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ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
31/83

焦ると冷静な判断ってできなくなりません?

「少年、この子が君の探していたペットだよね?」


 少し戸惑い気味に小さな男の子に話しかけているのは水無月だ。

 その手には黒い謎の生き物を抱えている。


「この子です。ありがとうございます」

「ちなみにこの子なんていう種類の生き物なんだ?」


 抱えていた謎生物を少年に渡しその正体を探る。

 だが少年はそんなことも知らないんですかと言うような顔をしている。 

 少なくとも水無月は日本でその生き物を見た覚えがない。


「この子の顔見てくださいよ。どう見ても猫でしょ?」

「いや…まあ、たしかに顔はめっちゃ可愛い猫なんだけどね。その…それ以外が…」

「どこかおかしいところありますか?」


 純粋な目で水無月を見る少年。

 どうやらこの世界では水無月の感覚の方がおかしいようだ。

 たしかに目や耳は猫の特徴を持っている。

 しかし頭以外に猫の要素を一切感じられない。

 なんというか、すごくすごい感じなのだ。

 語彙力のかけらもない感想が水無月の頭を支配する。

 

「いや…ないと…思う…よ?」

「そうですよね。友達も猫飼っていますけどぱっと見の違いは色ぐらいですから」


 自分のペットに異常がないとわかり満面の笑みを水無月に見せる少年。

 それとは逆に水無月はひどくひきつった顔をしている。

 顔写真と猫という情報を頼りに水無月はこの子を見つけたが、自分の知っている猫と全く違うものだったので何度も写真と見比べたものだ。

 最終的に顔がそっくりであることからこの少年に届けにきたのだが。


「この猫、飼いたいかなあ?」

「…何か言いましたか?」

「いやっ、気にしなくていいことだよ」


 できれば違うと言って欲しかった水無月。

 しかし少年は水無月に抱えられているペットを見て目に涙を浮かばせながら嬉しそうに近づいてきた。

 それは側から見れば感動的なシーンだったのだろう。

 だが水無月は感動することもなく無の感情でそれを見守ることしかできなかった。


「それじゃあ俺は他の仕事に…」

「はい!本当にありがとうございました」


      ーーーーーーーーーーー


「あっち〜」

「夏もそろそろ本番って時期だからね」


 水無月、日下部、アルマの三人がグラべオンに来て約半年ほど経った。

 カウンターの奥にコレニス、カウンター席に水無月という形で向かい合って話し合っている。

 水無月の服は汗でびっしょりと濡れている。


「コレニスは暑くないのか?」

「俺っちは全然大丈夫だよ。まあ、だいぶ毛も抜け落ちたからね。それよりも夕飯前に風呂入ってきたら?」

「そうするよ」


 一応部屋には冷房が効いているが、客の多い今の時間帯ではその効果はあまり感じることができない。

 だがそれも一階だけで水無月たちの居住スペースとなっている二階より上はとても快適な温度になっている。


「だあ〜、すずしい〜」


 二階に上がった水無月は冷房の風を感じながら風呂へと向かう。

 服を脱ぎ風呂へと入っていく。

 まず冷水でさっと全身の汗を流す。

 これが爽快感を与える。

 気分の良くなったまま水無月はゆっくりとシャワーの温度を上げていく。

 その後少し熱めのお湯を浴びて体を流す。

 そして全身を石鹸を使い洗っていく。

 一日の汚れが落ちていく感覚がこれまた気持ちいい。

 洗い終えた後はお湯を溜めた浴槽に十数分浸かる。

 汗がそこそこ流れたら浴槽から上がり、冷たいシャワーを浴びる。

 

