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ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
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情けない主人公と自称占い師

「気を取り直して、行こっか。アルマちゃん」

「はい。おにいちゃんの気にいるもの一緒に探しましょうね」

「そんじゃあまた後でな」


 アルマと日下部は西に。すなわち王城のある方へ。

 水無月は東へに。すなわち二人とは逆の方へ。

 それぞれ進んでいく。

 アルマはすでに水無月が気に入りそうなものをこの店に来るときに見つけていたらしい。

 水無月は二人に会う可能性を無くすため逆の方へ進むことにした。


「いろいろあんなあ」


 街を見渡す。

 露店や店舗を構えているものなのだ売り方がさまざまだ。

 売っているものも食品やアクセサリーバッグや服など多種多様なものが集まっている。

 約束した時間は一時間後だったが見て悩んでいるとあっという間に過ぎ去ってしまいそうだ。


「流石に食品をプレゼントにするのはなあ」


 アルマの好みを知らないので好き嫌いがはっきりとする食品は避けるようにする。

 そうなると服とかになるのだが、先ほどたくさん服を買ったばかりなので、また服となるのはよくないだろう。


「アクセサリーとかかあ?でもアルマはこういうの好まなさそうなんだよなあ」


 店先に並んでいるネックレスやイアリングなどを見る。

 小さく宝石が付いていて綺麗だがアルマはこういうのに興味があるのかがわからない。

 水無月はどうせ買うのなら喜んで欲しいので賭けに出るようなことはしたくない。


「そういや俺女の子にプレゼントとかしたことねえな」


 女子にプレゼントの一つもあげたことのない男に今回のことはいささかハードルが高いだろう。

 彼女がいるというのに情けない。


「お兄さん」


 水無月はいろいろな店を眺めながらグラべオンの街をゆっくりと歩いていく。


「ああいうストラップみたいなのはかわいいとは思うけど…もっといいの買ってやりたいなあ」


 いつの日だったかアルマにあげたストラップを思い出す。

 たしか、今でも大事に持っていたはずだ。


「お兄さん。そこのお兄さん」


 怪しい服装をした女が水無月に話しかけている。

 それに気付き水無月が自分を指差して女に確認を取る。

 その動きを見た女は満足そうな顔をして頷いて手招きしている。

 実際のところ、適当に通りすがる人に対して声を出し、引っかかった人をこうして呼んでまるで運命に導かれた感を出すよくある手口なのだが、水無月はそれに気づかない。

 アホではなかろうか。


「どうだい?占いやっていかないかい?」

「占いですか?本当に当たるんですか〜?」


 水無月は占い師に対し疑惑の目を向けている。


「わしゃ一度も占いを外したことがないんじゃよ」


 どう見ても見た目は二十代なのだが、なぜか口調は老けている。

 

「まあまあ騙されたと思って」

「一回だけですよ」


 占い師は横にあるテントの中に水無月を誘導する。

 中は外の日の光を全く取り込んでいない。

 小さい照明一つはこの部屋を照らしている。

 占い師が中へと入り、入口を閉じる。

 すると、さっきまで聞こえてた外の音が聞こえなくなり静寂が訪れる。


「…どうじゃ、すごいじゃろ」

「こんなことできるんですね」


 本当に聞こえないのか水無月は耳を澄ますが耳は何も拾ってこない。


「さて、お主わしに何を占って欲しい」


 ひどくゆっくりとしゃがれた声で言う占い師。

 見た目と話し方にギャップがあり、不思議な感覚になる。


「そうですね…今女の子にあげるプレゼント探してんですけど何がいいかわからないんですよね。そこら辺占ってくれることってできるんですか?」

「容易いことじゃよ」


 占い師は目の前に置いた水晶玉に手をかざしゆらゆらと手を動かす。

 だが、それだけでは足りないのか水無月に質問をする。


「その子はお主より小さいのかのう」

「小さいですね」

「髪の色はなんじゃ」

「水色です」

「お主のことをおにいちゃんと呼び慕っているのではないか?」

「はい!そうです。すごいですね。そんなこともわかるんですね」


 水無月からしてみればとてもすごいことなのだが、占い師にとってはそうでもない。

 実際は…


━━自分よりも小さい子かぁ。とりあえず髪の色をワンクッション挟むとして、ここらでいっちょ占い師っぽいことしなくちゃだなぁ。兄妹なのかな?そしたらおにいちゃんとか言われてそうだなぁ。


