表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
二章 グラべオン
27/83

もふもふっていい

「猫耳ですよ!猫耳!」

「めっちゃふわふわって、もふもふってしたい!」


 二人揃って目の前の獣人に興奮する。

 当の獣人は二人の様子に怯えているようだ。


「お、俺っちに何する気だよ!」

「少し、ちょっと、さきっちょだけでいいので、そのお耳を触らせていただけたらなと」


 意外にもアルマの方が獣人に興味を示している。

 その証拠に口元からよだれを垂らしている。

 そうしてジリジリと近づいていくアルマを水無月が止める。


「落ち着けアルマ、相手が怯えているだろ」

「そうでした。少し正気を失っていました」

「こういう時はな…」


 刹那、周囲の空気が揺れる。

 だが目の前の獣人が動いたわけではない。

 この場で起こった変化。

 それは、先ほどまでアルマの隣にいた水無月が獣人の隣にいることだ。

 

「こうやって、気付かれず近づくんだよ」


 そう言って獣人の体をもふもふする水無月。

 その表情は至福の顔だ。

 その水無月の行動を見てアルマも獣人に飛びかかる。

 

「何するんっだよ!」


 が、アルマが飛びつく頃には獣人の姿はそこにはなかった。

 代わりにそこにいたのは腹を押さえて悶絶する水無月。


「おにいちゃん!大丈夫ですかおにいちゃん!」

「ちっとやりすぎちまったかな」


 アルマが水無月にかけよる。

 獣人は水無月の腹に一撃を与えとっさに距離を取ったようだ。

 さりなげなく行われたことだが、アルマの目に動きが映らなかったことから、ものすごい速さで行われたことだとわかる。

 しかし、この場にそれを理解できる落ち着いた人物はいなかった。


「はっ!」

「おにいちゃん!」

「大丈夫だアルマ、少し気を失っていただけだ」


 気を失うほどの一撃をくらい何が大丈夫なのかわからなかったアルマだが、おにいちゃんが大丈夫と言っているのだから大丈夫だろうと納得する。

 

