女の子が震えてるのってアレですよね
背後から聞こえた悲鳴に二人は振り向く。
さっきまで往来していた人々の歩みが止まり、ひとりの女性に視線が向けられているのが確認できた。
その中心にいる女性は腕と脚に針を貫通させ悶え苦しんでいる。
それを見たアルマが小さく悲鳴を上げ崩れ落ちそうになるが、日下部がそれを支える。
「至急救急隊を」
近くにいた騎士が別の騎士に指示を出した後、女性の治療を始める。
「聞こえますか。落ち着いてください。暴れると傷口が開いてしまいます」
騎士は冷静に対応をするが女性はそれどころではない。
腕と足を貫かれているのだ、その痛みを我慢できるはずがなかろう。
「うわぁぁぁぁああああ」
別のところから、今度は男性の悲鳴が上がる。
悲鳴を上げた男に怪我はない。
だが、その男性の周囲、怪我は見当たらないが数人が眠ったように倒れているのが確認できた。
「アルマちゃん離れないでね」
「はい」
日下部の声にアルマが怯えた声で応じ、震える手で日下部の服を掴む。
状況が掴めず、下手に動けない日下部は一旦屋内に入り、事件を引き起こしている原因を目だけで探す。
━━倒れている男性の周りに花なんてあったか?
倒れている人たちの下に咲いている花。
街の風景など気にしないと言う様に咲く花に日下部は違和感を抱く。
「アルマちゃん、あの花何かわかる?」
「えっ?」
日下部は指を指す方にある花にアルマが目を向けて、首を横に振る。
「ありがとう」
━━でも、あの花が原因だと思うんだけどなあ。針と花か…
昔の記憶を日下部が思い出していた時、男女二人の声が一帯を包み込む。
そして、その声は日下部に確信を与えた。
「はーいちゅうもーく!」
一つは明るい女の子の声。
その声に街の人々は振り向くが、日下部はアルマの目を自分の手で隠し耳だけで状況を把握しようとする。
この状況で注目しろと言われて注目するのは危険でしかない。
「皆様はじめまして。お集まりいただきありがたく思います」
二つ目は男の声。
その男の声が響いた後、日下部視界内にいた人々が取り憑かれた様に声のする方へと歩き出す。
「急いでいますので、自己紹介は省かせていただきます」
また男の声が響く。
だが、次に起きた変化は、日下部の予想を超えたものだった。
道を埋め尽くす鮮やかな紫の花。
その花を踏み締めた人々が次々に倒れていく。
針が刺さり、悶えていた女性も、その治療にあたっていた騎士も、花に足を踏み込んだものは誰一人残らず倒れていく。
日下部やアルマのように、男に目を合わさず、屋内にいた者たちはいるが数は少ない。
「帰りますよ」
「全員じゃないけどいいの?」
のんびりと話す男女二人。
「ええ、心配はいりません。策はもう用意してますから」
「ーッ⁉︎」
日下部は目を見開く。
倒れた人々が地面へと沈んでいくのだ。
その光景を何もできずに眺めていると、沈む人々と入れ替わる様に。
魔獣が姿を表した。
「この子達が後処理をしてくれますから」
「変に勘がいいのも損だね」
二人の声は遠のいていく。
いや、違う。二人も地面に沈んでいったのだ。
声は下に下にと消えていったのだから。
「ウオォォォおおおおおおおおおおおおお」
一帯に響き渡る魔獣たちの咆哮。
その数は日下部の目で認識できるだけでも三十は超える。
「アルマちゃん。動ける?」
━━だめ…か…
恐怖で震えるアルマに日下部の声は聞こえないようだ。
「絶対に僕から離れないでね」
━━救急隊といえど戦闘の経験はあるはず…とりあえずそれまでは持ち堪えないと。
まだ到着していない騎士団の救急隊が来るまで、日下部の持久戦が始まる。
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全然書き方成長しないなあ




