チームプレイ
「何してんだよお前!」
「お前だなんて言わないでよ。いつもみたいに名前で呼んで欲しいなあ」
にこにこといつものような笑顔でそう答える。
「水無月、相手はグループで行動している。彼女をどうにかできても人数が把握できていない今は何もせず逃げる方がいい」
メリッサの魔法は毒花と針の生成だったはずだ。
この周りの炎から日下部の考え通り複数犯であることは間違いなさそうだ。
日下部はあくまで俺が無茶をしないようにするための監視役、戦闘には乗り気ではない。
だが、俺は戦う気だ。
「まだこの奥に人がいるんだ。諦めて逃げることなんてできない」
「無理だと判断したらすぐに逃げるからね」
「それでいい」
「僕も後ろから援護はするが…殺すのかい?」
「いや、捕まえる」
剣をとりメリッサへと向かう。
「内緒話は終わった?それじゃあ」
直後いくつかの針を生成しこちらへと投げてくる。
それら全てを剣で受ける。
「へえ、やるじゃん。成長したね」
「少し前にとんでもなく速い槍使いと戦ったからな」
あの日を思い出す。
あの時の槍使いの動きはもっと速かった。
それに比べればメリッサの動きは、まだ目で追うことができる。
針も手の動きにさえ集中すればどこに飛んでくるかもある程度わかる。
「じゃあこれは?」
メリッサに一撃を与えるため大きく踏み込もうとした瞬間メリッサの周りに花が咲く。
危険を察知しとっさに後ろへと跳ぶ。
一瞬の間にできたお花畑。
花の種類は一種類。
「気づいた?出せる毒の花の種類を操れるようになったんだ。すごいでしょ!まだ自分の周りにしか咲かせれないんだけどね」
範囲は確かに狭い。
だが剣で斬りかかるには十分邪魔になる範囲だ。
厄介だ。
攻める方法を考えないといけない。
「水無月!避けろ!」
日下部の声を聞き横に跳ぶ。
直前まで自分のいた場所に針が数本刺さっておいる。
「何ぼーっとしてるの?待つわけないじゃん」
考える方に頭を割きすぎていた。
日下部の声がなければ何本かくらっていたかもしれない。
「ほらほら!」
続け様に針は飛んでくる。
避けながら、それでも自分に当たりそうなものだけを剣で受けていく。
距離を縮めることができない。
「くそっ」
距離は縮められず、近づいても毒の花がある。
どうすればいいのかがわからない。
「水無月、僕が注意を引きつける、その間にメリッサを無力化してくれ」
「近づけってどうやって」
「よく見ろ。もう毒花はない。持続時間は短いようだ」
メリッサの足元を見る。
その足元にあった毒花はもうない。
針にばかり注意を向けていて気づかなかったようだ。
「頼んだよ」
そう言って日下部は投げナイフを取り出す。
頼んだよと言われても斬りかかる前に毒花を咲かされれば意味がない。
「視線をそらせれるか?そのうちにメリッサを拘束する」
「やってみるよ」
投げナイフを日下部が投げる。
が、メリッサは軽々と避ける。
「危ないなあ、手や足を的確に狙って投げるなんて」
「まぐれだよ」
日下部とメリッサの中距離戦が始まる。
日下部に向かって投げられた針を俺が捌きながら日下部が攻撃をする。
しかし、ナイフを的確に避けるメリッサにダメージは与えられない。
「まずい水無月。ナイフの数がもうわずかだ」
日下部がそんなことを口に出す。
少し前で防御に徹している俺に聞こえるように話したせいかメリッサの耳にもその声は届いたようだ。
「結構な数持ってたね。残ってるのと合わせて三十本くらい?」
メリッサは余裕の表情だ。
それもそうか。
魔法は想像力さえあればいくらでも使うことができる。
針の生成もメリッサは無限に行うことができる。
「水無月、まだ防御に徹していてくれ、必ず視線をそらしてみせる」
今度は俺にしか聞こえない声で話す。
自信たっぷりの声だ。
「信じてるぞ」
メリッサの攻撃は止まらない。
その間も日下部はナイフを投げるが全てを回避される。
「狙いは悪くはないんだよね。ただ速度がイマイチかな」
平然とした顔でメリッサが話す。
こんな状況だというのに楽しそうにしている。
「水無月くん、大丈夫?日下部くんのナイフなくなっちゃったようだけど」
一瞬振り向き日下部を見る。
大きく手を上げ、降参のポーズを取っている。
だが、口パクで「走れ」と伝えてきている。
口の動きは俺が前にいることでメリッサには気づかれていない。
日下部には何か考えがあるようだ。
俺は日下部を信じてメリッサに向かって走り出す。
「学習しなよ。さっきもダメだったじゃ、っ!」
メリッサの背後の壁に刺さったナイフが一本だけ宙を飛ぶ。