「すまねえ、俺っち急なことにびっくりして…」

「ほんと、気をつけてくれよ」

「…まさか俺っちのせいにするとは思ってなかったよ」


 反省の色がない二人に獣人は呆れた声を出す。


「おーい、水無月、アルマちゃん、家の中貸してくれるって…って何してるの?」


 日下部が先ほど入っていた家から出てくる。

 二人の様子、すなわち、また獣人をもふもふし始めた二人に困惑しているようだ。


「それより、そこにいるのはコレニスじゃないか!帰ってきてたんだね」

「日下部、この二人どうにかしてくれよ」


 どうやら獣人の名前はコレニスというらしい。

 水無月とアルマには聞こえていないようだが。


「二人とも、コレニスから離れてあげてくれ」

「なんだよ日下部、邪魔するなよ」


 離れる素振りを見せない二人を見て、コレニスは日下部にもっと強く言ってくれと視線を送る。

 だがめんどくさくなった日下部は…


「コレニス、殴ってもいいよ」

「おい待て!くさか…」

「おにいちゃん!」


 水無月が何かを言い終わるよりも先にコレニスの拳が水無月の腹に入る。

 今日二度目ということもありその痛みは一度目より加減されていたとはいえ、同じほど痛い。

 水無月の様子を見たアルマは心配することに全力を注いでいる。

 おかげで二人はコレニスをもふもふするのをやめた。


「なんなんだい?この兄妹」

「コレニス、この二人は兄妹じゃないよ」

「本当に言ってるの日下部。あんなに息ぴったりなのに」


 日下部の発言をコレニスは信じられないと言った顔で二人に目を向ける。

 水無月はまだ腹を抱えながらうずくまっている。


「水無月を家まで運ぶの手伝ってくれる?」

「別にいいけど…」


 二人で水無月を支えながら家へと入っていく。

 アルマは水無月に声をかけながら後ろをトコトコとついていく。


「ただいま」

「帰ってたんですねコレニス」

「三日も家を空けていてごめんね。何か変わったことはあった?」

「いえ、日下部さんが来たぐらいで、それ以外は何も変わらずです」


 コレニスと親しく話している女性。

 狐のような鼻と耳を持っている。

 コレニスと同じく体は毛で覆われている。

 服はメイド服のようなものを着ているがコレニスの趣味だろうか。


「もふもふです!もふもふですよおにいちゃん!」

「アルマちゃん、少し落ち着こうか」


 興奮し始めたアルマを優しくなだめる日下部。


「水無月、君もだよ」


 何かを察したのか水無月にも釘を刺しておく日下部。

 彼の察しは正しく、水無月はすでにもふもふするための準備をしていた。

 誰にもバレず、魔法で自分の時間を進める準備を。


「さて、そこのメイドさん。お名前は?」


 誤魔化すようにメイド服を着た狐っ子に名前を尋ねる水無月。

 急な質問に狐のメイドは困った顔をしている。

 どちらかというと畏怖のこもった顔だろうか。


「大丈夫だよ。彼は日下部の友達だから」

「そうでしたか…」


 コレニスの言葉を聞きメイドさんは安心した表情をする。


「失礼しました。私の名前はフォクルと申します。この家でメイドとして雇ってもらっている身でございます」


 どうやらメイド服はコレニスの趣味ではなく仕事着だったようだ。

 

「コレニス、日下部さんがここにしばらく泊まらせてほしいと…」


 水無月に挨拶をしたときのような丁寧な言葉遣いはコレニスと話すときにはなくなっている。

 それは、側から見たら雇い主とメイドというよりは長い間一緒にいる友達のような関係に見える。


「そうか…」


 その話を聞いたコレニスは少し考える素振りを見せる。

 日下部の話からフォクルは部屋を貸してくれると言っていたが。


「日下部と水無月は二階、フォクルと水色の髪の子…アルマだっけ?」

「はい、アルマと申します」

「その二人は三階を寝床にしていいよ」

「コレニスはどうするんだい?」

「俺っちは一階で寝るよ」

「それなら水無月を一階で寝かしたらいいよ」


 随分と辛辣な意見を日下部が口にする。


「ベッドは前と変わらず四人分しかないんだろ?だったら水無月を一階の床で寝かせたらいいよ」

「ちょっと待ってくれ日下部。なぜ俺なんだ?」

「女性陣を床で寝かせるわけにはいかないからね」


 その意見に水無月も大きく頷く。


「それにさっきの様子からコレニスとフォクルと同じ空間にいてほしくない。それにここはもともと僕の家だったからね。自然と君の優先順位が一番下になるんだよ」


 日下部の意見を聞き何も言い返す気のなくなった水無月。

 仕方なく床で寝ることを受け入れた。


「トイレはそれぞれの階、風呂は二階にあるから自由に使ってね」


 コレニスの説明を聞き、水無月、日下部、アルマの三人は荷物を自分の使う部屋へと運んでいく。

 

「そういえば、コレニスはどこに行ってたんだ?」


 ひとしきり荷物運びを終えた後、水無月がコレニスへと質問をする。


「ここは街の悩み相談も行っていてね。その一つを解決しに魔獣狩りに行ってたんだよ」

「ちなみに明日からは僕たちもここの手伝いをするからね」


 日下部がすかさず口を挟む。

 どうやら部屋を貸してもらう代わりに個々の仕事を手伝うようだ。

 仕事の内容も旭昇天で日下部が行っていたものに加え、大型の魔獣の討伐なども含まれる。

 

「それじゃあ俺っちはもう寝るよ」

「おやすみー」


 コレニスが寝てから、他の人たちも続々と自分の寝場所へと向かう。


「今夜も床か。慣れたもんだぜ」


 そんな悲しいことを呟きながら水無月は眠りについた。


      ーーーーーーーーーーー


「早く起きてくれませんか」


 すぐ横から誰かの声が聞こえる。

 まだ日が昇る気配はなく街は静寂に包まれている時間帯。

 

「早くしてくださいのろまさん」


 唐突な罵倒に目を覚ます水無月。

 その視界の中には金髪と銀髪のシスター服を着た双子。

 ロンズとシルスがいた。


「外にいます。コネクターの一人が」


 その言葉にぼやけていた頭もはっきりとする。

 水無月は初日で当たりを引いたようだ。



 


 

 

 

読んでいただいた方ありがとうございます

感想あればお聞かせください

某ポケットに入る感じのモンスターではテー○ナーが好きです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