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ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
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作戦

「今回のメイン目標は王城の奪還、サブ目標は市街地にいる魔獣の殲滅だね。まずはメイン目標の方から順に説明していくよ」


 すると突然、水無月たちの目の前に巨大なモニターのようなものが現れる。

 唐突なSF要素に目を輝かせる水無月だが、日下部含め他の誰も特別な反応を示さない。


「おい日下部、これって当たり前なのか?俺だけ感動しててなんか恥ずかしいんだけど」

「僕も最初見たときは感動したよ。でもそんな期待しない方がいいよ」


 この状況から期待を裏切られることなどあるのだろうかと水無月は思いながら、今まで散々ファンタジー要素をつぶされてきたことを思い出す。

 空飛ぶ座布団然り、立派な翼があるのに飛べないドラゴン然り。

 だがしかし、目の前でこんなものを見せられては期待するなという方が難しい。


「まあ見てなよ」


 わくわくを隠しきれていない水無月に日下部は説得を諦める。

 その直後、モニターに映像が映し出された。


「おおっ」


 思わず水無月は声を出してしまう。

 が、映し出された映像を見て大きく肩を落とすこととなった。


「だから言っただろ。あんまり期待しない方がいいって」

「いやでもよお、さすがにこれはねえよ」


 目の前のモニターには文字が映し出された。

 これだけ聞けば感嘆の声をもらすのではと思うだろう。

 しかし、映し出された文字がパチンコ店などでよくある横に同じ文字が流れていくだけのものだったらどうだろうか?

 誰がどう見ても残念極まりないものでしかない。

 しかも映し出された文字は、『作戦会議でーす』ときた。

 これを落胆せずして何をしろというのか。


「こんな技術があってできることがこれとか………まじかよ」


 水無月が感想をこぼして、日下部がその様子を見て苦笑する。

 そして、モニターが消えた。

 どうやら役割はあの文字を映し出すためだけだったようだ。


「ほんとなんだったんだ」

「今後この世界にあるファンタジー要素には期待を持たない方がいいと思うよ。裏切られたときの損失感がものすごいからね」


 乾燥した笑みをこぼす日下部を見るに、何度も期待を裏切られたのだろう。

 今の水無月にそれは容易に想像することができた。

 

「王城内に入る人数は十人前後とするよ」


 その二人のやり取りの間も、テルソリアの説明は続いていた。


「メンバーは僕とカルステアとリルレット、あと他に三人ぐらいの騎士を騎士団から」

「忍の方からは俺とリヒットの二人」

「俺っちたちのところは三人全員だな」


 今のところは十一人。

 広い王城を奪還するには人数が足りないのではと水無月は思い、その疑問を口にしようとするもそれよりも先に日下部が口を開いた。


「その人数で足りると考えたのは何か理由があるんですよね」

「もちろんさ。その理由はラオべインさんが話していただけるかな?」

「ん?ああ」

「聞いてなかったすねお頭」

「余計なこと言うんじゃねえよ」


 気の抜けた声で返事をしたラオべインにリヒットがボソッと突っ込む。

 しかし、静かなこの会議室ではその声も全員が聞き取ることができた。

 ラオべインはばつが悪そうに頭をかきながら立ち上がり、その理由を話し始める。


「今回の作戦、俺らが下見に王城に潜入したわけだが。王城内には人は少なく、魔獣自体も数が少なかった。しかし、この潜入任務で三名の命が失われている」

「つまりは少数の、力を持つ者たちが城内にいるという考えですね?」

「てっとり早くいえばそういうことだな。ちなみに国王の姿は確認できなかった。まあこれに関しては死体も見つけれてねえからまだ何とも言えねえな」


 ラオべインはさらりと国王がこの事態を引き起こしている可能性を示す。

 そのことに騎士団側から鋭い眼光が飛んでくるが、ラオべインはそれを威圧を放ち黙らせる。


━━これ大丈夫か?だいぶ仲悪そうだが…


「そういう言い方はよくないっすよお頭。いくらお飾りだからといって一応国王は国の象徴で、騎士団はあくまでその国の所属って扱いなんすから」

「んなことをどこにも所属してない俺らに言われてもわかんねえよ」

「それは僕も同感っすけど…」


 わざとなのかと思えるほど小さな火種に油を注いでいく忍の二人。

 今にも騎士団の何人かは怒りの声をあげそうになるが、テルソリアが咳払いをして話の方向性を正す。

 

