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ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
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魚とドラゴン

「あの三人仲良さそうですね」

「本当なら私も混ざりたいんだけどなあ」

「あんなことしておいてよく言えますね」

「仕方ないじゃん。任務果たそうと全力尽くしてただけだもん」

「ええ、それはわかってますよ。あなたのおかげで無事目的を果たせたのですから」

「褒めてくれてありがとっ」

「私たちもそろそろ行くとしますか」

「そうだね。あんまり時間かけても怒られちゃうし」


 水無月、アルマ、日下部の背を見ていた男女二人が休憩していたベンチから立ち上がる。

 女の方はめんどくさそうに欠伸をしながら、男の方は崩れた服の裾を直しながら、王城へと向かっていった。


      ーーーーーーーーーーー


「腹減った」

「どこか食べに入りますか?」

「もうお昼だしそれもいいかもね」


 ということで、水無月が適当に美味しそうだなと思った店に入ることにした。

 店内はさほど混んでいる様子はない。

 昼ごはんを食べるには少し早い時間だからだろう。

 

「三名大丈夫ですか?」

「はい大丈夫です。あちらの席をどうぞ」

「ありがとうございます」


 店員の指定した席に座りメニュー表を開く。

 日下部はすぐに決めたようだが、アルマと水無月の二人はメニューと睨めっこしている。


「どれも美味しそうですね」

「まあアルマの料理には敵わねえよ」

「おにいちゃん」

「アルマ」

「おにいちゃんっ」

「アルマっ」


 変な芝居をし始めた二人。

 周囲に薔薇を咲かすような雰囲気を醸し出し、熱く見つめあってる。

 演技がこれ以上白熱する前に日下部が二人の間に入る。


「早く決めてくれないかな」

「俺このドラゴンフライってやつで」

「私は無難にオムライスで」


 随分とあっさりと演技をやめメニューを決める。

 最初からそうしてくれればいいのにと日下部は思うが口には出さない。


「ご注文お決まりですか?」


 出したかったが店員がきてしまったからだ。


「俺はこのドラゴンフライってやつお願いします」

「僕は海鮮丼お願いします」

「私はオムライスで」

「かしこまりました」


 店員は紙に三人の注文をメモして厨房へと入っていった。

 

「なあアルマ」

「何ですかおにいちゃん」

「二人で互いにプレゼント交換しないか?」

「どうしたんですか急に」


 水無月に対し疑いの目を向けるがその声は嬉しそうだ。


「そうでもしないと買いたいもんが見つからなくてな。アルマもいろいろ買いたいって言ってた割には服しか買ってないし」

「それいいですね。私おにいちゃんに何か買ってあげたいです」

「俺もアルマにはいつも世話になってるからな」


 本当の兄妹のように見える二人。

 とても楽しそうに話している。

 この場にまるで日下部がいないように話しているのが少し日下部を傷つけているわけだが。

 それに二人は気づかない。


「どうせならお互い秘密にして買うか」

「どういうことですか?」

「相手が好きそうなもの、欲しそうなものを予想して買うってこと。それだったら自分の財布と相談するだけで済むからいいだろ?」

「それいいですね。楽しそうです」

「それじゃあ僕がアルマちゃんに同行するよ」

「頼むぜ日下部」

「待ち合わせはどうしますか?」

「一時間後にまたこの店の前で集合でいいんじゃないかな」

「じゃあそれでいこう」


 昼食後の話がまとまる。


「お待ちどうさまです」


 店員が三人の前にそれぞれの料理を置いていく。

 アルマのオムライスはかわいくケチャップで絵が描かれている。

 日下部と水無月の料理は…


「何で動いてるんだろう」

「これドラゴンの翼部分じゃね」


 日下部の頼んだ海鮮丼はピチピチと魚が跳ねている。

 一方水無月のドラゴンフライ。

 こちらはドラゴンの翼の一部を丁寧に鱗を取ってそのまま揚げたものだ。

 めんどくさくなったのか鱗が少し残っている。

 それにしてもドラゴンフライというネーミングはなかなかやるものだ。


「何がドラゴンフライだよ。やかましいわっ」

「ねえ水無月。この魚喋るんだけど」

「え?」


 日下部がピチピチと跳ねる魚を箸で摘もうとする。

 すると…


「ヤメテッ、タベナイデッ」


 ほんとに喋った。

 かなりはっきりと喋っている。

 だが、その事実を受け入れられず水無月は近くにいた店員に話を聞く。


「あの、すみません。この魚喋るんですけど」

「えーっとですね…」


 店員はどう説明すればいいのか戸惑っているようだ。


「その魚はですね…そういう魚なんですよ」


 それを言われてしまってはもうどうしようもない。


「そういう鳴き声だと思っていただければ…」

「そう…ですか」


 店員がそそくさとその場から離れていく。

 その話を聞いた水無月と日下部は表情を曇らせている。


「私のオムライス食べますか?」


 そんな二人を見てアルマは気を使う。

 が、男二人は覚悟を決め自分の注文したものを食べることを決意する。

 まずは水無月。

 両手で翼の両端を持ちかぶりつく。

 すると、サクサクとした音と弾力のある身が水無月を聴覚と触覚で攻めてくる。

 サクサクとした音は食べるリズムを作りやめ時がわからなくなる。

 弾力のある身はかみごたえ抜群で、どんどん食らいつきたくなっていく。

 ドラゴンフライは見た目はともかく当たりのようだ。

 問題は日下部。

 ピチピチと跳ねる魚を箸で摘む。

 ヤメテッ、タベナイデッと鳴きながら日下部の口の中へと入っていく。

 その声は口の中に入っても水無月とアルマの耳に入ってくる。

 大きさ的に飲み込むことはできないので、日下部は一回二回と口を動かす。


「どうだ日下部」


 日下部はゴクッと喉を鳴らす。

 なんとか喉に通すことはできたようだ。


「おいしいよ。すっごくおいしい。でもで、おいしいんだけどね…」

「どうしたんだ。おいしいんだけどどうしたんだ」


 水無月が前のめりになって日下部の感想を待つ。


「すごい罪悪感に見舞われるんだ」


 それはそうだろう。助けてと喋っている生き物を食べたのだ。

 口の中に入ってもずっと喋り続ける魚を。

 それがどうすればよかったと言えるのだろうか。

 日下部はとてもつらそうな顔をしている。

 感覚的には自分が巨人になり人泣き叫び人間を食べたのとそう変わらない。

 そんな経験を普通のお昼時にしたのだ。

 表情が曇るのも仕方ない。


「僕、つらいよ」


 日下部の言葉が水無月とアルマには深く刺さる。

 本人にしかわからないつらさ。

 それがひしひしと胸に伝わってくる。

 何かを口にしようと思っても言葉が出ない。

 一番つらいのは日下部だから。

 経験したのは日下部だから。

 二人には何も言うことができない。

読んでいただきありがとうございます

感想あればお聞かせください

下にある☆もお願いします


よく考えたら本当の兄妹が仲良くないこともありますよね


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