青いものって食欲湧かない
窓から差す光が水無月にほのかに温もりを届けてくれる。
そのおかげで水無月は今朝気持ちよく起きることができた。
「洗面所とトイレこれどこにあるんだ?」
地図と睨めっこをする水無月。
どうやらトイレや洗面所、風呂などは宿に泊まっている客と共同で使うことになっているらしい。
朝のトイレを済ますために地図と睨めっこをしていたわけだが、複雑すぎてよくわからない。
水無月が地図を読むのが苦手というのもあるかもしれないが。
「とりあえず外出てみればいいか」
そう思い外へと出る。
窓から溢れる冷気を感じる。
この世界に季節があるかどうかは知らないが、ニホンの冬と寒さはそう変わらない。
「こっちだったよな、確か」
自信はないが多分こっちだろうという方に歩いていく。
頭の中に地図を思い出す。
「きゃっ」
思い出しながら歩いていたせいだろう、誰かとぶつかった。
水無月がよろけなかったことから相手は水無月よりも小さく、声からして女の子だろう。
「すみません。注意不足でした。俺が悪かったです。申し訳ありません」
相手の反応を待たずにたたみかけて謝罪を重ねていく水無月。
こういう時はとりあえず謝るという情けない精神が水無月の口を高速で動かせる。
謝ること自体は悪いことではないのだが、その様子はあまりにも情けない。
もう少しはきはきと話せないものだろうか。
「こちらこそごめんなさい」
謝った後水無月がぶつかった相手を確認する。どうやらアルマだったようだ。
だからといって水無月の対応は変わらないが。
そこで、アルマの話し方が少し柔らかくなったことの気付く。
朝が早く仕事モードになっていないからだろうと水無月は勝手に納得する。
「おはよう。アルマちゃん」
「おはようございます水無様。その…アルマちゃんと言うのはやめてもらえないでしょうか。少し恥ずかしいです」
もこもことしたパジャマとまだ眠たそうな顔が水無月にアルマをちゃんづけすることを決意させる。
実際にアルマのパジャマ姿はとてもかわいらしい。
「ごめんね。アルマちゃん」
「うー、意地悪ですね、水無月様」
頬をぷくーと膨らませている。
めっちゃかわいい。
「こんな姿を見せてしまい申し訳ありません」
「別にいいんだよ。かわいかったし」
「そう言っていただけるとありがたいです。朝食はどうしますか?今からすぐに作っていただけるよう伝えに行くこともできますが」
「じゃあ、そうしてもらおうかな」
「かしこまりました。また後ほどお部屋にお伺いします」
そう言ってアルマは一階に向かっていった。
パジャマを褒められたからか少し嬉しそうな足取りだ。
「寝癖ついてたこと言ってあげたらよかったかな」
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結局間違っていて宿内をうろうろしていたわけだが、いざやることやって部屋に戻るとやることがないことに気づく。
水無月自身部屋にあるもので触りたいものはたくさん置いてあるのだが。
例えばこの照明。コードなどはなく、スイッチのようなところに触れるたび点灯と消灯を繰り返している。
仕組みが全く分からない。よく分からず触るのは怖いので今のところこの照明ぐらいしか触れられていない。
家電製品というわけではなさそうだ。
外の景色にも電柱や電線といったものは見えなかった。
この世界にもゲームなどの娯楽があるのだろうかと疑問に思う。
「まあ、何かしらはあるだろう」
ゲームでないにしろ異世界ならではの何かに期待する。
その期待を胸に秘め、水無月はアルマが呼びにくることをただ待つことにした。
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「水無月様、お食事の準備ができました。ご案内します」
もう一度眠りにつこうかと水無月が考えていた時、部屋の外からアルマの声が聞こえた。
ベッドから降り、部屋の外へと出る。
「案内よろしくね」
「お食事は一階になりますのでついてきてください」
アルマの後ろをついていく。
他に水無月以外の客がいないか周りを確認するが誰もいない。
中居のような人ともすれ違うことなくお食事処についた。
「今から料理をお持ちいたします」
そう言ってアルマは部屋を出ていった。異世界の料理。
水無月は楽しみを隠しきれない様子だ。
一体どんなものが出てくるのだろうと気になる。
食べられないものばかりってことはないだろうと強く願いながら料理を待つ。
「お待たせいたしました。本日の朝食でございます」
アルマが目の前に料理を並べていく。白米に汁物それと焼き魚に煮浸しと言葉だけだと普通においしそうだ。
「あ、ありがとう」