「それ以上言われると僕も声を荒げる必要が出てくるのでやめていただけるかな?」

「あー、別に悪意があって言ってるわけじゃねえんだ。気分を害したんなら申し訳ないな」

「すんませんっす」

「うん。これでみんなも文句はないね?」


 テルソリアがその場にいる騎士全員に対して語りかける。

 さすが騎士といったところか。

 その一言で騎士の間にあった険悪な空気はなくなった。


「次は周囲五キロ範囲にいる魔獣についてだね。この問題については二人一組、総勢二百名でを予定している」

「そんな人数で足りるのか?俺がいつも見てる限りではかなーりびっしりと街にいるんだが…」

「魔獣に負けるほど僕たち騎士は弱くないよ」

「それはこっちも同じだ坊主。魔法も使えず、知能も低い魔獣に勝てねえなんてことはまずねえよ」


 それぞれのリーダーが答えるが、水無月が心配しているのはそこではない。


「そりゃあそこらの魔獣に負けることはないんだろうけど…」

「水無月が心配してるのはあの魔龍のことだろ?」

「ああ、そうだよ日下部。さすがにあれには並大抵の奴じゃ勝てねえと思ってるんだが」


 王城の上に居座る三体の魔龍。

 もちろん魔獣と違い、魔族である魔龍には知能がある。

 だからこそ、三体の魔龍がどう動くのかが水無月にはわからない。

 それはこの場にいる全員が思っているだろう。

 規格外の二人を除いてだが。


「あ?別に心配するこたあねえだろ。王城に入る前にちょちょっと片付ければいいんだからよ」

「僕もその予定だったけど……」


 同じくしてキョトンとする二人の強者。

 片方は世界最強の騎士。

 もう片方は出陣しただけで事態は解決すると言われる忍。

 その場違いな空気感の二人に。

 だが驚くのは水無月だけだった。


「えっ…いけんの?」

「余裕だろ」

「同じくだね」

「あっ、そう…そっかあ」


 滲み出る自信は水無月に桁違いの実力差を感じさせる。


「もしかして俺って超弱い?」

「まあ僕とコレニスに勝てないぐらいだからそんなに強い部類には入らないと思うよ」

「今の俺っちたちの強さは日下部、俺っち、水無月の順で強いからな」

「やっぱ俺まだ弱いんだ」


 こそこそと、周りに聞こえないように身内に話しかけた。

 グラべオンに来てからも訓練を怠らなかった水無月。

 日下部とコレニスに対戦相手をしてもらうこともあったが一度も勝つことはできなかった。

 そもそも日下部もコレニスも共に実力はグラべオンの騎士団の中でも上位に食い込めるほどの実力であり、その二人とそこそこいい勝負を水無月は繰り広げることができるのだが。

 二人は自己評価が低く、自分たちが騎士団のそのあたりに位置しているのかよくわかっていない。

 それは二人を比較対象としている水無月も同じだった。


「それで、忍側は何人派遣していただけるのかな?」

「リヒット、今の状況でどれぐらいなら騎士団に貸し出せる?」

「そうっすねえ……三十人が限界じゃないっすかねえ。王城侵入で結構怪我負ったのが多いっすから」

「よし、ならこっちから出せる人数は三十人だ。十分だろ?」

「ええ、もちろん。残りはこちらで調整します」


 緊張感のない会話を三人がしている間、テルソリアとラオべインは着々と奪還戦への準備を進めていく。

 他の騎士たちもまとまった情報をもとに作戦をいくつか出す。


「それじゃあ君たちは人選してきてよ」

「かしこまりました団長様」


 テルソリア、リルレット、カルステアを除いた全員の騎士が会議室から出ていく。

 さきほどまで議論していた作戦候補も一瞬で決まったようだ。


「お前らも戻って連れ出せる奴らに事情話してこい」

「へーい、わかりましたー」


 礼儀の正しい騎士とは違い、忍側はラオべインに対してだるそうにしながら会議室を去って行った。

 その様子をラオべインは咎めることはない。

 その対比はそれぞれをまとめるリーダーの違いからくるものだろう。

 さて、部屋に残ったのは水無月、日下部、コレニス、ラオべイン、リヒット、テルソリア、カルステア、リルレットの八人。

 王城へと侵入するメンバーだ。


「一応僕たちも何人かで一組になって行動したいんだけど、どうする?」

「僕はリルレットと二人で行動します」

「私もその方がいつもと同じでやりやすいかなー」


 少し前に水無月とリヒットの二人を助けに来たコンビ。

 どうやら普段からともに行動しているようだ。


「じゃあ俺らは三人で……」


 行動します、そう水無月が言おうとしたとき。

 隣から日下部が口をはさむ。


「僕はコレニスとの二人で行動するよ」

「え?……」


 まさかの日下部の言葉に、水無月はあっけからんとする。


「それじゃあお頭、珍しく二人で行動してみるっすか」

「たしかに新鮮だな、基本俺たちは単独行動だから」

「そうっすよ~だからちゃんと僕のこと気にかけながら戦ってくださいっすよ」

「それはちょっと約束できねえ」

「ええ~~そこびしっと言ってくれないんすか?」


 放心状態になった水無月を置いて、次々とペアはできていく。

 水無月の考えていた通り別に二人組である必要もなかったのだが、日下部の予想外の発言によって自然と水無月が余ることとなってしまった。

 

「それじゃあ僕と組もうか」

「あっよろしくお願いします」


━━嫌な記憶思い出しちまった。


 小学生のころにあったリズム遊び。

 その中に文字数と同じ人数で集まる遊びがあったのだが、水無月は基本的に余ることになっていた。


「最後に重要なことだけど、無理だと判断したらすぐに逃げてほしい。特にコレニスさんのところの人たちはね」

「あくまで一般市民である俺たちには無理させないってことか」

「そうだね、じゃあそもそも誘う必要ないのではと思うかもしれないけど」

「それはあなたたちを誘った私から説明させていただく。理由は単純で、あなた方三名の実力が我々騎士団と比較しても高いと思ったからだよ」

「そういうことなら俺らはこの作戦を成功させるために全力を尽くすよ。まあ危険だと判断したら逃げるけど」

「ははっ、そういう無理に強がろうとしないところが君…水無月の面白いところだよ」


 騎士が個人の名前を敬称をつけずに呼ぶ理由は一つ。

 同じ戦う仲間として認められたということだ。


「作戦の実行は一週間後、場所と時刻はまた後で伝えるよ」

「りょーかい、頼りにしてるぞ」

「こっちこそ水無月には期待してるよ」


 水無月とテルソリア、互いに笑い合い会議は終わることとなった。

読んでいただきありがとうございます

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作戦って言えるほど何かが決まったわけじゃないんですよね

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