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ツヴェルフモーナット (没)  作者: ねこぶた
一章 旭昇天 (きゃくしょうてん)
20/83

友達

「今日は君と話に来た」


 ドアの向こうから日下部の声が聞こえる。


「僕の話を聞いてくれればいいよ」

 

 そう言って日下部はぽつぽつと話し始める。


「まだ傷は癒えないんだろう?それは仕方がないかもしれない」


 かもしれない。

 わかっている。このままずっとここに引きこもっているわけにはいかないことを。


「だがそれが駄目なことは君もわかっているはずだ」


 扉の方へ近づく。


「君にはしっかりとした目標がある。そのためにやらなければいけないこともある」


 彼女にもう一度会いたい。

 俺がこんな風になっても彼女はいつも一緒にいてくれた。

 そんな彼女が好きだった。

 今でも好きだ。


「それに向けて頑張っていただろう。人一倍体育の授業に取り組んでいたのも知っている。魔法の練習も毎日欠かさずやっていたのも知っている」


 ああ頑張っていたとも。

 何でもすると決めたのだから。

 後悔するのはもう嫌だと思ったから。


「だから、月霜を守れなくて悔しかったんだろう?守れたかもしれないのに守れなかったのがとても悔しかったんだろう?」


 悔しかった。

 忍や騎士団の人には君の責任ではないと言われた。

 そう言ってくれた。

 それでも、最後の悲鳴を聞いた時にはまだ助けれたのかもしれないと思うと、後悔で胸がいっぱいだ。


「でも、月霜を助けれなかったのは君の力不足だ。君の努力は足りず、月霜を助けれなかった。そう自分でも思っているはずだ」


 ああ、その通りだ。

 月霜が死んだのは俺のせいだ。

 俺の力不足が悪かった。

 俺が弱かったせいだ。


「だがこの世界で生きている以上そんな経験はいくらでもする。実力不足を痛いほど実感する機会は何度だって訪れる」


 まるで見てきたかのように。

 聞いてきたかのように。

 体験してきたかのように日下部は言う。


「そして、死なせてしまった命を背負って生きていくことになる。いくつでも、いつまでも」

 

 日下部の声が少し震える。

 

「すまない。少し取り乱してしまった」


 扉に背を預けて座る。

 

「だから、僕らは救えなかった命よりも救った命の数が多くなるように生きる」


 数。

 命の価値は平等だと言う。

 だから多くの人を救う。

 そんな考えが正しいとは思えない。


「人によって命の価値は変わる。僕はそう思う。でも、それを重視しすぎるといずれ自分が潰れる」


 どれだけ救ったかよりも誰を救ったかの方が俺にとっては大事だ。

 それは逆にも言える。

 大切な人一人助けれないことの方が多くを助けれなかった時よりもつらい。


「大切な人を亡くした時にすぐに潰れてしまう。だから救えた数を見る。自分の失ったものよりも得れたものの方が多いと思いたいから」


「でも…俺は…誰も救えていない」


 今回俺は失っただけだ。

 誰も救えていない。


「救えていないのなら救えた数が上回るまで生きたらいい。君はまだ死んでいないのだから」


 俺にできるだろうか。

 誰かを救うことが。


「死んだ者の、生きた記録を、生きていた記憶を、持っているのは今生きている人だけだ。それを残すために生きるだけでいい。それだけでも死んだ人を救うことになると僕は信じている」


 月霜の記憶。

 この世界には自分一人だけで来たと言っていた。

 その記憶を残せる人は数少ない。

 そして、俺はその数少ない人の一人だ。


「何も一人で背負うことはない。僕も一緒に背負うよ。友達を助けれなかったのは僕も同じだ」


 その言葉を聞き、体にあった重たいものが軽くなる。

 たったその一言だけで。

 

「それでもダメなら僕にその後悔を話すといい。一緒に背負うと約束した仲だ」


 涙が溢れる。

 一人で抱えていた悩みが。

 一人で後悔していたことが。

 日下部も同じように共有してくれると。

 たったそれだけで立ち直れる気がする。


「あり…とう、ありが…とう、ありがとう」

「また明日も来るよ。ゆっくりでいい。焦る必要はないよ」


      ーーーーーーーーーーー


 泣き疲れた。

 日下部はもう帰っているだろう。

 服がぐちゃぐちゃだ。 

 洗濯しに行かないと。

 

「アルマ…」


 扉を開けるとアルマが部屋の前で立っていた。

 手には料理を持っている。

 俺のために作ってくれたものだろう。


「あっ、その、夕飯お持ちしました」


 料理を受け取り、部屋の中に運ぶ。


「失礼しま…」


 アルマが帰ろうとしたところを引き止める。


「あの、何して…」

「ごめんな、毎日料理作ってたのに」


 泣き疲れて腫れた目を見せないようアルマを抱きしめる。

 

「毎日風呂も用意してくれて…本当にごめんな」

「いいんですよ。用意するのは私のお仕事ですから。それよりも他に聞きたいことがあります」

「他に?」

「ごめんなんて言葉聞くために私は頑張ったわけじゃないんですよ」


 そう言ってアルマは優しく頭を撫でてきた。

 また泣きそうだ。


「ありがとうな、アルマ」

「どういたしまして」



 

読んでいただいた方々ありがとうございます

感想などあればお聞かせください

悩みを共有できる友達ってなかなかできませんよね

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