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ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
33/83

ASMRって耳がゾクゾクする

━━来ないでくれ。俺は今日はもう動かないって決めたんだ!


「起きてください」

「蹴りますよ?」


 物騒なことを言う。

 声からしてシルスだろう。


「起きませんね」

「どうしますかお姉様」

「踏みつけましょう」


 ここで発覚する姉妹関係。

 声からしてロンズが姉でシルスが妹のようだ。

 そして妹と同じく物騒なことを言う姉。

 姉妹揃っての暴力発言に水無月は震える。

━━お前らシスターだろ。何考えてんだ。

 水無月がそう思っている間に双子の考えはまとまったようだ。


「早く起きてください」

「おにいちゃん、朝ですよ」


 ロンズはおしとやかなお姉ちゃんのような、シルスは甘えたがりの妹のような声を水無月の耳元で呟く。

 ASMRを聴いているような感覚だ。

━━ほんとに何考えてんだこの双子

 こんなことを考えている間も双子の呟きは続いている。

 耳がくすぐったくなり水無月の体が震えそうになるがなんとか耐え切った。

 

「やりますね」

「まさか耐え切るなんて」


 お金を払ってもいいほどの心地よさを耐え切った水無月に謎の賞賛を送る二人。

 水無月も双子が用意してきたのであろう流れをフルで聞けてにやけそうになる。


「やりましょうシルス」

「そうですねお姉様」


 二人が軽く息を吸い込む音が水無月の耳に届く。

 何をする気なのだろうかと水無月が考えようとしたその瞬間。


「ぐえっ」


 水無月の胸元には上からの角度でロンズの足が、水無月の腹部には横からの角度でシルスの足が、そこそこの速さで水無月にダメージを与える。

 どうやらそれぞれ踏みつけと蹴りを実行したようだ。


「起きましたね」

「起きましたよ」

「お前ら…まじで許さないからな」

「行きますよ」

「早く準備してください」


 水無月の怒りは双子には届かないようだ。

 悶える水無月を見ながらそんな冷たい声をかける。


「それで、相手はどこら辺にいるのかわかっているのか?」


 凄まじい速さで着替えを終わらせる水無月。

 だがその光景を見てもなお表情を動かさない双子。

 少しドヤ顔をかましていた水無月が顔を俯かせる。


「とりあえず外に出てください」

「敵の方に向かいながら説明します」


      ーーーーーーーーーーー


「今回の敵は少し厄介です」

「直接的な魔法攻撃ができると予想できます」


 前を走る双子の後ろを離れないように走る水無月。

 まだ疲れが取りきれていない中前回のことを思い出す。

 攻撃はして来ず逃げることに徹したコネクター。

 それは相手が逃げ切れると思っていたということもあるのだろう。

 だが追い詰められてまで攻撃をして来なかったということは攻撃手段がなかったと考えるべきだろう。

 

「俺攻撃できるようなものもってきてないんだけど…」


 前回がそうであったので相手が攻撃してくる可能性を全く考慮していなかった水無月。

 その水無月に二人は何をやっているんだこのバカはという目を向ける。

 言い返したい水無月だがどう考えても自分の不注意であるため口をむにむにさせている。


「あなたは敵の攻撃に気をつけてください」

「私とお姉様が敵を主人様のもとに送ります」

「シェイが対応できるとも限らないだろ?」

「「主人様なら大丈夫です」」


 絶対的な信頼を寄せた双子の言葉の重みに水無月は気圧される。

 その後は水無月もシェイについては触れず目的地に向かって走る。

 

「見えました」

「あの狼です」


 双子の視線の先を見る。

 そこには人型の狼が二足で立ち月に照らされている。

 見た目はコレニスやフォクルのような獣人の狼バージョン。

 だが水無月たちに気づいた瞬間四足歩行で走り出す。


「大丈夫ですか?…シルスとあなたはそのまま追ってください」

「わかりましたお姉様」

 

 狼の様子に気を取られ倒れていた人に気づかなかった水無月。

 震えてはいるがぱっと見怪我はないため最悪の事態は防げたようだ。


「いきますよ」

「了解」


 水無月も意識を切り替え相手を追いかける。

━━攻撃手段を持っている可能性もあると言っていたが…まあ人数差があるから逃げるのは妥当か。


「相手の出方がわかるまでは俺から離れないでくれ」

「かしこまりました」


 前回のコネクターとは違い足の速さが比べ物にならない。

 見失わないようにするのがやっとで距離を縮めることができない。

 明らかな焦りが水無月の表情に表れる。

 