「かあ〜、きもちい〜」


 風呂から出てタオルでしっかりと体を拭く。

 そして気づいた。

 着替えがないことに。


「あー、忘れてたわ」


 自分の荷物を取りに風呂場から出ようとする。

 だがドアのノブに手をかける直前外から誰かの声が聞こえて来る。


「今日はいっぱいお客様がきましたね」

「そうですね」


 アルマとフォクルの声だ。

 水無月は二人が部屋の前から遠ざかるように待とうとするが、二人の足音は確実にこちらに近づいている。


「どうして今まで一緒にお風呂に入るのを嫌がってたんですか?」

「それはですね…」


 アルマの疑問に少し恥ずかしそうな声でフォクルが答える。


「私の体毛が抜けると迷惑がかかると思って…」

「そうだったんですね…でもよかったです。嫌われているわけじゃなくて」


 アルマは嬉しそうな声をあげている。

 一方フォクルは少し頬を赤らめている。

 かなり気にしていたようだがアルマにそう言ってもらえて嬉しいのだろう。

 メイドという立場からあまり感情を表に出さないのでわかりづらいが。


━━まずい。このまま二人に入ってこられるとまずい。

 そのままタオルを腰に巻いて出ればいい問題なのだが、焦った水無月は何を思ったのかタオルを置きで浴槽へと向かった。


「あれ?おにいちゃん洗濯する服ここにおきっぱです」

「後で私のものとまとめて持っていっておきます」


 その後も会話は発展していく。

 外から聞こえる二人の楽しそうな声。

 そしてそこにかすかに混ざる衣服が床に落ちる音。

 その音に水無月は耳を澄ます。

 何をやっているんだと思われるかもしれないが水無月自身も何をやっているのかわかっていない。


━━どうやってこの状況説明すればいいんだ?

 ふと冷静になりそんなことが頭によぎる。

 女性二人が入ってきたことに対して何も言わず浴槽に浸かっている男子高校生。

 ただの変態だろう。

 だが今からできることなどもうない。

 ドアが開き二人が中へと入ってくる。


「何してるんですかおにいちゃん?」


 存在を無くそうと壁の方を向いていた水無月。

 そんな考えも虚しくアルマに声をかけられる。


「いやあ〜ちょっと壁にときめきを感じてな」

「そうなんですね。私たちも邪魔にならないように気をつけますのでどうぞそのまま」


 フォクルは若干引き気味の声をしている。

 そして二人はそのまま体を流し始めた。

 狐っ子と小さな女の子の楽しそうな声を背に壁に向かい合ったままの水無月。

 この状況が理解できず壁を見つめるしかなくなった。


━━俺いるのになんで体洗い始めんだよ。

 シャワーの音が止まった。

 足音が聞こえる。

 そして水無月の背からちゃぷんと音がした。

 アルマが浴槽の中に入ったようだ。

 それにフォクルも続く。


「おにいちゃん一緒にお話ししませんか?」

「そうですね。私も水無月さんのお話し聞かせて欲しいです」

「おお、そうだな、俺もいろいろ話したいことあるからな」


━━二人とも俺に振り向かれても大丈夫な状態ということだよな?だからそんなこと言えるんだよな?

 そう考え水無月は二人の方を向く。

 だが水無月の予想通りとはならなかった。

 アルマはタオルを覆うことはなくその白い肌を露わにしている。

 フォクルはメイド服を着ていてよくわからなかった膨らみが確認できる。

 すなわち二人とも自分の体を隠すものは何も使っていないのである。

 水無月の視線は二人の裸体が入らないような方向を向いている。

 アルマが水無月を会話に混ぜるために中断した話を再開する。

 アルマとフォクルは楽しそうに話し始めたが水無月はそれどころではない。

 そうして十分ほど。

 水無月はこの空間にいるのが耐えられなくなった。


「俺、そろそろ上がるわ」

「のぼせてしまいましたか?」

「ああ、ちょっとな」

「そうですか。話を聞けないのは残念ですが…」


 そしてそのまま水無月は風呂場を後にする。

 二人の純粋な心配の目を感じながら。


━━俺が意識しすぎなんか?

 そんなことを考えながら自分の着替えを取りに行く。

 その後の夕飯も自分が男子高校生にもなって女性の耐性が無さすぎるだけなのかとくだらないことばかり考えていた。

 そうしてそのままみんなが就寝の準備を行う時間となった。


「普通の男子高校生やったらあの場にい続けれるものなのか?俺がおかしいのか?俺が女性に対して意識しすぎなのか?」

「水無月、ちょっといいかな」


 ぶつぶつとつぶやく水無月は近づいてくるコレニスに気づかない。


「水無月!ちょっといい?」

「おっ!なんだコレニスか。なにかようか?」


 何回目かのコレニスの声でやっと水無月は気づいた。


「明日の依頼なんだけど…」


 どうやら明日の仕事の相談をしにきたようだ。

 

 

 

 

 

 

読んでいただいた方ありがとうございます

感想あればお聞かせください

お風呂は四十分以上入る派です

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