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41.そして二度目の皇国依頼、なのですわ!

 スタークが、ある人物を伴って、ルヴィアリーラのアトリエに現れたのは初の皇国依頼を成し遂げてから三日ほどが経ってのことだった。


 その間、ルヴィアリーラは冒険者組合からポーションの納品依頼などを受けて生活していたのだが、例によってどんちゃん騒ぎを起こし、資金が底をついたというわけではない。


 ただ単にルヴィアリーラはワーカーホリック気味な人間だったと、そういうことだ。


 窯から引き揚げたポーションを運ぶリリアは、慌ててフードで顔を隠しながらぺこり、と、スタークと、彼が連れてきた人物──ロイド・アイゼンブルクに一礼する。


 そして、ポーションを雑貨屋に納品するためにとてとてとアトリエを後にするのだった。


「取り込み中にすまない、新しい依頼の件なのだが」

「ご足労いただき感謝の至りですわ、ピースレイヤー卿。して、ロイド殿がご一緒、ということは……」

「ああ、まあ……そういうこったぜ」


 ロイド・アイゼンブルクはウェスタリア神聖皇国の中でも随一の腕を持つ鍛治師だ。


 故に、皇国が悲願としている「魔剣の量産」という課題をなんとかするために、機械文明時代のガーディアンから剥ぎ取った部品を集めてインゴットを作っている。


 そこまでは、何も問題はない。


 機械文明時代の金属は、デフォルトで、マナウェア加工と呼ばれる、魔力を金属にオーバーコートする技術が用いられているのだが、それは現代では再現不可能なロストテクノロジーなのだ。


 だからこそ、最初からマナウェア加工が施されている、ガーディアンの装甲を溶かし合わせて、インゴットを精製することで、それから魔剣を打ち出す試みを行なっているらしい。


 だが、そのロイドが今日ここにいるというのは、そういうことなのだろう。


「君の推測通り……次の皇国依頼は、マナウェア加工が施された良質なインゴットの生産ということになる」

「……随分と難易度が跳ね上がりましたわね」

「君にはすまないと思ってはいるが……これは皇国にとって急務なのだ。そして、スタリロ合板だったか、あれをご覧になった陛下はいたく君のことを見込んでいてな」


 スタークは眉根にシワを寄せ、嘆息しながらも、まるで子供のように目を輝かせ、神王ディアマンテが呟いていたことを思い出す。


 マナウェア加工には、鍛治師としての目と、そして魔法師としての魔力が必要となる。


 鍛治師が金属を最適な工程でインゴットにした上で宮廷魔術師クラスの魔法師が「魔力付与(エンチャント)」を行うことで魔力のオーバーコートは実現されるため、理論上、ウェスタリア神聖皇国ならばその再現は不可能ではない。


 だが、量産となると話が違ってくる。


 魔力付与(エンチャント)の魔法は儀式に時間がかかる上に、何よりそれだけ手間をかけるのならば素材とする金属も厳選しなければならないのだ。


 だからこそ、既にマナウェア加工を施されている、魔導機械の部品を使うことを皇国は目論んだのだが、その結果、生成されたインゴットは全て、剣を作るには適さない、粗雑なものだったのである。


「なるほど……神王陛下にお目かけいただいたとあれば、このルヴィアリーラ、奮起しないわけにはまいりませんわね」

「聞けば、君の錬金術は錬成する過程で素材に魔力を自然に付与しているそうではないか。期限は三ヶ月以内だ。皇国のためと思って、是非とも協力してほしい。私からは以上だ」


 是が非でも協力しなければいけない、の、間違いだろう。


 ルヴィアリーラはそんな建前に苦笑を浮かべながら、それだけ告げてアトリエを去っていくスタークの背中を見送った。


 多忙な身故に仕方がないのだろうが、今日も無愛想で、そして憮然とした彼の表情には変化が乏しい。


 取り分け、魔剣の量産の話になってからは尚更だ。


 そして、スタークが評していた──正確には、ルヴィアリーラが納品したスタリロ合板を鑑定した、アンリの受け売りなのだが、それはともかくとして、彼の言っていたことに間違いはない。