「俺はあいつに近づく。なんとかしてついてきてくれ」


 水無月はシルスの返事を待たずに左手の紋様を輝かせ魔法を発動させる。

 そして次の瞬間にはシルスの横を走る水無月の姿は狼のすぐそばまで迫っていた。


━━追いついた。まだシルスの姿は…見える。


「ーっ!」


 狼男が驚いた表情をする。

 その隙を逃さず水無月が狼男を掴もうとする。

 が、狼男は驚異的な身体能力で水無月の方に振り向きバックステップで距離を取る。

 水無月も走るのをやめ戦闘体制をとる。

 狼男も二足で立ち上がりいかなるものでも噛み砕けそうな犬歯を水無月に見せつける。

 そしてゆっくりとその口をあける。


「見逃してくれたりは…」


 その厳つい見た目から放たれる渋い声。

 そんな声には似つかわない発言に水無月は呆然とする。


「いやー、だって俺まだ誰も傷つけてないし?たしかにここ最近ちょっとこの国の人たち怖がらせちゃったりしたけど…だめ?」


 顔の前に手を合わせ首を傾げながら言う狼男。

 可愛い子がやれば破壊力抜群のその動きを厳つい狼男がやったところで意味がない。

 誰得だよと心の中で突っ込む水無月だがその目は全く笑っていない。


「残念だがお前の言うことをはいはいそうですかと信じるわけにはいかない。命乞いなら今から送る場所でしな」

「言ってることは本当なんだけどなあ。まあ信じないって言うならッ」


 狼男が地を踏み締め水無月へ距離を詰める。

 その手の爪を水無月の胸元向けて伸ばす。

 が、水無月もこの程度の攻撃に当たるほどまぬけではない。

 相手の動きを見てしっかりと避ける。

 狼男も諦めることなく水無月に次々と攻撃を仕掛ける。

 だがその全てを水無月は避け切った。


「お前、攻撃手段持ってねえな?」


 一旦水無月から距離をとった狼男は嫌な笑みを浮かべる。

 その笑みから見える犬歯は月に照らされている。

 それが狼男の笑みに恐怖を加える。

 

「さあ?どうだろうな」


 水無月は相手に悟られないようなるべく表情や声に気をつける。

 だが狼男には無駄だったようだ。

 また水無月との距離を詰めようとしてくる。

 だが先ほどとは違い踏み締めた地面にはヒビが入っており、速度も段違いに速い。


「?殺ったと思ったんだがな。お前の魔法か?」


 間一髪で狼男の攻撃を回避する。

━━化け物かよ。

 先ほどまで自分が立っていたところを見る。

 狼男の爪が地面に亀裂を作っている。

 パワーも段違いに跳ね上がっている。

 

「まあ答えなくてもいいさ。どうせ殺すんだから」

「お前その殺気の高さで信じろとかどの口が言ってんだよ」


 狼男は明らかな殺気を水無月に見せる。

 冗談を聞いてくれるような空気はなくなったようだ。


「ッ!」


 再度狼男が水無月に攻撃を仕掛ける。

 それを水無月は回避しきれず腕に引っ掻き傷を作る。

 傷の深さはそれほど深くはない。

 続くニ撃、三撃も回避しきれず足や顔に小さな傷を作っていく。

━━まだ大丈夫。焦るようなものじゃない。少し痛いが相手を見ろ。…早くシルスとロンズきてくんねえかな。

 早々に心が折れかけている水無月だがそれ以降の攻撃もかすり傷程度で、大きな一撃をもらうことはない。


「お前めんどくせえな。さっさと俺に殺されろよ」


 攻撃の手を休めることなく狼男が水無月に話しかける。

 だが水無月は返事をする気はない。

 そして転機は訪れる。

 水無月と狼男しかいなかった戦場に金髪と銀髪のシスター服を着た双子が姿を見せる。


「大丈夫ですか?」

「傷ができてますが?」

「心配どうも!でもそんな余裕ねえんだよ」


 狼男は二人を視界に捉えるが気にせず水無月への攻撃を続ける。

 まだ距離は空いているので水無月を先に潰すつもりだろう。

━━なんとかして二人にチェンジしたいなあ。どうっすかなあ。

 なんとか二人にスムーズに交代する方法を考えるが狼男の攻撃が思考を乱す。

 すると、狼男が距離をとる。

 水無月も無闇に近づいてこようとしない。

 

「賢いな、だがまだ甘い」


 狼男はそう言った直後、水無月と双子の足元の地面が盛り上がる。

 そうして体勢を崩した水無月に一気に近づき爪を突き刺す。

 が、間一髪で水無月は魔法を発動させる。

━━まずいな。近距離は圧倒的不利。かと言って距離を取れば足場を乱してくる。どうするか。


「またかよ」


 めんどくさそうな声で狼男がため息混じりにこぼす。


「おい双子!いるか?」

「「はい。大丈夫です」」


 男は魔法を連発する。

 が、それに対応するため水無月は狙いを定められないよう走り回る。

 狼男も水無月の動きに合わせ攻撃を仕掛けていくが水無月の動きを止めるほどの一撃は与えられない。

 狼男が真っ直ぐ水無月に突っ込んでくる。


━━いけるか?


 水無月に狼男の攻撃を回避する動きは見えない。

 それに狼男も違和感を抱くがそのまま突っ込む。


「ッ!」


 狼男が突き出した腕が当たる寸前、水無月が狼男の頭を支えに一回転するかのように飛び越える。

 そして着地すると同時、足を狼男に引っ掛け狼男の体勢を崩す。

 そのまま背中を蹴り狼男が地に伏す。


「あとは頼んだぞ」

「「かしこまりました」」


 狼男の戦闘相手は水無月からシスター服の双子への選手交代を経て二回戦へと続く。

 


 

 

 

 


読んでいただいた方ありがとうございます

感想あればお聞かせください

ASMRはまだ聞いたことないですけど友達があれめっちゃやばいよって言ってました

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