表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
46/83

親方!空から男が!

 水無月の頭上から落ちてくる人物。

 話し方や声の声質、見た目からしてリヒットだろう。

 しかしなぜ上空から落ちて生きているのか。

 とりあえず考えながら水無月は一歩下がる。

 そこに大きな音を立ててリヒットが落ちてきた。


「大丈夫かー」


 砂埃が舞い、姿は見えないがそこにいるであろうリヒットに声をかける。

 

「もうちょっと心配してくれてもいいんじゃないっすかね」


 あの高さから落ちれば普通命に関わるのだが、忍に伝わる技術だろうか、平然と立ち上がる影が見える。


「気をつけろよ。じゃあな」


 二人と待ち合わせしている場所へと駆け出そうとする。

 が、リヒットがそれを許さない。

 水無月の足に飛びつき自ら重りになる。


「ちょっと待ってくださいっす。事情だけでも聞いてくださいっす」


 リヒットの言葉に返事をせずそのまま引きずっていく。

 心底邪魔そうな顔をリヒットに見せるがリヒットもめげることはない。


「離せよ」

「えっ?話せよ?」

「ちげえよ。俺の足から離れろつってんだよ」

「じゃあ話聞いてくださいっす」

「わかったよ。ただし移動しながらな」

「了解っす」


 水無月の足から離れ立ち上がる。

 それを確認した水無月は走るのを再開して待ち合わせ場所に向かう。


「ちょっと⁉︎」

「こっちも急いでんだよ」


 先に走っていた水無月を追いかける。

 さすが暗躍部隊の一人。その身体能力は高くすぐに水無月に追いつく。


「んで、話ってなんだ」

「今この国にいる忍全員で王城に忍び込んだんすよ」


 リヒットは身振り手振りを加えながら話し始める。


「なんでだ?新国王の発表はだいぶ前にされてただろ。もう王城に用はないんじゃねえのか」


 水無月が王城に潜入した数ヶ月後、新聞記事で新国王が挨拶をしていた写真が貼られていた。

 五十近くのおじさんだったはずだ。

 

「それがっすね、あの新聞に載っていた国王が死体で発見されたんすよ」

「は?そんな情報聞いたことねえぞ」

「まだ忍内でしか情報が回ってないっすからね」

「じゃあなんだ。また新しい国王の確認をするために王城に忍び込んだのか?」

「ちょっと違うっすね。お頭の予想ではあの国王は国民にその存在を証明するためだけに用意された人物であって本当の国王は別にいるって考えてるっぽいっす」

「なんでそんなことするんだよ」

「それがわかんないからまた潜入したんすよ」


 そこまでの話は水無月にも理解できた。

 しかし、そうなると一つ気になることがある。

 王城に忍び込んでいたはずのリヒットはなぜ上空から落ちてきたのか。


「なぜ僕が上空から落ちてきたか気になるっすよね」


 水無月は黙って頷く。

 まだ待ち合わせ場所まで距離があるので話すのに体力を使いたくないようだ。

 そこまで時間を守ろうとする必要もないと思うが、そこら辺はなぜかしっかりとしている。


「見つけたんすよ。本当の新国王を」


 水無月は黙って続きを待つ。

 

「てことでお頭にそのことを伝えに帰ろうとしたんすよ。そしたらっすね、気づいたら上空にいたんすよね」

「魔法か?」

「魔法じゃないっすかね。あんなことできるのはそれ以外に考えられないっすから」


 侵入者がいたから城外に出した。

 これが、国王であれ誰であれ魔法を使って行われたことだったとしてもおかしくはない。

 おかしいのはなぜ国王はそこまで人に姿を見せようとしないのかということ。


「これからどうするんだ」

「他の仲間もまだ潜入してるはずっすからまた王城に潜入してくるっす」

「ラオベインは?」

「わかんないっす。誰かが伝えてくれてたらいいんすけどね」

「リヒットが伝えたらいいじゃねえか」

「その時間が惜しいっす。それにお頭が動くかもわからないんで無駄足になる可能性を捨てたいんすよ」


 そこまで話して水無月は待ち合わせ場所に着いた。

 二人の姿はまだそこにはない。

 