 と、こんな感じでただ気まぐれに聞いた質問がたまたま当たっただけである。

 そんなことも知らない水無月はこの占い師に対する疑惑の目をすでに宇宙の彼方へと捨て去り、新しく純粋な目を取り付けた。

 その目は人を疑うことを知らない目をしている。


「その子は空を飛ぶことが好きじゃな」

「たしかに、座布団に乗せた時はとても楽しそうにしていました」


━━座布団ってことは旭昇天からってことだよね。それに乗せたって言ってたからその女の子は空飛ぶ道具持ってないんだろうなぁ。となるとプレゼントするなら…


「ほうきを買ってあげるといいじゃろう」

「床をはくやつですか?」

「空飛ぶほうきじゃよ。近くに売ってあるはずじゃよ」

「空飛ぶほうきですか…」


━━あれ?微妙だったかな。喜んでもらえるとは思えるんだけど、


「たしかにいいですね」


━━よかったあ。そういう反応は自称占い師のわたしには心臓縮むかと思っちゃうからやめて欲しいよ。そんなこと口に出して言えないけど。


 水無月から見れば水晶玉に手をかざしながら質問をしただけで占い結果を出したように見えているが、実際はこんなものだ。

 ちょっとした情報から相手のことを予想して当てる。推理に近いことをやっているだけだ。

 この占い師は少し適当なところがあるが一流となればその精度はほとんど外すことがないはずだ。

 

「ついでにもう一ついいですか?」

「別料金になるがよいか?」

「全然大丈夫です」

「よかろう。何を占って欲しい」

「今俺に必要なものを占ってください」

「うむ」


 占い師は同じように水晶玉に手をかざしゆらゆらと動かしている。

 だが、今度は水無月に質問することはない。

 さっきよりも時間をかけて水晶玉をじっくり見つめている。


━━必要なものていってもなぁ…この子武器何も持ってなさそうだなぁ。ちょっと危機感なさすぎじゃない?いつどこで誰に襲われるかなんてわからないのに。


「剣を買うとよい」

「なるほど…でも俺剣もう持ってるんですよね」

「えっ?いやっ、ほらっ、今は持っておらんじゃろ?」


 素を出してしまうポンコツ占い師。

 しかし、そのポンコツ具合も水無月は気にしていない。

 ほんもののアホではなかろうか。

 

「ちなみにどんな剣がいいとかありますか?」

「店で二番目にいいものを買うとよいじゃろう」


━━一番じゃなくて二番って言うのが占い師っぽい。さすがわたし。


「というかなんで剣がいるんですか?」

「ちょ、ちょっと待っておれ。今占ってあげよう」


 占い師なのだからもう少し動揺を隠せないものだろうか。


━━やばいなぁ。そこ聞かれると思ってなかったなぁ。どうしよう。…適当に答えちゃうか。


「今日、お主に厄災が降りかかるじゃろう。それを防ぐために剣が必要なのじゃ」

「厄災って…」

「そこまではわしにもわからん。だがよくないことが起きるのはたしかじゃ」

「そうですか…占いありがとうございます。これお礼です」


 水無月はそう言ってテントを出ていった。


「あっ、ちょっと待っ」


 占い師は水無月を追いかけるのをやめる。

 その目線の先には水無月が置いたお礼のお金が置いてある。


「めっちゃもらえたんだけど。ラッキー」


     ーーーーーーーーーーー


「すんません。ここにあるほうきって空飛ぶやつですか?」

「そうだよ。何か希望はあるかい。探してやるが」

「できれば乗りやすいものがいいんですけど」

「それだったらこの辺のやつだな」


 体格のいい店主が水無月の注文に合う品の前に誘導する。

 

「これ値段の違いって何になるんですかね」

「素材の良さとかだな。普通のやつは五年持てばいい方だが、ここから上のやつは十年は持つ」

「なるほど…ではこれお願いします」

「一番高いやつとは…兄ちゃんいいのかい?」

「プレゼントするやつなんでいいものあげたいなって」

「綺麗にラッピングしといてやるよ」


 店主がラッピングをするためほうきを持っていく。

 その間に水無月は会計を済ませておいた。


「ほらよ兄ちゃん。落とさないように気をつけろよ」


 かなりかわいらしいラッピングだ。

 動物の絵がプリントされている。


「プレゼントはこれでいいが…どうすっかなあ。剣買おっかなあ」


 さっきの占い師の言葉をどうするか考える。

 財布的には余裕があるのだが、家に帰るとすでに一本あることを考えるともったいなく思える。


「最悪二刀流みたいにすればいいか」


 水無月は武器屋へと足を進める。


「すみませーん。この店で二番目にいい剣ください」

「えーっと。はい。わかりました」


 店についてそうそう水無月は店員にそう聞いたのだが、店員は困った様子で店内から剣を持ってくる。


「すみません。明確に二番目っていうのはなくてですね。店の中でも飛び抜けていいやつを三本持ってきたのでこの中から選んでいただければ」

「値段はどれも一緒なんですか?」

「いえ、こちらの剣が一番高いです。続いてこちらが、そしてこちらといった順です」

「その二番目のやつをください」

「かしこまりました」


 刀身が少し青みがかったものを選ぶ。

 重さも確認したが愛用している剣とほとんど変わらないので使い勝手は心配することはなさそうだ。


「ありがとうございました」


 刀身を鞘に納め腰につける。

 それなりに様になるのは学校時代にしっかりと鍛えていたからだろう。


「やべえ。もう少しで一時間過ぎちまう」


 急いで待ち合わせの店に戻る。

 かなり遠くまでぶらぶらと歩いて来たので走っても間に合うかどうか。


「ぁぁぁああ危ないっす。どいてくださいっす」


 水無月の頭上から黒服に身を包んだ男が落ちてきた。

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