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51.次なる課題は「錬金術料理」なのですわ!

 ロイドに報告を終えた翌日、アトリエを訪れたスタークに案内されて、ルヴィアリーラたちは三度王城へと招かれていた。


 と、いうのも、依頼を短期間で達成したということに対してディアマンテ王がルヴィアリーラたちを労いたい、というのが表向きの理由ではあったのだが、やはりというかなんというか、本題は、恐らくロイド経由で知ったのであろう隠し資源の方に他ならない。


 ルヴィアリーラは元貴族ということもあって、スタークに先導される形で堂々と王城のレッドカーペットを歩んでいた。


 だが、リリアはまだ慣れないのか、フードを被って、しきりにきょろきょろと周囲を見渡すような形でルヴィアリーラが纏っている聖衣の裾を掴みながら、ガチガチに緊張した様子でその半歩後ろを歩む。


 そうして三人が大階段を登った先にある謁見の間、その玉座には神王ディアマンテ・カルボン・ウェスタリア11世その人が佇んで、どこか悪戯な笑みを浮かべていた。


「此度の依頼、ご苦労であった。冒険者ルヴィアリーラ。まさか一月も経たぬ内に課題を片付けてしまうとは、さしもの余も驚きを禁じ得ぬ」

「もったいなきお言葉ですわ、陛下。全ては陛下の名の下に生きるこの国の民……わたくしも含めて皆々が手を取り合った結果ゆえですわ」

「はっはっは、相も変わらず其方は謙虚なのだな……まあよい、ただ、ここに招かれた理由はわかっているのだろう?」

「……はい」

「旧鉱山の隠し資源……よもや、噂話だとは思っていたのだがな」


 ディアマンテはぱちん、と、指を鳴らすと、ルヴィアリーラが跪き、献上していた「アイオラメタル」をスタークにとって来させる。


 ディアマンテの掌にずしり、と伝わるのは重量ばかりではなく、枯れ果てたと思われていた「アイオライト鉱」が含有している特有の魔力の波長も拍動しているように感じた。


 確かにこのインゴットを使えば、申し分ない魔剣が作れることだろう。


 だが、厄介なのはやはり、隠し資源の存在が証明されてしまったことだ。


 ウェスタリア旧国有鉱山のある領地を収めているセオドア・カルセドニー侯は保守的で、どちらかといえば自分の利権を優先するタイプの人物であるために、その存在が知れれば、冒険者たちへの解放ではなく、独占という道を選ぶことは想像するに難くない。


 ルヴィアリーラもだからこそ、浮かない顔をしているのだろう。


「そこでだ、次の皇国依頼だが……余が直々に発令しようと思う。冒険者ルヴィアリーラ」

「はっ、陛下! なんなりとお申し付けくださいまし!」

「……錬金術で、食べ物を作ることは可能か?」


 ディアマンテの口から大真面目に飛び出てきた、予想外の言葉にルヴィアリーラは目を白黒させ、ぽかんと口を一瞬、半開きにしながらも答えてみせる。


「……り、理論上は可能かと思われますわ」


 やったことがないからわからないが、クラリーチェ・グランマテリアが記した「錬金術体系全著」には食べ物の項もあったはずだ。


 それに、錬金術の基本が物質の理解、分解、そして再構成という工程を経るものであるのならば、例えばパンであれば小麦粉、酵母、水といった材料を釜にぶち込んで、エーテル=マナ変換を行えば理論上は出来上がるはずだ。


 ただ、やったことがないから自信があるわけではない。


 ルヴィアリーラはこめかみに汗が滲むのを感じながらも、他ならぬ神王ディアマンテの依頼だからと平静を装って、その問いを肯定する。


「ふむ……いや何、カルセドニー侯にも錬金術の有用性をわかってもらえればと思ってな。魔剣は飢えを満たせぬ。だが、魔剣を作る過程の錬金術が必要であると証明するならば、やはり胃袋からであろう。期限は一週間、其方であれば成し遂げられると期待しておるぞ」


