だよな。匂いを感じる感覚とか、食する感覚が必要とは思えない。
しかし、よく考えてやがる。脳と言うのは肉体の2%の体積しかねえ。つまり、単純に狙いを付けない銃撃を受けた場合、脳に当たる確率は2%になる。実際は顔と言う標的があって、狙われるから被弾する確率はもっと高いのかも知れないが。
生身の人間を超える能力と装甲を持つ機械の体と、脳以外を機械化する事で死への確率を極端に減らしたゴーレム兵。
俺が戦う奴らは一体どんな奴か想像すらつかない。
「おっと、出撃の集合時間だな」
「はあ?出撃ってなんだよ」
「戦争だよ。ここは、ゴーレムが破損した連中が集まる修理基地なんだからさあ。修理して特に問題が無ければ戦争に駆り出されるんだ。今更何言ってんの?おっと、集合のサインだ」
「集合のサイン?」
「自分の胸のコンソール見ろよ。えっ!?レイモンド、お前、ザクリーン様の隊か・・・。気の毒にな」
そう言うと、クリスはさっさと出て行ってしました。
「おい!ザクリーン様ってなんだよ?あっ・・・行っちまった。クソッ」
左胸のコンソールを確認する必要もなく、左右の目に視認しているものの邪魔にならないように透過されて右目の隅にステータスが表示され、部隊名がザクリーン隊という記述に変わっていた。更にご丁寧に左目の隅に集合場所の経路と自分の位置が浮かんでいた。両目の表示は自分の意志で任意に消したり表示させたりする事が出来て道に迷う事は無かった。
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「遅い!お前らたるんでるぞ。全く役に立たないクズどもだ!!そこのお前、早く武器を受け取り列に並べ!!!」
うるせえゴリラだな。あのテントの所で武器を渡しているようだな。しょうがないダッシュだ。スゲーハエ―、スーパーな人のようだぜ。
ほら、よこせゴリラ。何だこりゃあ?これって博物館で見た火縄銃によく似てるよな。それと予備のカートリッジ2個と少し長めのダガーか?周りを見ると、カートリッジは腰のケース見たいのに入れて、ダガーはこの腰からぶら下がっているケースに刺すと、火縄銃は担げばいいんだよな。
「それじゃあ、並びますか。えっ?!・・・」
列に並ぼうと再びダッシュしてたら、驚き過ぎて途中で立ち止まってしまった。高さは俺の2倍くらいでバカでかい卵に手足を付けたロボットが目に入ったからだ。卵を横倒しにして尖った方が前方だ。確かに、卵は尖った方が硬いから、理にはかなっている?が、カッコ悪い。まあ、人型が無駄だって事は分かるけどさあ。
誰かが考え付いちゃったんだなあ、これ。
まあいや、そんな事よりそのロボットの横に立つのは人間だった。そう人間。肉体を持った人間でしかも女性だ。つまり、貴族様だな。でも、この貴族様は驚くべきことに頭の上に大型犬のような耳が乗っかっていた。獣人?尻尾はあるのか??ズボンで見えねえなあ。
「そこのお前!ボッとしてないでライフルを備えて直ぐに隊列に並べ!!」
ヘイヘイ、獣人様、直ぐに並びますとも。また、訓練所でボコボコにされるのは嫌だからな。
「よし!全員揃ったな。お前らヒヨッコは前線基地への移動が決まった。それまでの指揮を執る事になったザクリーン・シーマである。前線基地へ向かう途中、襲撃があるやもしれぬ。だが安心しろ!!お前らは頭を撃ち抜かれない限り死なない。戦場では臆病者から死んでいく。お前らの活躍に期待する!!!以上だ」
おいおい、変なフラグ立てないでくれ。頭撃たれりゃあ結局、死ぬんじゃあねえか。
「「「「イェッス、マム!」」」」
「よし、クズどもよく聞け。俺はお前らクズのケツ拭きをするハーマーだ。気合を入れていくぞ!ザクリーン様の後に続け!!」
えっ?!移動するのに徒歩かよ。移動用車輌とか無いの?確かに一部舗装されているようだけどさあ。ザクリーン様のロボット早えよ。あのロボット、歩くかと思ったら、足の裏にタイヤ見たいのが付いていてサーと移動してやがる。
こちとら、確かに機械の体で肉体的な疲れはないかも知れないが、脳は生体なんだぜ。神経が疲れるんだよなあ。
「おい!お前だ、お前!!なぜ、移動モードにしない?それじゃあ、現地まで持たないぞ。全く、不良品野郎が」
俺か?確かに俺を見てゴリラが怒鳴っているな。移動モードってなんだよ?普通はさあ。こういう異世界転生の場合、転生する前の現地人の記憶が残っていたりするもんだろうが。何も残ってねえ。どうなってんだ?レイモンドさんよ!
「畜生!移動モードって・・・あれ?右目に表示が出たぞ。よし、移動モードだぜ」
スゲー楽、ハッキリ言って寝てても勝手に走ってるんだ。スゲーなあ、機械の体。俺は、ぐっすり寝た。
どの位、寝たのか分からないが、強烈な浮遊感で目が覚めた。