めんどくさい占い師
「お客様、今日はいかがしますか?」
お互いを見て硬直し合った二人。
先に口を開いたのは女性の方だった。
まだバレていないと踏んで、普段通りの営業に戻ろうとしている。
そういうところはやはりポンコツ。
顔も声もばっちりと知られているのになぜバレないと思ったのか。
水無月も女性が占い師であることに気づき、状況を理解しようと頭を回転させる。
━━無理だよね。そうだよね。だって「あ」って言っちゃったからね。……どうしよう。
「占い師の人ですよね?」
「…違います」
「ですよね?」
「違います」
確信を得た目で問い詰める水無月に対し、女性は目をそらして答える。
まだ誤魔化せると思っているのだろうか。
「占い師さんですよね?」
水無月はそんな態度をとる女性を逃そうとしない。
「………はい」
水無月から放たれる威圧に根負けした女性。
目を逸らしたまま小さくうなずく。
「やっぱそうですよね。ここで何してんのかは気になるけど、この前の占い師さんですよね」
人違いではなかったことに嬉しそうにしている。
女性は、その反応に困惑した様子を見せた。
「えっと…なぜにそんな嬉しいそうで?」
「あの日占ってもらったじゃないですか。その時に剣を買った方がいいって言いましたよね」
「はい……」
「あのあと占い師さんが言った通り剣が必要になったんですよ。それでいつか感謝を伝えたいなと思って。働きながら探してたんですよね」
相も変わらず占い師に純粋無垢な目を向ける水無月に、女性は自分が自称であることとこの店で働いていることに罪悪感を感じる。
「本当にあの時はありがとうございました」
「いえ、占い師としてあなたのためになったのであればよかったです」
「それはそれとして」
嫌な予感を察知した女性。
その場から逃げようとするも、唯一の入り口である扉の前には水無月がおり部屋から出ることができない。
諦めて水無月の次の言葉を待つ。
「ここで何してるんですか?」
水無月の目から、純粋無垢な視線が失われた。
ハイライトを失った瞳は女性を恐怖させる。
「俺占い師さんのこと結構信頼してたんですけどね。なんですかその恰好」
胸元が大きく開いた服。
残念ながら小さい胸のせいで色気はない。
すらりと伸びる健康的な脚も、こどもっぽい靴下が見えるせいでエロさが全くない。
ほかにも男性を魅了しようとする努力は垣間見えるが、そのどれもが女性から溢れるこどものような雰囲気に邪魔をされている。
「身の丈にあった服着たらどうですか?」
「うるさい!うるさい!余計なお世話だよ」
「いやでもそれ全然似合ってねえし」
「君急に来るね。何?恨みでもあるの?」
ぶかぶかの胸元を抑え、恥ずかしそうにしながら水無月に反抗しようとする。
水無月は別に胸元に視線を向けていたわけではないのだが、指摘されて真っ先に胸元に手がいくということは自分でも理解しているのだろう。
それに気づき、女性は自分自身に虚しさを感じる。
━━そういやこの子胸のことなんて一言も…あっ。
必至な女性の姿を、水無月は見苦そうに見る。
「まあ、まだ成長するんじゃないんすか?そう必死にならなくても…」
水無月が気遣いをするも、女性は自分へのみじめさを増加させるだけだ。
何の心の支えにもならない。
「それで!ここに何しに来たんですか!」
わかりやすく話を変えた女性に、水無月も黙ってついていく。
「ちょっと時間をつぶそうと適当に入っただけで目的とかはないんで、一応時間になるまではここにいようかと…」
「ふっふっふ、君もしやこういうお店は初めてだね?女性経験もないでしょ」
「俺彼女いますけど」
「えっ」
水無月が照れて言い訳をしていると思っていた女性は、予想外の返答に動揺する。
━━嘘っ!、私だってまだ経験ないのに。私より年下のもてなさそうな男の子にまけてるっていうの⁉
「なんか失礼なこと考えてません?一応言っとくと彼女とはそこそこ関係築いてますよ」
「はっ⁉」
彼女がいたのも水無月が中学生だった時、大したことはしていない。
だが、少し見栄を張った水無月の発言は女性に大きくダメージを与えた。
膝から崩れ落ち両手を床についている。
「まあそう凹まないでくださいよ。まだチャンスはありますって」
「本当にそう思う?」
水無月は思う。
見てくれは悪くないと。
むしろ誰からでも好かれそうなかわいさがある。
それでも付き合いどころか出会いもないとは、何か女性自身に原因があるのだろう。
まあ自称占い師でそういうお店で働いている女性などどうかんがえても地雷なので当たり前といえば当たり前かもしれないが。
「相談のりますよ」
「いいの?」
「あと十分の時間内で解決できそうなことだけなら」