 妙に庶民的な発想ではあるが、ディアマンテが提案しているのは、カルセドニー侯との会食において、ルヴィアリーラが用意した、錬金術料理を食べてもらうことで、錬金術の有用性を示した上で、再国有化に賛成してもらいたい、ということだ。


 無論、神王の権限を利用してカルセドニー侯から旧鉱山を取り上げることも可能だが、それでは後々に禍根を残す。


 この手の問題についてはなるべく穏当なやり方で穏当な落とし所をつけたい、というのはルヴィアリーラだけではなく、ディアマンテもまた望むところだったのだ。


 それに、貴族たちからルヴィアリーラへの評判が良くない、というのはディアマンテも承知しているところだった。


 だからこそ、名誉挽回の機会として、会食において錬金術料理を振る舞うことと、「アイオラメタル」を造ったのがルヴィアリーラである、という人材の有用性を証明してみせろ、と、ディアマンテはルヴィアリーラへと持ちかけているのである。


 ルヴィアリーラも、それはわかっていた。


 だが、果たして錬金術で作った料理は貴族たちの舌を満足させられるのだろうか。


 やったこともなければ食べたこともない、そして期限も短いとなれば、改良に改良を重ねるという脳筋式解決法も使えない。


「はっ、陛下! このルヴィアリーラ、必ずご期待に添えるよう、身命を尽くして挑ませていただきますわ!」

「うむ、その意気だ! では、吉報を期待しておるぞ、冒険者ルヴィアリーラ!」

「はっ!」


 これでもしも自分が作った錬金術料理が不味かったら、首が飛ぶのだろうかとルヴィアリーラは内心で嘆息しつつ、冷や汗をこめかみに滲ませながら答えてみせる。


 そして恭しく膝をついたまま、ディアマンテが踵を返して王の間へと引き返していく姿を最後まで見届けてから、ルヴィアリーラはゆらりと、幽鬼か、そうでなければ立ち枯れた木のようにゆっくりと立ち上がった。


「……こんな話は聞いてないのですわ……」

「すまないな、ルヴィアリーラ、リリア、心労をかけることとなって」

「いえ……資源の問題となればデリケートなことはわたくしも存じておりますわ、ですが錬金術で料理を作るという発想は……」

「うむ……」

「……そ、その……わたし……えと……」


 リリアもスタークも、さしものディアマンテが打ち出してきた大胆極まる発想には言葉が出ないのか、ただルヴィアリーラと同じように肩を落としてとぼとぼとロビーへ帰還していく他になかった。


 錬金術料理。


 やったこともなければ試そうとしたこともないそれをどうすればいいのかと、ルヴィアリーラは頭を抱えながらも、自分以上に困惑しているリリアを一瞥する。


(そうですわ、ここで挫けてなどいられませんもの)


 せっかくこの「魔力を帯びたインゴット」という難関課題をクリアして、アトリエを開くまで、あと少しというところまで漕ぎ着けたのだ。


 ここで諦めては女が廃るというものだ。


 いつも心配そうにしている義妹(いもうと)に対して、いつも自信過剰でいる義姉(あね)として振る舞うべく、王城を出たルヴィアリーラは小さく息を吸い込むと、豊かな胸を反らしてあーっはっは、と、笑ってみせる。


「……お姉様……?」

「このわたくしに! 無理難題は付き物! よく考えれば当たり前でしたわね! ならば……今が不可能を可能にするときなのでしてよ、リリア!」


 そうだ。誰もが不可能だと思うことを覆してこその錬金術師だと、かのクラリーチェ・グランマテリアだってそう言っていたはずだ。


 ルヴィアリーラは高笑いをあげながら、窮地だからこそ強がって大胆に笑う。


 とりあえずやらなければいけないことは脳裏で整理し終わった。


 ──ならば、やってやろうじゃねえかですわよ。


 親から譲られたわけでもない無鉄砲と反骨心を闘志に変えて、ルヴィアリーラは次なる皇国依頼である「錬金術料理」へと、果敢に挑みかかるのだった。

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