「どうされましたか。お嫌いなものでもありましたか」
「そういう訳じゃないんだけど」
「それはよかったです。食べ終えたらそのままお部屋に帰っていただいてもらって構いません。その後女将の用意ができ次第お呼びいたします」
「あ、ああ。わかった」
「それでは失礼いたします」
料理についての説明はないようだ。
まずは煮浸しからいただくとする。
見たことない野菜らしきものを口に入れる。
「コリッ」
意味がわからない。煮浸しであることは見て分かるのだがコリッという食感がその認識を狂わしてくる。味は和風出汁だろうか、香りがとてもいい。さらにその出汁がこの謎の野菜の旨みを引き立てている。噛むたびに味が滲み出てくるので食感と相まって食べるのが楽しい。
意外と美味かった。視覚と味覚の差に頭はまだ混乱しているが。
白米もいただくとしよう。
「美味いっ」
至って普通の白米のように見えるが、とても美味い。ほのかな甘みが口に広がる。一口だけでも満足感があるが箸が止まらない。
この様子だと目が体の半分を占めているこの奇妙な魚も期待できる。そう思い、焼き魚へと箸を伸ばす。
「サクッ、サクッ」
皮を切り開き、身を取り出す音が耳に心地よい。
白く美しい身が姿を現す。その身を箸でつまみ、口に運ぼうとするも、芳ばしい香りが鼻の奥まで満足感を連れてくる。口に身を入れるのも惜しむほどだ。その抗い難い香りから逃れるように魚の身を食す。
「⁉︎」
ホクホクとした白身は淡白であるが、塩味とほのかにのった脂が見事にマッチしている。そこに白米を口に運ぶ。下に残った脂が米の甘味と塩味と合わさり新しい味を生み出している。端的に言えばめっちゃ美味い。
汁物が残っているが十分満足だ。もう汁物はいいのではないだろうか。何言ってんだお前と言いたい気持ちはわかる。自分もここまで食べてきて全てが今までに食べたことのないほどの美味だったのだから、汁物も美味しいのだろうと期待したかった。しかしダメなのだ。理由は簡単だ。青いのだ。何故かは知らないが汁が青いのだ。視界に入らないよう注意していたが目に入れた瞬間に食欲が失せてしまう。さらに具が動いているのだ。たまにびちって動いてるのだ。なにこれ。
え?一口だけ食べてみたらって?
「………」
━━そうだよな。食わず嫌いはダメだって言うしな。ダメだったら申し訳ないが残したらいいしな。
「それじゃ、いただきます」
青い汁を口に注ぎ込む。
「美味しいな」
━━美味しかった。腑に落ちないけど美味しかったわ。味は表現できない感じなんだけど。
次は具の方を食べようと試みる。
箸で謎の具をつまみ上げる。青い汁でよく見えなかったが海老のような生き物だ。しかし、殻は剥かれているようであり、その身はすでに茹でられているようだ。
━━なんで動いてんの?タコみたいなことか?
何はともあれ、食べやすいように調理されているのはありがたい。
海老を口に入れる。やはり味は美味い。身はぎっしりと詰まってありとても甘い。この海老が二匹も入ってるのだから何よりボリュームがすごい。
「めっちゃ美味かったな」
結局完食してしまった。青い汁物も目をつむって飲めばすごく美味しかった。
今後は出さないように頼んでおこうとは思う。
そろそろ部屋に帰ろうと思い立ち上がり階段の方へと向かう。
「初めまして、新しくここに来た人?私、メリッサ
よろしくね。」
部屋に戻ろうと階段に向かった時にばったりと出会った。黄色の髪をした女性だ。年は水無月と同じぐらいだろうか。
「初めまして。水無月です」
「朝食は食べた?あの青いスープすごいよね。最初は
気持ち悪かったけど今はあれがないと落ち着かないぐらい好きになっちゃったもん」
どうやらあの汁物には中毒性があるようだ。気をつけなければ。あれを食べ慣れるのは人として怖い。
「それじゃ、失礼します」
「もう行くの?じゃあね」
メリッサも水無月と同じ学校に行くのだろうか。
━━同じ学校だったらその時はその時か。
部屋に戻って一時間ぐらい経った頃にアルマが部屋まで迎えに来てくれた。そのまま一階の女将さんのいる部屋に連れていってくれた。
「この部屋の中に女将がいますので」
「案内ありがとう、アルマちゃん」
「私は外で待たせていただきます。中へどうぞ」
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「水無月様、改めて挨拶をさせていただきます。この宿の現女将でございます」
読んでいただいた方本当にありがとうございます
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ついでに下にある☆みたいなのもお願いします
青いカレーみたいなのを見ましたが本当に食欲失せますね