「それじゃあな」

「手伝ってくれてもいいんすよ?」

「俺が行っても対して力になんねえよ」


 茶化した様子でリヒットに返す。

 その時。

 日下部とアルマが向かった方向から一人の男が叫びながら走ってくるのが見えた。

 水無月とリヒットがその男に注目する。

 いや、その二人だけではない。

 周辺にいるすべての人が男を見る。


「騎士団のやつは、騎士団のやつはいないのか!」


 男は助けを求めてるようだ。

 全速力で走ってきたのだろう。

 呼吸が乱れており、声も息が多く混ざっている。

 その男にリヒットが近づく。


「どうしたんすか」

「この先で、大勢の人が、倒れてて、騎士団のやつもいて…」

「落ち着いてください。まずは呼吸を整えて」


 リヒットの言葉を聞き男が深呼吸をする。

 ある程度落ち着きまた話し始めた。


「倒れた人の中に血を流してた奴がいたんだよ」

「騎士団の人はどうしたんすか」

「そいつの手当をしようとしたら急に倒れたんだよ」

「倒れていた人の数は?」

「わかんねえ。とりあえず多くのやつが倒れてたんだよ。その中に血を流したやつも多くて、そんで怖くなって、俺逃げてきて」

「ただ逃げるだけなのと助けを呼びながら逃げてきたのでは全然違うっす。それは立派なことっすよ」

「怪しいやつは見たか?」

「黄色い髪の女がいたのは見たんだ」


 黄色い髪。

 その言葉を聞き、水無月は一人の人物を思い出す。

 

「他には?」

「他にも人はいたが目立ったやつはその女だけだ」

「リヒット、俺も王城の方に行く。手伝え」

「いいっすよ」


 水無月がアルマのために買ったほうきを店に置く。

 すでに周囲にいた人々は事件が起きた場所から離れようと逆の方向へ走っている。

 そして水無月とリヒットが王城に向かおうとしたその時。

 背後から声が聞こえた。


「テメエらどこに行こうッとしてんだよッ」


 その逃げ惑う人々の行手。

 その先には右手で槍を持った緑の瞳をした男がいた。

 民衆が逃げるのを阻止するように立っており、民衆もその男の放つ威圧に恐れ走る足を止める。

 その男の左手には黒いモヤの入った瓶が握られている。

 水無月は男を見て目を見開く。


「テメエらには働いてもらわねえとなんねえんだよッ」

 

 そう言って手に持った瓶を床に叩きつける。

 瓶が割れた瞬間、モヤが一斉に民衆を襲う。


「まずいっす。一旦離れるっすよ」


 リヒットが水無月を抱えて屋根へと飛び移る。

 その事実に驚かされるのだが、今はそれどころではない。

 目の前に水無月の仇がいるのだ。

 水無月は男を一心不乱に睨んでいる。


「落ち着いてくださいっす」

「だめなんだよ。あいつをまた逃すのは絶対にだめなんだよ‼︎」


 黒いモヤが消えた。

 いや、吸い込まれていったと言うべきだろう。

 その場にいた民衆の約七割の体にモヤが入っていくのが見えた。


「思う存分暴れろよッ」


 槍使いの男の言葉が開始の合図だったかのように、モヤを取り込んだ民衆が近くにいる人を殴りはじめる。

 殴るだけではない。蹴ったり暴言を吐いたりもしている。

 一瞬の間に作られた加害者と被害者の関係。

 被害者の方は何が起こったのか理解できずに暴力を振られ悲鳴をあげている。

 加害者の方も自分の意思の通りに動かない体に苦痛の声をあげている。

 その場は一瞬にして阿鼻叫喚の声に包まれた。

 

「なんだよ足んねえッのかよ」


 槍使いの男がイラついた声を出す。

 だが、その声は民衆の絶叫によってかき消された。


「まずいっす。騎士団が到着するまで時間を稼ぐっすよ」

「俺はあいつを…」

「だめっす。今目の前で助けることのできる命を優先するっす」

 

 その言葉に水無月が冷静になる。

 

「ああ…そうだな…」


 落ち着いた水無月をリヒットは抱えるのをやめ、屋根の上に下ろす。


「俺ッは行く場所があるからッよ。ここ頼むぞ」


 槍使いの男はいつのまにか隣にいた深いフードを被った人物にこの場を任せ、王城の方へと向かった。

 その様子を水無月は目で追うが、先に目の前の問題を解決するため屋根から飛び降りる。


━━救える命の数を見ろ。価値を考えるな。


 自分に言い聞かせ、目の前の人々を助けることに集中する。

 

「行くっすよ」


 水無月とリヒット。

 二人で暴れる民衆の中へと突っ込む。

 ここに水無月とリヒットコンビの戦いの火蓋が切られた。


 

読んでいただきありがとうございます

感想あればお聞かせください

下にある☆もお願いします


タイトルパクリじゃないっすよ汗


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