そのナイフがメリッサの腕に切り傷をつける。
そして一瞬だけ腕に気を取られているその瞬間。
メリッサに飛びかかり押さえつける。
「大人しくしろ。抵抗するなら剣を突き刺す」
メリッサが毒花を咲かしてもいいようにメリッサの服を伸ばし足場にする。
「離してよ」
口ではそう言うが体に力を入れる様子はない。
「暴れないんだな」
「負けは負けだからね。どんな結果でも受け入れるのが私たちの信条だから」
「その私たちっていうのはなんですか」
日下部がメリッサに質問をする。
「それは言えないよ。それよりもさっきのはどうやったの?」
「ナイフのことですか?あれは僕の魔法です」
「どんな魔法なの?」
「それは言えませんよ」
「他のやつはまだいるのか?」
「もう撤退しちゃった」
とりあえず客を殺して回っていたのはメリッサだろう。
「日下部、奥の部屋を開けてきてくれ」
「火も広がってるからね、早くしないと」
「俺はこいつを騎士団に連れて行く」
俺と日下部が次の行動に移ろうとした時。
奥の扉が開く。
日下部が扉から離れ俺の横に立つ。
「何をしているんですかメリッサ」
中から現れたのは清潔感に溢れた男。
それも人一倍気を遣っているような。
どこかで見たような気がする。
「すみませーん。負けちゃいました」
「仕方のない子ですね」
緊張感を一切感じられない二人の会話。
「逃げるよ、水無月」
いつのまにか俺の座布団の上に日下部が座っている。
そして俺の服の首周りを掴み座布団に乗せる。
「でも中の人が…」
「一瞬中が見えたけど誰もいなかった。殺されたわけじゃない。死体のようなものもなかった。だから何処かに連れて行ったんだと思う」
そう言うや否や外へと向かって飛んでいく。
「それにあの人は僕たちが相手できるほどの強さじゃない」
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「追いかけなくていいんですか?」
「ええ、目的は果たしましたから。私たちも帰りますよ」
「はーい」
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「おにいちゃん、大丈夫ですか」
「大きな怪我はしていないよ」
メリッサの針によってできたかすり傷はあるが、真正面からは受けていないので大した傷はない。
「それよりも、ごめん。他の人を助けられなかった」
「そうですか……でもおにいちゃんと日下部さんが大丈夫だったんです。私はそれで十分です」
この子は強い。
無理をして探してきた俺たちを悲しませないように泣くのを堪えている。
こんなにも小さな子が。
「ほんとうにごめん」
「いいんです。気にしないでください」
そう言ってアルマは笑顔を見せる。
目の端に涙を抱えながら。
「僕たちに気を使う必要はないんだよ。君が我慢をする必要もない。助けれなかった僕たちを責めてもいい、君にはその権利がある」
日下部の言葉を聞きアルマが涙をこぼす。
小さくこぼしていた涙は、どんどん数を増やしていく。
次第に泣き声も大きくなっていく。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「アルマが謝ることなんて何もない」
「せっかく頑張ってくれたのに…私が泣いたら…」
「いいんだ。アルマを助けれなかったのは俺たちなんだから」
それからしばらくアルマは泣き続けていた。
その間に近くの住民が何事かと様子を見に集まってきた。
そして、この事態を聞きつけた騎士団が到着してもアルマの涙は枯れることはなかった。
「騎士様、もう少し待ってあげてください。その間僕が事情を説明しますから」
「はい。彼には後でお話を聞かせていただきます」
日下部が到着した騎士団の対応をしてくれた。
それからしばらくしてアルマの様子は落ち着いた。
「もう大丈夫です。けじめをつけれました」
「ほんとうに?俺は一ヶ月もかかったのに」
「また思い出して泣いちゃうかもしれません」
「そのときは俺が横にいてあげるよ」
アルマの涙を見るのはとてもつらい。
だから、日下部が俺にしてくれたように、俺もアルマの嫌なことを一緒に背負えるように。
隣で支えてあげなければ。
「おにいちゃん!」
「どうした、アルマ」
「大好きです」
満面の笑みでアルマはそう言った。
アルマを助けることができただけで満足している俺は酷い人間だろうか。
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雨や曇りが続くとやる気が起きないですよね




