第1話 ここは何処だ?
昭和が懐かしい。
「ふー、暑くて寝てられんわ!うっ、眩しい」
クソ―、昨日は休みの前という事で、独り居酒屋で安酒ゴクゴクで頭いてえなあ。セミ、うるせえんだよ。しかし、部屋を見渡すと、服のまま寝てるし窓全開ってさあ、不用心じゃあね。まあ、50過ぎの親父を痴漢する奴もいねえか。おいおい、良く見るとあっちこっち蚊に食われて痒い。最悪だ。
「クソ、面白くもねえなあ、おい」
おいって独り言だよ。何か、腹が減って来たな。冷蔵庫を確認・・・なんもねえ。
「しょうがない。コンビニでも行くか」
また、独り言だよ。自分で嫌になるぜ。いつもコンビニかスーパーの安売り品ばかりだよな。たまには、外食するかあ?夏で二日酔い気味、こりゃあ、蕎麦だな。
「よし!蕎麦屋に行こう・・・って、俺、独りだよなあ・・・」
取り敢えず、顔を洗って、寝癖を直して、服はこのままでいいかあ。
こうして、俺は意気揚々?と駅の近くにある蕎麦屋に鼻歌を歌いながら、チャリで向かった。
「ラ~ラ~ラ、ラーラ~ラ~ラ、ラ~ラ~ラ~ラ~ラ~、太陽が一杯だ!・・・うっ!?なにげに気持ちが悪い。やっぱり、カンカン照りの中、チャリってきついよな」
あれ?チャリがフラフラする。12時間以上寝て、酒は抜けているはずだぞ。クソ―、年かなあ?
「キキーーーー、ドンっ!」
急ブレーキの音に気が付いて振り向こうとすると、なぜか俺はカンカン照りのお日様を見ていた。
あれ?俺って空飛んでる?
「ドスン、ベチャ」
そんな、音が聞こえた様な気がした。
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「おい!起きろ!!いつまで寝ている。点呼の時間だぞ」
うん?!うるせえなあ。今日は、休みなんだよ。やすみ。
「レイモンドはどうした?」
「それが・・・寝ています」
「なに?聞こえん。もっと声を張らんかあ!」
「ガルバ軍曹殿!レイモンド1等兵は、まだ寝ています!!」
「ほう?俺が直々に起こさないと、起きれないとはな。よし、お前らは、罰として各々の隊の集合時間まで各自整備だ!どうした?返事がないぞ!!」
「「「「サー、イエッサー!」」」」
夢の中の落下ってあるよな。それの凄い奴。
「ドカ―――ン、ゴロゴロ、パタリ」
おいおい、人が気持ちよく寝てりゃあ、何するんだよ。人の部屋に勝手に入りやがって!あれ?俺は確か腹が減って蕎麦屋にチャリで移動中だったよな・・・。
「フフフフッ。レイモンド1等兵!いい度胸だな?朝の点呼で寝てる奴は初めてだぜ」
「うっ?!怖そうなゴリラが目の前に?ここは動物園かよ」
「お前、まだ、寝ぼけてやがるな。この前の作戦でお前のゴーレムはバラバラになったが、こうして新しいゴーレムが支給されたよな。よし!目覚まし代わりに集合時間まで鍛えてやろう。訓練所に行くぞ!!」
はあ?こいつ何言ってんの??俺はね。若い頃はソフトウエアからハードウエアまで設計できるエンジニアとしてブイブイ言わせて、今は落ちぶれたオッサンだぜ。一部の国民から批判されても頑張る自衛隊に入ったつもりはねえんだよ。
偉そうに、小僧が年上に向かって何言ってやがる!それにゴーレムがバラバラ?アホか!!ゲームじゃねえよ。
投げ飛ばされて転がった姿勢から腹を立てながらも立つと、壁に設置された鏡に何やら灰色のロボット?が映っていた。
顔は能面のようで身長は2m位、細身で人型、全身灰色の艶消しのマネキンだ。
「えっ?!なにこれ?誰だよ!俺が寝ている間にロボット的なコスプレを着せたのは??」
あれ?脱ごうとしても脱げないと言うか、触ると、触った感覚があるんだけど??どうなっているんだ、これ???