パァーっと表情を明るくした女性に手を差し伸べる。
女性はその手を離さまいとがっしりと力強く握った。
その恋愛への執念が直に伝わってきたことに、水無月は少し女性への心の距離をとる。
「俺水無月って言います」
「よろしくね水無月君」
「よろしくお願いします」
「じゃあまずは………」
ーーーーーーーーーーー
「十分経ったので俺は依頼をこなしに……何してんすか、その手放してください」
「いや!まだ聞きたいことはたくさんあるの!全部聞き終わるまでは絶対に返さない!」
「さっきも言っただろ!そういうところが駄目なんだって」
「別にもう水無月君にはどう思われたっていいわ」
「何開き直ってんだよ。もっとプライド持てや!」
「プライドなんて男性とお付き合いできるのならいくらでも捨ててやるわ。だから、早く私の相談の続きを…」
「駄目だっつってんだろ。俺はいまから働きに行かないといけないんだよ」
「そんなこと言わないでよ!」
「じゃあここに来い、ここで俺が働いてるから依頼さえだしてくれればいつだって話は聞いてやるから。な?それでいいだろ?だから早くその手を放してくれ」
引こうとしない女性に、水無月は口調が悪くなっていく。
しかし、女性もそれだけでは諦めない。
水無月の腕にがしっとしがみついた。
そんな女性の様子に根負けした水無月は、女性に一枚の紙を渡す。
女性は水無月の腕を放さずに、片手で紙を受け取り目を通す。
「お金かかるじゃない!」
「当たり前だろ。こっちだって商売としてやってんだから。というかあんた俺が払う料金に見合う働きこの時間してねえだろ」
「それは…そうだけど」
「それでも払ってやるんだから文句言わずに今日はこれ受け取って俺を働きに行かせてくれよ」
「もおおおお、わかったわよ。依頼だしたらいつでも話聞いてくれるのね?」
「ああそうだよ」
━━まあ俺がその依頼担当するかどうかはわかんねえけど。
「じゃあな」
女性の返事を待たず、急い店を出ていく。
すでに日は昇っており、街は活気づき始めている。
道行く人々の上空を飛んでいき、最初の依頼人の場所へと向かった。
ーーーーーーーーーーー
「やっと終わったー」
日は地平線へと沈み始め、街を橙色に染め始めた。
夕日のぬくもりを全身で浴びながら大きな荷物をもち帰路につく。
「回収できてよかったなあ。てかすっかり忘れてたし」
大きな荷物の中身を確認する。
中には普通のほうきとは少し変わった形をしているほうきがある。
少し前にアルマのために買った空飛ぶほうきだ。
戦闘の邪魔になるため、近くの店に置いたのだが、その近くを通った時に店の店主から言われるその時まですっかりと水無月の記憶から忘れ去られていた。
「楽しみににしといてくれって送っとくか」
左手首につけた腕時計から、メールを送信する。
これはアルマからもらったものだ。
水無月、アルマ、日下部、コレニス、フォクルの五人で同じものを使っており、メールのやり取りもできるようにしている。
「アルマからは口にしたことが送信されるって言われたが、思ってることも送信してくれて便利なんだよなあ。二回タップしないといけないっていうのはちょっと面倒だけど」
アルマの反応を楽しみにしながら、水無月は速度を上げる。
「なあ、さっきから気になってはいたんだがよ」
屋根の上。
シスター服を着たよく似た双子に目を向ける。
「何してんの?」
速度を上げた水無月に平然とついてくる双子。
五分前からついてきているのだが、何も話さずについてきたのでとりあえず水無月も話しかけずに黙々と家へと向かっていた。
「私たちがいるのですからなんとなくわかりませんか?」
「あなたであればわからないのも仕方ないかもしれませんが」
いつも通りに毒を吐いてくる二人がいる理由になんとなく察しをつける。
「コネクターがいるんですね。これから追加で労働ですね。わかりました。はい。いや面倒とかおもってねえよ。ほんとに。ただ俺別にいらないんじゃねって思ってるだけで…」
だらだらと愚痴をこぼす。
が、双子は水無月の言葉を遮り、強制的に時間外騒動へともっていく。
「長々とうるさいですね」
「さっさと片付けますよ」
「はい」
双子の背を見失わないように追っていく。
さきほどまで目の前に見えた家の屋根から遠ざかっていくことにため息をつくが、自分の頬を叩き気合をいれる。
「コネクターかあ、久しぶりだな」
いや、ただ眠気を覚ましただけのようだ。
声はのんびりとしていた。
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占い師は金欠が理由で働いています