 地脈の力を借りて「覚醒」したルヴィアリーラの錬金術は、それが後が先かという違いはあれど、マナウェア加工に近い工程を踏んでいる。


 あのスタリロ合板が金属の性質を帯びていたことが、その証だろう。


 そして、一人取り残されたロイドは、気まずそうに頭をかいて、ルヴィアリーラへと頭を下げる。


「悪りいな、俺が上手くいかないせいで、あんたにも責任おっ被せるような形になっちまって……」

「仕方ありませんわ、元が無理難題というものですもの。それに……ロイド、貴方が困っているなら助けの手を差し伸べるのが、わたくしルヴィアリーラの使命というものですわ!」

「は?」


 やけにハイテンションに、豊かな胸を反らして高笑いを上げるルヴィアリーラに若干引きつつも、ロイドは、スタークが言っていたことを信じるつもりで、一瞬、素に戻りながらも平然とした表情を装う。


 このルヴィアリーラという女性はとにかく直情的で、損得勘定に疎いのだろうと、目を見ていればわかる。


 それにしたって限度があるというか、ロイドのような商売人から見れば、ルヴィアリーラのその、誰彼構わず手を差し伸べる姿勢は、極めて危ういものに見えるのだ。


「こほん! とりあえず、インゴットさえ造れば、魔剣の製造には問題がありませんのね?」

「ああ、そいつに関しては保証するぜ。適切な素材があれば、あんたがさっき釜に突っ込んでた剣みたいな業物だって作ってみせるぜ」

「ふむ……これ、業物でしたのね」


 しれっとそんなことを宣うルヴィアリーラにまたもロイドは愕然としそうになったが、営業スマイルを維持しながら白い歯を見せ、ビシッと親指を立ててみせた。


 ルヴィアリーラは武器にこだわりがあるわけではない。


 ただ、数ある武器の中でも、この星剣アルゴナウツが自身に一番馴染んで、そして多少雑に扱っても刃こぼれしないから使っているというだけの話だ。


 プランバンがこの剣を「重くて役に立たない」と評していた理由はよくわからない。


 ルヴィアリーラは羽根のように軽いと感じているし、現に振り回す時だって指先に吸い付くように馴染んでいるのだ。


 だから、もし装備を新調する必要があるのなら、それはリリアのためになるだろう。


「しかし、魔力を帯びたインゴットですの……」


 ロイドも去って、一人静かになったアトリエでルヴィアリーラは考え込む。


 いくら錬金術による「覚醒」が可能になったとはいえ、そこら辺に転がっているウェルナン鋼石や一年氷石、フォイエルストンといったランクの低い素材では、魔導機械から作ったインゴットと同じ結果にしかならないだろう。


 魔剣というのは、どんなに格が低くとも質の良い金属と魔力からしか生まれ得ない。


 だからこそ、魔剣。


 そして魔剣の中でも格が高く、神々の領域に近いものこそを聖剣と呼び、その逆で、ありったけの呪いや怨みを込めて作り上げるものは呪剣と呼ばれるのだ。


「はてさて、どうしたものか、考えものですわね……」


 とりあえず、必要になるのは良質な魔力を内に秘めた鉱石、ということになるのだろうか。


 ルヴィアリーラは溜息と共に考えるが、正解までの道筋は中々浮かび上がってこない。


 前回と違って、三ヶ月という猶予が与えられたのは、つまりはそういうことなのだろう。


 これでコルツァ材の時のようにすんなりとアイディアが浮かんでくれるのならいいのだが、人生そう上手くいくものではないというのは、婚約破棄を宣言されて冒険者に身をやつしたことからよく知っている。


 ルヴィアリーラは、錬金釜の近くに置いてあるデスクに腰かけると、頬杖をついて、前途多難な依頼に、そっと溜息を吐き出すのだった。

爆薬令嬢、大いに悩む

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