「なにブツブツ言ってんだ。こっちだ、ついて来い!」
ついて来いって、お前!引きずるなよ痛いだろうって、痛くない?しょうがないから、ついて行くか。あっ、あの壁の凹みはさっき俺がこいつに吹き飛ばされた跡だよ。酷え事しやがる。
ゴリラについて行くと、俺が寝ていたかまぼこ型の宿舎が幾つも立ち並び、宿舎が切れたと思ったら、競技場というかコロシアム見たいのが見えて来た。
「すみません。あれって訓練所というよりコロシアムですよね?」
「フッ。大丈夫だ。ここでは訓練モードになり殴られれば現実で感じるような痛みが脳に伝わるだけだ。力が制限されてパーツが壊れる事は無いからな」
それって拷問だろう?何が訓練だよ。フンッ、そっちがその気なら遠慮しないからな。
何て、考えてた俺が甘かった。今、俺は激痛にのた打ち回っていた。クソ―、土ってこんな匂いがするんだなって、こいつ、強過ぎだ。
「おら、どうした?さっきの元気は??訓練はこれからだぜ!ほらよ!!」
ゴリラの右が俺のボディに食い込む。さっきまで引きずられても痛くなかった体が、激痛を訴えている。ボディを打ち込まれても激痛だけで、胃液を戻す事もコスプレが壊れたりすることが無い。
「どうした?1等兵。相手の攻撃を良く見ろ!相手の予備動作から自分への攻撃を予測してブロックしろ。相手にスキがあれば攻撃しろ。そんな、ヤドカリみたいに籠ってじっとしていると直ぐにやられるぞ」
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『意識不明・・・再起動中・・・』
「うっ!?ここは宿舎か?今、なんか声が聞こえた様な・・・」
その後もボコボコに殴られ、放り投げられ、俺の意識が無くなった時点で訓練と称するシゴキが終わったらしい。目が覚めたら、ベッドに転がされていた。
「おい、あいつ、目が覚めたらしいぜ」
「ほんとだ。しかしムカつくなあいつ。あいつの所為で集合時間までゴーレムの整備をしなければならないんだぜ。自由時間が無いって言うのはきついよな」
「しっ!あいつは1等兵で一応俺達の上官だからな。聞こえるぞ」
大丈夫だ。お前らの話は全て聞こえている。だがな。俺は、現実を把握する前に何の説明もなくボコボコにされたんだ。お前らには、この状況が分からねえだろうな。畜生が。
「あんた、レイモンドだっけ?同じ1等兵だから忠告しておくぜ。連中には気を付けた方がいい。戦場じゃあ。どこから弾が飛んで来るとも分からねえからな」
突然、声を掛けられ声のする方を向くと、能面を被ったような顔が俺を見ていた。と言うか、周りを見渡すと、どいつもこいつも能面だらけだった。俺は驚き息をするのも忘れていたが、今は声を掛けられた相手からこの状況を説明して貰いたい、ただそれだけで返事をした。
「あんたは?」
「俺はクリスって言うんだ。俺は今回、1等兵になったばかりだから、後、10回戦場に出れば伍長だな」
「ふーん、俺は小原 冷主水。宜しく」
「はあ?オハラ・レイモンド??あんた貴族か???」
「貴族?俺が??どっから見ても平民だろう」
「何だよ。脅かすんじゃないぜ。名字を名乗れるのは貴族か王族だ。悪い冗談はよせよ。ここにいるのは農家の4男以下か貧民街出身といったあぶれ者しかいねえからな。名前はオハラなのか?しかし、隊の軍曹でなくこの修理基地の軍曹で良かったな。そうじゃなきゃあ、目を付けられて後々、どうなるか分からなかった」
名乗りに関しては、欧米式で名前・名字の順みたいだな。名字を名乗るのが貴族以上と言うと、この世界は貴族社会なのかよ。社会形態と技術進歩は、この世界では余り関係性がないようだな。
名字は冗談でレイモンドだと名乗ったら、少しは親近感が湧いたのか、クリスがこの世界の事情を少しだけ、話してくれた。